医療機関でも秘密計算活用、千葉大病院は耐性菌の動向把握や患者のプライバシー保護に
大豆生田 崇志
日経クロステック/日経コンピュータ
医療機関でも秘密計算活用、千葉大病院は耐性菌の動向把握や患者のプライバシー保護に | 日経クロステック(xTECH)
「大学病院の複数診療科でこれまで解決できなかった課題に挑んでいる」――。千葉大学医学部付属病院次世代医療構想センターの吉村健佑センター長・特任教授がこう期待を込めるのは、消化器内科など6つの診療科で進めている、秘密計算を用いたNTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)との共同研究だ。
千葉大病院とドコモビジネスの共同研究で使うのは、ドコモビジネスが提供する秘密計算のクラウドサービス「析秘(セキヒ)」だ。析秘は複数のデータを無意味な複数の断片データにして分散して保持し、データを復元せずに演算処理ができる。
千葉大病院は析秘を用いて、複数の医療機関が互いのデータを明かさずに地域で薬剤耐性菌の状況を把握したり、根治療法がない疾患の経過観察をする際に患者のプライバシーを守ったりしている。
複数の医療機関で薬剤耐性菌の動向を把握
共同研究の1つは、千葉県内の医療機関の約30施設が抗生物質の効かない薬剤耐性菌の発生状況を地域で把握する試みだ。秘密計算によって、医療機関が互いに詳細なデータを明かさずに地域の動向を分析できる。
薬剤耐性菌は患者が処方された薬を服用し切らなかったり、必要のない抗菌薬を服用したりすると発生しやすいという。耐性菌による死亡者数は2013年に世界で70万人に上り、何も対策を打たなければ2050年の死亡者数はがんによる死亡者数を超えると予測されている。
しかし医療機関は自らの施設の耐性菌の詳細な発生状況をあまり知られたくない。そこでドコモビジネスは析秘を用いて、医療機関がデータを明かさずに地域ごとの耐性菌の発生状況を比較分析できるシステムを開発。地域間や県全体で薬剤耐性菌の動向を可視化した。各医療機関は地域ごとの発生状況を比較したり、時系列の変化を追ったりできる。抗菌薬の適正な使用を促すための貴重なデータになるわけだ。
医療機関が互いのデータを明かさず薬剤耐性菌の発生状況を地域で把握
(出所:NTTドコモビジネスの資料を基に日経クロステック作成