のびのび遊ばせたい!
日本の「保育園留学」に子供を参加させたがる香港人がこれほど多い理由
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(中国
Mabel Lui
幼い我が子にいろいろな経験をさせてあげたい──そう願う多くの親を惹きつけるプログラムが、日本で展開されている。海外の子供たちを受け入れる「保育園留学」だ。香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が取材した。
親子で日本に飛び込んだら
2024年初頭、インスタグラムを見ていたジョイス・チェンは、とある広告に目を引かれた。「ジャパン・プリスクール・エクスチェンジ」というプログラムの広告だ。家族で日本へ行き、そこで1週間から3ヵ月間、子供を保育園に通わせることができるのだという。
詐欺かもしれないと思ったチェンは、このプログラムについて聞いたことがあるか、友人たちに尋ねてみた。誰もが知らないと答えたが、それでも彼女は思い切って問い合わせのメールを送ってみることにした。
返信が届き、そこに書かれていた情報に安心した彼女は、3歳になる娘のエブリンをプログラムに参加させることを決める。2024年の夏、母娘、そしてチェンの両親は、香港から新潟県の沖合にある佐渡島へ向かった。
一家はそこに1週間滞在した。平日の午前9時前、チェンは娘を沢根保育園に送り届け、午後になると迎えに行き、15分ほど離れた宿泊先まで車で戻る。
このプログラムがエブリンに、新鮮な、外国ならではの学習体験をもたらすことをチェンは期待していた。
「エブリンは香港でカトリック系の幼稚園に通っているのですが、そこはちょっと厳しいんです」とチェンは言う。そこでは、子供たちは指示を待つ傾向にあるそうだ。
「でも、日本の子供たちはただ座っているのではなく、何かできることを探したり、自分のしたいことをやったりするんです。子供たち全員が毎朝集まって、その日にやりたいことを話し合います。それを叶えるために先生が手助けをするんですよ」
結果として子供たちは自発的に行動しており、学校環境に適応するにつれて、その資質は娘にも見られるようになったとチェンは語る。
香港で教育系の職に就くジャクリーン・レとニコルソン・シウもまた、息子のアーサーに教育の機会を与えるため、プログラムに参加することを決めた。「息子には異文化に触れてさまざまな人々と出会い、より勇敢になってほしいのです」とレは言う。
夫妻はフェイスブックの広告でプログラムを知った。2024年8月、一家は1週間のプログラムに参加すべく、広島県の竹原市へ向かった
普通の観光」とは違う体験ができる
ジャパン・プリスクール・エクスチェンジは、2021年に山本雅也が設立したプログラムだ。山本がこのアイデアを思いついたのは、神奈川県横浜市に住む2歳の娘を、北海道厚沢部町にある保育園に通わせたときだった。
「横浜では、(山本の)娘が遊ぶ場所はコンクリートの小さな一画に限られていました」と、プログラムの担当である蒋倩玉は語る。「対照的に、北海道では広々とした自然のなかで自由に探索し、成長することができたのです」
この体験が娘に良い影響を与えたことを目の当たりにした山本は、他の子供たちやその親にも同じような機会を提供できるサービスを思い描いた。参加すれば、一家は通常の観光にとどまらない形で日本を体験でき、子供たちは文化や自然に触れることができる──蒋はそう語り、次のように続ける。
「それに、日本は少子化に直面しています。地方では特に深刻です。そうした地域にプログラムを通して多くの家族を呼び込むことで、子供と親の人生を豊かにするだけでなく、地域経済を活性化させ、少子化による保育園の閉鎖を防ぎ、日本独自の保育文化を守ることにもつながるのです」
プログラムはまず日本国内向けのサービスとして始まり、2023年には外国人を対象にしたサービスも開始した。現在までに、香港、シンガポール、台湾、オーストラリア、米国から参加者が訪れている。
行き先は日本国内にある25以上の地域から選択可能で、滞在期間は1〜3週間の短期か、1〜3ヵ月の長期かを選ぶことができる。これまでに2000家族以上がプログラムに参加しており、うち260組が外国人家族だ。香港からは約20組が参加している。
