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三菱リコール隠し

 
 
 

三菱リコール隠し事件(みつびしリコールかくしじけん)とは、2000年平成12年)7月6日運輸省(現:国土交通省)の監査で発覚した三菱自動車工業(以下、三菱自動車)の乗用車部門およびトラックバス部門(通称:三菱ふそう、現在の三菱ふそうトラック・バス)による、大規模なリコール隠し事件をいう。

概要

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2000年のリコール隠し事件

 

2004年のリコール隠し事件

 

死亡事故

 

一連のリコール隠しにより、2002年に2件の死亡事故が発生した。

横浜母子3人死傷事故

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2002年(平成14年)1月10日、神奈川県横浜市瀬谷区下瀬谷三丁目にある県道45号(中原街道)の下瀬谷二丁目交差点付近[24]で、大型トレーラートラックのトラクターの左前輪が外れて下り坂を約50メートル転がり、ベビーカーを押して歩道を歩いていた大和市在住の母子3人を直撃する事故が発生した[25][26]。この事故で母親(当時29歳)が背中からタイヤの直撃を受け[25]、頭を強く打って[27]外傷性くも膜下出血で死亡した[25]。また、長男(当時4歳)と次男(当時1歳)も手足に軽傷を負った[26][28]

事故車両は、同県綾瀬市内の運送会社が所有していた三菱ふそう・ザ・グレート(1993年7月製造[29])で、重機を積載して片側2車線の走行車線[注釈 1]を走行していた。外れたタイヤは直径約1 m、幅27.8 cmで[25]、重量はホイールを含めて約140 kgあった[26]

神奈川県警察が実況見分を行ったところ、事故を起こした車両はハブが破損し、タイヤホイールブレーキドラムごと脱落したことが判明[31]。三菱自動車製の大型車ハブ破損事故は、1992年(平成4年)6月21日に東京都内で冷凍車の左前輪脱落事故が確認されて以降計57件発生し、うち51件で車輪が脱落していた[28](うち事故車両と同じ1993年製のD型ハブが7割を占めていた[32])。

三菱自動車側は一貫して『ユーザー側の整備不良が原因だ』と主張したが、事故を起こした車両と同じ1993年(平成5年)に製造された三菱自動車製のトラックに装着されているD型ハブの厚みが、その前後の型や他社製よりも薄い構造であった。ねじ締付け管理方法を怠り、六角ボルトの締付トルクを強く掛けすぎた場合やカーブや旋回時に掛かる荷重により金属疲労が生じ、ハブが破断しやすいことも判明した[33]

これを受け、三菱ふそうは2004年(平成16年)3月24日、製造者責任を認めて国交省にリコールを届け出た。さらに同年5月6日、宇佐美ら5名が道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で、品質保証部門の元担当部長ら2名が業務上過失致死傷容疑で逮捕され(5月27日に起訴)、法人としての三菱自動車も道路運送車両法(虚偽報告)容疑で刑事告発された[28]

なお、この事故で死亡した女性の遺族である母親が、約1億6,550万円の損害賠償を三菱自動車に請求する民事訴訟を起こし、2007年(平成19年)9月、三菱自動車に550万円の損害賠償支払いを最高裁判所が命じ、確定判決となった。このとき、原告の訴訟代理人を担当した青木勝治弁護士は、損害賠償金を代理人である自分の銀行口座に振り込ませ、遅延損害金を含めた約670万円を預かった。しかし、訴訟当初の約1億6,550万円の請求額を基に、弁護士報酬額を約2,110万円と算定し、「自分が預かっている約670万円と相殺する」と通知して、原告に対して損害賠償金を一切渡さなかった。

2010年(平成22年)6月、横浜弁護士会は「当初550万円としていた賠償請求額を一方的に1億6,550万円に増額し、これに伴う報酬の変動についても、原告に説明せず、いきなり2,000万円以上という高額報酬(最高裁判所で確定した賠償額は、当初の請求額である550万円)を原告に要求した」などとして、青木に対して弁護士業務停止6か月の懲戒処分を下した[34]

山口トラック運転手死亡事故

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2002年(平成14年)10月19日の深夜、山口県熊毛郡熊毛町(現・周南市)の山陽自動車道熊毛インターチェンジ付近で、鹿児島県内の運送会社に勤務していた同県国分市在住の男性(当時39歳)が運転する9トン冷蔵貨物車が、料金所を減速なしで通過、インター先で合流する県道8号の中央分離帯を乗り越え、道路脇に設置された歩行者用地下道の入口構造物に激突した。冷蔵車は大破し、男性は死亡した[35][36]

