菅野智之35歳「オリオールズで過ごすのは明日が最後かも」トレード“ほぼ確実”の心境を語った「全てを受け入れる覚悟」「絶対、今が全盛期だと思う」

今やトレード市場で熱視線を浴びる菅野 photograph by Getty Images
35歳の“オールドルーキー”が海の向こうで旋風を起こしている。今シーズンからMLBボルチモア・オリオールズに移籍した菅野智之だ。先発ローテーションの中で安定した投球を続け、今や移籍市場でも注目を集めている。菅野本人に、自身の去就について偽らざる思いを聞いた。 〈全2回の後編/前編も公開中です〉
【伝説の3ショット】長嶋茂雄さんがプロ1年目の菅野智之に優しく声をかけて…ミスターと菅野、おじの原辰徳との貴重な写真を見る
こんなはずじゃなかった−−。
オリオールズに関わる人間のみならず、球界関係者の多くがそう感じているかもしれない。 ア・リーグ東地区の優勝候補だったチームは現在、最下位に沈んでいる。開幕してまだ2カ月。先発投手陣で奮闘する菅野智之は、早くもトレード放出候補として名前を挙げられている。
トレード交換要員として浴びる“熱視線”
例年、低迷するチームはこの時点で来季以降の再建に目を向け、プレーオフ進出を目指すチームに即戦力の選手を渡し、将来を有望視される若い選手を獲得する。上位チームに譲る交換要員は、1年契約や複数年契約の最終年に近い選手になることが多い。 菅野は1年契約。先発を任せれば大崩れせず、安定してイニング数を稼ぎ、四球が少なく、ゲームメークできる。補強のターゲットとして、上位になる存在だ。 「僕がコントロールできないと思うんです。そこに関しても。(トレードされたことを)言われるとしたら突然、言われるでしょう。明日言われるかもしれないし、それは分からない。だから、毎日の時間をとにかく大切にしようって。僕もやっぱこのチームで勝ちたいって思って入ってきた。いろんな縁があってここに辿り着いているわけだから」
トレードはほぼ確実…菅野の思い
仮にオリオールズの成績がこのままなら、菅野のトレード放出はほぼ確実だろう。それが、MLBのビジネスとしての側面だ。今季を“あきらめた”チームとプレーオフを見据えたチームで活発なトレードが行われるのは、メジャーにおいて7月の風物詩のようなもの。菅野はそんな未来も頭の片隅に置きつつ、今を懸命に過ごしている。 「明日(オリオールズで過ごすのは)最後かもしれない。仲良くなったチームメートもいるので、なるべくその時間を大切にしたい。やっぱり特別な思いもある。一日一日、大切にしたいなって思いで、今もやっています」 無論、このままチームが低迷を続け、トレード移籍することを前提としているわけではない。V字回復して、10月の戦いにこのメンバーで臨む。それこそが、1年契約で加入したこのチームで目指すことだ。 「それが一番です。それは間違いない。それを僕は一番望んでいます
苦しんだ4年間があったからこそ
2020年のオフに一度、叶わなかったメジャー挑戦。残留した巨人ではその後、ケガに苦しみながら不本意なシーズンが続いていた。2021年から6勝、10勝、4勝。 「2023年は(右肘の負傷で)開幕も一軍にいられなくて、自分の中でもどん底のシーズンだったんです。もっと振り返ると2021年がどん底だった」 メジャーを一時的に断念せざるを得なくなり、度重なる故障に見舞われた。そんな折、菅野を奮い立たせた2人がいる。1人は、プロゴルファーで2023年の賞金王、中島啓太だ。菅野とはハワイでのトレーニングをともにしており、弟分のようであり、アスリートとして尊敬する存在だ。 「ずっと『菅野さん』って来てくれる。日本のトップゴルファーである啓太くんが『好きな野球選手は菅野選手です』、と言った時に『え? あんな人を応援してるの? 』って(周囲に)思われたくない。俺もかっこいい自分でいなきゃいけない。ダサい自分ではダメだ、と。カッコ悪い自分を応援させちゃいけないって思ったのが、まず一つのきっかけでした」
菅野の心を動かした長野久義の言葉
もう一人は、巨人の盟友、長野久義だ。菅野が19歳のときからの付き合い。長野もハワイで合同自主トレをする仲間だ。菅野の浮き沈みを誰より近くで見てきた。 「ご飯を食べている時とかふとした時に『俺はトモがアメリカで投げているとこ見たいな』って言ってもらえたんですよ。こんな僕にもまだこうやって夢を見てくれる人がいるんだな、って……」 これらの出来事が、菅野の心に火をつけた。 「これはもうやんなきゃいけない。とにかくチームが優勝するためにもそうだし、最後にやっぱり菅野ってすげえなって思われる1年にして、しっかり(優勝など)全部達成した上でもう一回メジャーに挑戦しようって、その時に決めました。(2023年の)12月に」
「全てを受け入れる覚悟です」
今まで感覚的だった投球フォームを見直した。調子が悪くなったときに立ち帰られるように技術を整理。イメージする体の動きと実際の動きが異なることを理解し、そのギャップを埋めた。それが投手としての自信を裏付けている。選手として人間としての成長を実感しているからこそ、確信していることがある。 「僕はラストチャンスと思ってきているわけだから、全てを受け入れる覚悟です。そうでなければ、色々なことが起きても楽しくないと思ってしまう」 メジャーで投げるタイミングはポスティング移籍を目指した4年前ではなく、今季でよかった。「それはめっちゃそう思いますよ」。そう、即答した
35歳「今が全盛期だと思う」
「色んな人に言われるんですよ。もうちょっと早く(メジャーで投げる)菅野智之を見てみたかった、とか。でも僕は正直、4年前に(ポスティングで)来ていたとして、今より活躍できたとは思わないです。それは確実に。 何でかというと、今より(投球の)引き出しも少なかったし、こうやって色んなことを受け入れられる覚悟、その心のキャパシティも小さかったと思う。挫折もその時まで、ほとんど経験していなかったから、何か起きた時に対処できる力はなかったと思います」 投球の技術の高まりと人間としての成長。菅野智之は35歳を迎えた自分自身を、こんな言葉で評する。 「総合的に考えた時に絶対、今が全盛期だと思う。心も体も成熟できている状態」 一時は夢を諦めかけ、“どん底”を乗り越えてつかんだラストチャンス。やっと辿り着いたメジャーのマウンドに立てる感謝を胸に菅野は、腕を振っている。 〈「移籍1年目、活躍の理由」編からつづく
メジャーリーグPRESS」山田結軌 = 文
菅野智之35歳「オリオールズで過ごすのは明日が最後かも」トレード“ほぼ確実”の心境を語った「全てを受け入れる覚悟」「絶対、今が全盛期だと思う」(Number Web) -