元の学校ならこんなに変われなかった」、不登校生の傷ついた心包み込む…「学びの多様化学校」に密着#令和の子
バンドのボーカルとして歌う美咲さん。全校生徒の前で笑顔をふりまいた(中央)(3月7日、大阪市立心和中学校で)=宇那木健一撮影、画像の一部を修整しています
不登校の小中学生は2023年度、過去最多の34万6482人に上った。文部科学省は、子どもたちが通いやすいよう指導内容や授業時間数を柔軟に決められる「学びの多様化学校(旧称・不登校特例校)」の開設を呼びかけている。その一つ、大阪市立心和(しんわ)中学校(浪速区)に密着した。
「みんな、楽しんでね!」 3月7日、心和中の体育館で開かれた卒業前の校内行事「OWAKAREフェス」。3年の山本美咲さん(15)(仮名)はマイクを手に、ステージから生徒ら約50人に呼びかけ、4人組バンドのボーカルとして3曲を披露した。 心和中は、大阪市教育委員会が昨年4月に開校した。美咲さんは中学2年までの2年間、不登校だった。
1年間ベッドで
小学校の頃から、一人の同級生女子との関係に悩んできた。この女子の指示で5人ほどの友人から無視された。中学入学後も、友人と話しているところに後から入ってきて追い出された。美咲さんは背が高く、「小さい方がかわいいやんな」と嫌みも言われた。
耳鳴りや頭痛などに悩まされ、早退や遅刻を繰り返した。中学1年の6月下旬の朝、ベッドから立ち上がろうとすると前が見えなくなった。 それから約1年間、ほとんどベッドで過ごした。一日中、ゲームをしたり、ユーチューブを見たり、将来への不安が募って何度も泣いた。2年の夏からは週3回、市の通所ルームに通ったが、授業はなく、物足りなさを感じた。
「このままだと終わる」。焦っていた時、中学の先生から心和中を勧められた。母親(47)からも「行きたいと思えるなら行けばいいよ」と背中を押され、「学校に通い、自立した大人になりたい」と転校を決めた。
登校時間は午後
心和中は昨年4月、閉校した小学校を改装し、2年生6人、美咲さんを含む3年生20人でスタートした。全員が別の市立中で不登校だった生徒だ。10月にも生徒を受け入れ、全学年で66人になった。
朝起きようとするとめまいや頭痛がする生徒が多く、登校時刻は午後1時15分。授業は年770時間で、通常(1015時間)の4分の3となっている。登校後に心身が不調となる生徒のため、ソファで休める「リラックスルーム」を設けた
廊下には校内図のボードが置かれ、生徒は自分の名前が書かれたマグネットを貼り付けて居場所を知らせる。そうすれば、授業中であっても、どこで過ごしてもいいルールだ。
元々、社交的な美咲さんは通い始めると、同級生に「ヤッホー!」「何してるの?」と積極的に話しかけた。校則はなく、メイクやネイルも自由だ。「緩いところがすごくいい」 それでも、学校にいると頭痛が起きた。1学期に通えたのは週2、3日。遅刻も多く、つらい時は保健室で過ごした。夏休みの終わり、気持ちを奮い立たせ、2学期は週3、4日、登校できた。
先生たちはいつも優しかった。遅刻しても登校したことをほめてくれる。テストの点数も悪いが、叱られたことはない。インテリアに興味があると知れば、大手家具販売店へ職業体験に行かせてくれた。 当初、先生たちの間では「生徒に甘すぎるのでは」との意見もあったが、校長の盛岡栄市さん(62)は、だからこそ、また学校へ通えるのだと考えている。「決して生徒を責めず、包み込む。生徒たちもつらい経験をしたので、友達を思いやれるんです」
見つけた可能性
美咲さんは、今では「心和中は自由すぎる」と思う。嫌いだった校則も、「あった方がしっかりした人になれるだろうな」と考えるようになった。 同級生女子からけなされ、コンプレックスだった高身長も、今は自分の長所だと胸を張る。周囲に「ファッションモデルになりたい」と宣言し、レッスンスタジオに通っている。母親は「登校できたのはもちろん、生徒の個性を大事にしてくれる学校で自分の可能性を見つけられたことが大きい」と喜んでいる。 美咲さんは4月から専修学校へ進学する。大学に行きたい気持ちも強い。「転校して本当によかった。元の学校なら、こんなに変われなかった」
300校設置目指す
文部科学省によると、病気などの理由を除き、年間30日以上欠席した不登校の小中学生は、11年連続で増加している。いじめや家庭環境、障害などに起因しているとされる。
政府は全国の教育委員会と私立校の運営法人に「学びの多様化学校」の開設を呼びかけている。昨年4月時点で、小中高校35校が開校。政府は27年度末までに全都道府県・政令市に1校ずつ、将来的には全国300校の設置を目指している
「元の学校ならこんなに変われなかった」、不登校生の傷ついた心包み込む…「学びの多様化学校」に密着#令和の子(読売新聞オンライン)