事故を起こした冷蔵車は横浜の事故と同様のザ・グレート[37]で、関係者や当時の記録によると、プロペラシャフトの一部が脱落した後、車体側に残されたシャフトが振り子のような異常振動を始めた。料金所へ向かう急な下り坂のS字カーブに入ったとき、振動はさらに激しくなり、シャフトに並行して設置されているブレーキ配管が破壊され、制動不能に陥った。

山口県警察はこの事故に関して、通常、関西方面に向かう自動車が熊毛ICで降りることはないため、運転手が何らかの異常を感じ、点検のため高速道路を降りようとしたのではないかとみて現場検証を行った。その結果、ICの手前約3.4 kmの地点に、事故を起こしたトラックから脱落したプロペラシャフトの一部が発見され、路面には脱落時にできたとみられる窪みも確認された。同県警では整備不良と車両欠陥の両面から捜査を行っていたが原因は不明のままに終わり、死亡した男性が道路交通法違反(安全運転義務違反)容疑で被疑者死亡のまま送検された。

しかし2004年、山口地方検察庁は「事故は構造的な欠陥を抱えていたプロペラシャフトが破断し、それがブレーキ系統を破壊したことによって引き起こされた」と最終的に判断し、男性を改めて不起訴処分とした[38]

刑事訴訟

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リコール隠し(道路運送車両法違反)

 

2006年12月13日、横浜簡易裁判所は過去の報告のうち9件は虚偽と認めたが、「国土交通大臣による報告要求がなく、国土交通省リコール対策室による要求であり犯罪成立要件を満たしていない」として、無罪判決とした。しかし、2008年7月15日、東京高等裁判所は、リコール対策室に権限が委ねられており国交相も了承しており犯罪が成立するとしてこれを破棄し、宇佐美ら3人と法人としての三菱自工に対し、それぞれ求刑通りの罰金20万円の有罪判決とした[39]

2010年3月9日、最高裁判所第1小法廷は被告側の上告を棄却し、宇佐美ら3人の有罪が確定した。法人としての三菱自動車も、二審有罪判決の上告を行わず有罪が確定している[40]

 

 

 

 

 

横浜母子3人死傷事故(業務上過失致死傷)

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2007年12月13日、横浜地方裁判所は「欠陥の把握は可能だった。放置すれば人に危害が及ぶことも容易に予測できた」と認定し、元市場品質部長と元同部グループ長の両被告にいずれも禁錮1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

2009年2月2日、東京高等裁判所は元市場品質部長と元同部グループ長の両被告にいずれも禁錮1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した地裁判決を支持し、両被告の控訴を棄却した。判決では、「事故原因を強度不足と断定できなくても、その疑いがあった時点でリコールしていれば2002年の事故も防止できた」として、両被告の過失を認定した。

2012年2月8日、最高裁判所は上告を棄却し有罪判決が確定した。事故原因については、過去に多数発生した破損事故にハブの摩耗の程度が激しくないものも含まれていたなどとして、「強度不足の欠陥があったと認定できる」とした。

 

 

 

 

 

 

山口トラック運転手死亡事故(業務上過失致死)

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この事故をめぐり、業務上過失致死罪に問われた件について、宇佐美を含む4名は、東京高等裁判所への控訴を取り下げ、横浜地方裁判所で言い渡された禁錮2年、執行猶予3年の有罪判決が確定している[42]

略年表

 