「香港やシンガポールの家族は、自然が多い場所を選ぶ傾向があります」と蒋は言う。喧騒の多い両都市とは対照的な経験が得られるからだ。
選ぶ地域によって体験できることは少しずつ変わってくる。たとえば、厚沢部町の保育園では野菜の収穫体験ができるかもしれないし、新潟の佐渡島は、山と海の両方に囲まれている
日本の保育園はのびのびしている
チェンと彼女の家族は佐渡島を選ぶことになった。最大の理由は、他の地域に空きがなかったことだ。
「かなり離れた地域です。旅行先としてはなかなか選ばない場所だと思います」と彼女は言う。でも同時にこう思った──試してみるのもありじゃない? 値段だってそこまで高くないし。
プログラムの料金はさまざまだが、1週間の目安は、親1人と子供1人で約35万円。親2人と子供1人が3ヵ月滞在すると、300万円ほどかかる。料金には宿泊費と園の費用が含まれるが、食費や飛行機代、交通費、その他の費用は含まれず、プランナーによる語学サポートなどが追加されるため、国内向けプログラムよりも高くつく。
佐渡島に着いたチェンは期待以上の体験をした。「もっと長く滞在すればよかった」と彼女は言う。庭と小さな池が正面にある、設備の整った2階建て一軒家の宿泊施設に、一家は感銘を受けた。チェンが言うには「ドラマにそのまま出てきそうだった」。
幼稚園のスケジュールは単純で、送り迎えが中心だ。午前中には、子供たちが昆虫を捕まえたり、木に登ったりしているのを、チェンは見たという。香港の幼稚園にはない光景だ。
「泥も水も何でもある庭で子供たちを走り回らせて……転ぶことも、失敗することも、そのままさせるのです」とチェン。「香港ではありえません。ほとんどの親が『それは危険すぎる』と言うでしょうから」
自然を利用した遊びには多くの利点がある。屋外を探索することは、子供の運動能力や創造性、認知能力の発達に役立つことが研究で示されているのだ。
2021年に「Early Childhood Education Journal」誌で掲載されたある研究では、屋外で遊んだ子供は、その後に屋内の課題にもきちんと取り組む傾向が高く、問題を起こすことが少ないと示されている
たった1週間でも子供は変わる
レとシウもまた、提供された宿泊施設に感銘を受けた。彼らはゴルフリゾートにある2階建ての建物に滞在し、約2万5000香港ドル(約46万円)を支払った。
保育園自体が半日制ではなく1日制という点で、香港とはすでに異なっていた。竹原にある中央こども園にはエアコンがなく、子供たちは伝統的な玩具や粘土、手工芸品で遊んでいた。初日は適応するのに苦労したアーサーだったが、日が経つにつれてすぐ快適に過ごすようになった。
シウが言うには、こういったプログラムに参加するにあたって、保育園に通う年齢の子供は最適だ。この年代の子供たちはまだ身振り手振りが多く、コミュニケーションやサバイバルスキルを自然に学ぶことができるからだ。
「言葉の壁はそれほど大きなものではありません」とレは言う。「彼らは自分たちなりのコミュニケーション方法を身につけることができるのです」
1週間が終わる頃、彼らの息子は日本語を少し覚え、冒険心が豊かになっていた。レは次のように語る。
「ここが私たちの家になると息子は思っていたようで、彼は自分自身を適応させ、順応できるよう頑張っていたのだと思います。香港では麺類しか食べませんでしたが、先生たちが撮ってくれた写真を見ると、ご飯や魚、野菜も食べていました」
多くの教師は英語を話せなかったが、翻訳機を使ってコミュニケーションをとるのは簡単だったとレは言う。ジャパン・プリスクール・エクスチェンジが開設した、各先生や宿泊施設のオーナーと繋がるLINEグループチャットにも、翻訳機能が組み込まれているそうだ。
どちらの家族も、他の家族にこのプログラムを勧めたいと語った。ただ、もしもう一度参加できるとしたら、1週間ではなく2週間にして、子供たちが順応して新しい友達を作る時間を増やしたいと言う。
「長く滞在するほどより深い体験ができて、長く記憶に残るでしょう」とレは述べる。また、チェンはこう付け加えた──「親にとっても最高の体験になりますよ。24時間体制で子供の面倒を見ることなく、旅行ができるのですから
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