米国でライダイハン特集を放送!隣国全土が大混乱する内容とは

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

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歴史の痛みを忘れないということ

ハン・ガンが語る「自分自身の悪夢と、韓国という国の悪夢」

 

 

ニューヨーク・タイムズ(米国)

 

Text by Victoria Kim

 

韓国人作家初のノーベル文学賞受賞者となったハン・ガンは、自身の著作を通じて、韓国の歴史に残る、いまも癒えない傷と向き合いつづけている。2024年12月に尹錫悦大統領が非常戒厳を発令したことによる政治的危機を、彼女はどう見たのか。米紙「ニューヨーク・タイムズ」がインタビューした。

縫い目に針を入れる


ハン・ガンの最新小説には、木工作業中の事故で二本の指先を切り落としてしまう人物が登場する。外科医が再接着するが、その処置はぞっとするような苦痛に満ちている。3分に一度、それも数週間ずっと、看病人が慎重かつ冷静に、それぞれの指の縫合部分に深く針を刺して血を抜くのだ。指先が壊疽するのを防ぐために。
 

 

「ずっと血が出つづけてて、私が痛みを感じるようでないといけないの。じゃないと、切れた神経の上の方が死んじゃうから」(斎藤真理子訳)


ハンは自身の作品のなかで、自国の歴史に残る傷の縫い目に針を入れ、徹底的に探った。彼女が掘り下げたのは、韓国の最も陰惨なふたつの事件だ。ひとつは1980年に光州市で起こった「光州事件」で、民主化を求めるデモが軍に弾圧された際、240人以上が死亡・行方不明になったとされる。もうひとつは1948年に済州島で起こった「済州4・3事件」で、数万人の人々が殺害された。

2024年10月にノーベル文学賞を受賞して以来、ハンは国内外で幅広い読者を惹きつけている。済州島を舞台にした小説

 

「別れを告げない」

 

 

の英訳版は、米国では1月末に刊行されたが、韓国では2021年に出版された。
 

韓国の独裁政権時代を扱った彼女の作品は、同国の大統領が戒厳令を出した昨年12月以来、ますます重要性を増しているように思われる。

ノーベル賞を受賞してから人目を避けてきたハンは、珍しく応じたインタビューで、12月に起きた出来事について、いまも熟慮していると語る。彼女は過去にも自身の作品で、韓国の現代史における悲劇的な出来事を扱ったことがあるが、別の歴史的悲劇を扱うつもりはまったくなかったという。

だが、光州事件を題材にした小説

 

「少年が来る」

 

を2014年に発表した後、彼女は悪夢に悩まされるようになった。

何千もの不気味な黒い木の幹が、雪に覆われた丘の上に並び立っているところに、海がひたひたと押し寄せてくる──つきまとって離れないこのイメージの意味を理解しようとして、彼女は済州島に行き着いた。この南の島はアクアマリンの海に囲まれ、温暖な旅行先として有名だ。

この地こそが、1947年から1954年にかけて、米軍の暗黙の支援のもと、推定3万人が警察官、兵士、反共産主義の自警団によって殺害された場所だ。犠牲者の3分の1が女性、子供、高齢者だった。
 

『別れを告げない』の主人公で作家のキョンハは、「K」と呼ばれる都市についての作品を発表した後、繰り返す悪夢にさいなまれ、豪雪が襲う済州島をとぼとぼと進む。その道程は、虐殺事件に苦しめられたある一族の数世代にまつわる事実の解明につながっていく。

ハンは言う。韓国の痛ましい時期について、きわめて個人的な遭遇という形で書くことは、自分の感情に、あらゆるところで起こった残虐行為の犠牲者の経験と、それを思い出すことを決してやめない人々との深い結びつきを残した、と。

「それは痛みであり血なのですが、生の流れでもあり、死んだままにされたかもしれない部分と、いま生きている部分とをつないでいるのです。死者の記憶と現在に生きる者とをつなぐことで、物事が死なないようにする。これは韓国の歴史だけでなく、全人類についても当てはまると思いました」

 

 

 

 

ハン・ガンが語る「自分自身の悪夢と、韓国という国の悪夢」 | クーリエ・ジャポン