米中関税で合意 無用な角逐に歯止めを
互いに課した高関税を巡る米国と中国の直接協議が、ひとまず合意に達したことは歓迎したい。協議終了後、両国はそれぞれ115%引き下げるとする共同声明を発表した。二大経済大国による摩擦深刻化が続けば、つながりの強い日本はもとより世界経済への悪影響は計り知れない。冷静な対話で一層の緊張緩和を図るべきだ
。
合意によると、
米国の中国に対する関税は145%から30%、
中国の米国に対する関税は125%から、一部を除き10%に引き下げられる。
米国の相互関税と中国の報復関税のうち24%については90日間停止して、協議する。
スイスで10、11日に行われた関税措置を巡る初の米中閣僚級協議では、中国の習近平国家主席の側近である何立峰(かりつほう)副首相と、米国のベセント財務長官らが会談。協議終了後に記者会見したベセント氏は「双方ともにデカップリング(切り離し)を望んでいないという点で一致している」と述べたほか、何副首相も会見し、双方が「重要なコンセンサスに達し、新たな経済対話の枠組みを設けることで合意した」と表明した
米中両国とも、貿易戦争の緩和に向けて「大きな進展」があったと強調した形で、市場には安心材料と受け取られ、アジアや欧州の株式市場は上昇した。
トランプ米大統領は、協議前の9日には「中国に(145%でなく)80%の関税をかけるのが正しいようだ」と自身のSNSに投稿し、関税率引き下げをにおわせたが、実際には、さらに大幅な歩み寄りを見せた。背景には、高関税のままでは、輸入に頼る米国内の中小業者に壊滅的打撃を与えかねず、既に自身の支持率に悪影響が生じているなどの事情がある。
関税率引き下げに国内事情が影響しているのは経済停滞に苦しむ中国も同様だ。共産党機関紙の人民日報は協議初日の10日付で、米国の「無謀な関税の乱用」が世界経済の秩序を不安定にしたと批判する一方、スイスでの協議は「意見の相違を解決し、さらなる激化を回避する前向きな一歩」と論評していた。今回の合意で中国は、米国の強硬策に屈した形を避けつつ、振り上げた拳の下ろしどころを見いだしたともいえる。
政経両面で角逐が激しさを増している両国だ。攻撃と報復の応酬の悪循環に歯止めをかけることこそ、大国の責務であろう