  • 1990年(平成2年)6月 - 大型自動車で確認できる最初のクラッチ系統の破損事故が発生[28]
  • 1992年(平成4年)6月 - 大型自動車で最初のハブ破損事故が発生[28]
  • 1996年(平成8年)5月 - クラッチ系統についてリコール対策会議が開かれる。欠陥を認識したが、リコールは届け出ず2000年にかけて「ヤミ改修」を続ける。
  • 1999年(平成11年)
    • 6月 - 広島県内でJRバス中国が運行する高速バス車両のハブが破損し、車輪が脱落。これまでに十数件のハブ破損があったが、元市場品質部長と同部グループ長は対策を怠り、母子死傷事故を引き起こした(2004年5月27日に業務上過失致死傷罪で起訴)。
    • 7月から8月 - バスの車輪脱落で個別対策会議[28]。運輸省に「整備不良」と報告することを決定[28]
  • 2000年(平成12年)
    • 7月6日 - 運輸省の抜き打ち監査により、リコール隠しが発覚。社長・河添克彦が引責辞任した。このときの調査対象を過去2年間のみとしたため、それ以前の欠陥問題に手が付けられることは無かった。これを最初に報じたのは『読売新聞』7月18日付夕刊である[43]
    • 11月 - 河添の後任に園部孝(故人、- 2003年10月29日)が就任。園部は2002年6月から死去日まで会長職を務めた。
  • 2002年(平成14年)
    • 1月10日 - 横浜市でハブ破損による母子死傷事故発生(前述)。三菱自動車側はトラックの異常は運転者の整備不良だと主張。
    • 1月から2月 - 母子死傷事故をめぐる「マルT対策本部会議」が技術的根拠もなく、ハブの交換基準を決定。
    • 2月 - 宇佐美らが国交省に対しハブについて、技術上根拠がないまま「摩耗が0.8 mm以上のハブを交換すればタイヤ脱落を防げる」と虚偽の報告(2004年5月27日に起訴)。
    • 10月16日 - 横浜市でトラクターのクラッチ系統が破損。国交省には「整備不良が関係。多発性なし」と報告。
    • 10月19日 - 山口県熊毛町でクラッチ系統の破損でブレーキが利かなくなった冷蔵車が暴走し、運転手の男性が死亡(前述)。三菱自動車側は、トラックの異常は運転者の整備不良だと主張。
  • 2003年(平成15年)10月24日 - 母子死傷事故で、神奈川県警が業務上過失致死傷容疑で三菱自動車本社などを家宅捜査。2004年1月にも再捜査。
  • 2004年(平成16年)
    • 3月11日 - 三菱ふそうの2度目のリコール隠しが発覚。
    • 5月6日 - 三菱ふそうの宇佐美前会長ら7人を神奈川県警が逮捕(後に三菱ふそうの元部長2人については「宇佐美らの指示に従う立場で、関与の程度が低い」として釈放)。
    • 5月27日 - 横浜区検察庁横浜地方検察庁が道路運送車両法違反(虚偽報告)などの罪で、6日に逮捕された7人のうち5人と、法人としての三菱自動車を起訴。
    • 6月2日 - 三菱自動車が乗用車で「ヤミ改修」があったことを発表。延べ4000人以上を動員して1979年以降のデータを全て自主的に調査し、発表した。また三菱ふそうも大型車の欠陥問題で29人の処分を発表。
    • 6月10日 - 三菱自動車の河添元社長ら元役員6人を業務上過失致死傷の疑いで逮捕。
    • 6月14日 - 新たに43件のリコールを発表。国交省への欠陥リークを受けて、1週間後の14日に発表。この欠陥が原因の事故は、人身事故が24件、火災事故は101件。
  • 2005年(平成17年)
    • 3月30日 - 三菱自動車は法人として、リコール隠し当時の旧経営陣に対し、民事訴訟を提起。
    • 4月15日 - 前年9月届出のリコールに対する再リコールを発表。原因を解明できぬままリコールを実施したため、対策実施済み車に火災事故が4件発生。加えて再リコールに先立つ緊急点検における作業手順の徹底不足による、2件の火災事故発生が明らかになる。

軽自動車エンジンに関する問題

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国交省の調査の結果、法律違反はなかったとされたものの、軽自動車エンジン(3G83型)のオイル漏れの不具合については、2005年(平成17年)2月に把握していたにもかかわらず、2012年に国交省に内部告発がなされるまでリコールを行わないなど極めて不十分な対応があった。詳細は三菱自動車・3G83エンジンに関する問題を参照。

 

テレビ番組

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  • ガイヤの夜明け 一つの嘘で会社が消える 〜問われる企業倫理〜(2002年11月24日、テレビ東京)[54]
  • NNNドキュメント04 スペシャル 三菱自動車“リコール隠し”の真実(2004年7月25日、日本テレビ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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三菱自はなぜ「経営統合」を見送るのか? 独自路線で生き残れる? 78万台vs300万台……見送りのリスクとASEAN市場の未来を考える

 

Merkmal

三菱自の戦略とリスク

三菱自動車のロゴ。2020年1月22日撮影(画像:EPA=時事)

 

 

 

 日本経済新聞が2024年12月18日に、ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議を開始したと報じてから、1か月以上が経過した。そして、2025年1月24日付の読売新聞朝刊では、三菱自動車(以下、三菱自)が経営統合への合流を見送る方針であることが伝えられた。 【画像】「えぇぇぇぇ!」これが三菱自動車の「平均年収」です! 画像で見る(12枚)  三菱自は株式上場を維持しつつ、ホンダや日産との協業関係を強化し、 ・車両の相互供給 ・技術提携 などの可能性を模索していくと見られる。  本稿では、三菱自が強みを持つ東南アジア市場での優位性が合流見送りの背景にあると仮定し、独自路線を選択することの課題とリスクについて検証する。

 

 

 

 

 

東南アジア市場の現状と将来性

2025年1月23日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

 

 

 

 

