「自分のために作られたよう」な服の秘密
仏誌が徹底解剖! 東京発アパレルブランド「45R」の「ないものづくり」
ル・マガジン・デュ・モンド(フランス)
Valentin Pérez
ジーンズのバックポケットに控えめに刺繍された「R」の文字──。「知る人ぞ知る」存在だったブランドはいま、パリやニューヨークをはじめ、世界の主要都市にいくつもの店舗を構える、日本の顔になりつつある。東京発アパレルブランド「45R」の本社に仏誌記者が訪れた。
そのブランドの本社が入居するのは、東京・南青山にある8階建ての70年代建造のビルだ。大通りに面し、張り出したガラス窓が特徴である。
「45R」──秘密の暗号を思わせる社名を持つ創業47年のこのブランドは、ファッションショーを催したことは一度もない。雑誌に広告を出したこともなければ、インフルエンサーにお金を支払ったことも、記者を追いかけまわしたこともない。モードに詳しい人でも、このブランドについて尋ねると「フォーティファイブの後に何とおっしゃいましたか?」と首をかしげることが幾度かあった。
「よそと違って、あまり騒がれてほしくありませんから」。社長の髙橋慎志は穏やかに言う。
「自分たちの好きなことをブレずにやってきました。自分たちのスタイルやこだわりを突き詰めてきたんです。わかる人にはわかってもらえます。触って、風合いを感じてもらって初めて理解できるブランドなんです」
そんなブランドの理解者は大半が日本在住であり、45Rの国内店舗は35店を数える。とはいえ、海外店舗も2000年以降増えはじめ、23店舗になった。北京、成都、香港、上海、深セン、シンガポール、台北、ニューヨーク……。デニムが強みのブランドだけに、ジーンズゆかりの地サンフランシスコにも店を構える。
「信奉者の間でカルト的人気を誇る」とは、45Rを知る人がよく口にする言葉だ。手染めのジーンズ、花柄のワンピース、絞り染めのストール、ジャカード織りのジャケットに一度魅了されると、その世界にのめりこんでしまうという。
パリだけでもマレ地区、サン=ジェルマン=デ=プレ地区、フォーブル・サン=トノレ通りに3店舗がある。店を訪れる客が購入するのは、デニム製品に限らない。むしろツイード、オックスフォード、ポプリンのジャケットやシャツを買う客が多いらしい。
品物の値段は日本よりも高い。それでもファンは200ユーロ(約3万4000円)以上する黒、紺、グレー、パステルグリーンの薄手のセーターを手にとる。ジーンズは600ユーロ(約10万3000円)を超え、ジャケットはさらにその倍の値段になるものも珍しくない。
こう語るジャン=ギー・ゲランは、電気通信会社の営業部長だ。アルジェ通りに面した明るい色の板張りが特徴の45Rの店舗を訪れていた。藍染めのジーンズを穿き、45RのTシャツとセーターを重ね着している。先日、注文したカーキ色のハンティングジャケットの仕上がりを待っているという。
フランス人写真家のオリヴィエ・ケルヴェーンも言う。「45Rのパンツを試着してみたら、私がこれまで愛用してきたヴィンテージの古着と同じような感触でした。パッとわかるんですよね。『自分のために作られたみたいだ』と感じる着心地なのです」。ケルヴェーンは、45Rの2024-25年冬春のシーズンビジュアルを葉山で、2025年夏のシーズンビジュアルを長崎で撮影した
髙橋の執務室は東京本社の8階にある。ウッドブラインド越しに光が差し込む広い一室を創業者の井上保美と共有している。輝く瞳を持つ小柄でエネルギッシュな井上は、手首にターコイズのブレスレットを着けている