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要5か国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)は、経済成長が著しい地域のひとつとして知られる。若年層の人口比率が高く、都市化が急速に進展していることに加え、中間層の増加が続いており、自動車需要の大幅な拡大が期待されている。特にタイは 「アジアのデトロイト」 とも呼ばれるほど自動車産業が盛んで、政府による支援政策も充実している。一方、インドネシアはASEAN最大の人口を背景に、乗用車や二輪車で大きな市場を形成している。さらに、ASEAN各国政府が進める電気自動車(EV)促進政策により、今後のEV市場の成長にも期待が集まっている。しかし、 ・各国で異なる規制 ・輸入関税の障壁 ・インフラ整備の遅れ といった課題も存在する。これらの要因が市場拡大を鈍化させる可能性があるほか、グローバル経済の動向や為替変動の影響も、ASEAN市場の競争環境を一層複雑なものにしている。

 

 

 

 

ASEANにおけるポジション

三菱自動車・トライトン(画像:三菱自動車)

 

 

 

 

 ASEAN市場は長年にわたり日系自動車メーカーの牙城であり、 「8割」 近いシェアを維持してきた。3社のグローバル販売台数に占めるASEAN販売比率を比較すると、ホンダと日産が1割程度であるのに対し、三菱自動車は約3割を占めており、ASEANが三菱自にとって主要マーケットであることは明白だ。  三菱自が2023年3月に発表した中期経営計画「Challenge 2025」では、ASEANおよびオセアニア地域を成長の原動力と位置づけ、経営資源を集中させる方針を示している。この計画に基づき、より多くの新商品を投入し、台数シェアと収益の拡大を目指している。  また、三菱自は日本でも2024年2月から販売を開始したピックアップトラック「トライトン」やMPV「エクスパンダー」などで、ASEAN市場において圧倒的なブランド力を持っている。一方、ホンダや日産も一定の販売シェアを維持しているものの、三菱自を経営統合に取り込むことでASEAN市場での販売力を強化したいという思惑があったと考えられる。  しかし、三菱自にとって経営統合による明確なメリットは乏しく、合流に値しないと判断した可能性が高い。さらに、今後ASEAN市場では 「中国EVメーカー」 の台頭が予想されており、競争が一段と激化する見通しだ。そのなかで三菱自は、ASEAN市場での優位なポジションを堅持し、自社の存在感を一層強化したいという意向が見え隠れしている

 

 

 

 

経営統合参加のメリット・デメリット

2024年12月に開催されたタイ国際自動車エキスポ(画像:タイ国際自動車エキスポ)

 

 

 

 

 

 2024年のグローバル販売台数を見ると、三菱自の販売台数は約78万台である。一方で、ホンダと日産はともに300万台を超えており、三菱自がこの3社の中で存在感を十分に発揮できない状況が浮き彫りになっている。こうしたなか、三菱自が経営統合に参加することで得られるメリットとデメリットを考察する。  メリットとしては、スケールメリットの活用が挙げられる。既存の生産工場や部品調達ネットワークを利用することでコスト削減が可能となり、経営効率を高めることができる。また、EVやソフトウェア定義型自動車(SDV)、自動運転といった先端技術の共同開発が進むことで、開発効率の向上が期待できる。さらに、経営統合によって新しい市場やセグメントへの進出が容易になることで、市場シェアの拡大も見込まれる。既存の生産工場を補完する形で現地生産能力が強化され、商品供給の迅速化も可能になるだろう。  一方で、デメリットも多い。経営統合によるブランド価値の低下が懸念される。複数ブランドが併存することで統一性が失われ、従来のブランドイメージが弱まる可能性がある。また、統合に伴う意思決定プロセスの複雑化により、迅速な経営判断が難しくなり、競争環境への即応性が損なわれるリスクも否定できない。  さらに、提携関係が競合他社との競争を不利にする場合も考えられる。具体的には、日系メーカー同士が市場シェアを奪い合う間に、 「中国メーカーなどの新興勢力に市場を浸食される恐れ」 がある。異なる企業文化を統合する難しさも課題であり、文化的な対立が統合効果を抑制する可能性もある。  これらの要素を総合すると、三菱自が経営統合への合流を見送った背景には、ブランド価値の希薄化や競争力低下への懸念があり、意思決定の複雑化や企業文化の違いといった課題が大きく影響したと考えられる。

 

 

 

 

 

 

独自路線を進む上での課題とリスク

ASEAN(画像:外務省)

 

 

 

 

 

 三菱自が最終的に独自路線を選択した場合、いくつかの課題とリスクが浮上する可能性がある。まず、技術革新の遅れだ。EVやSDV、自動運転といった分野で独自開発を進める場合、技術的な進展が他社に遅れを取るリスクがある。業界全体での技術競争が激化する中、単独でこれらの分野に対応するのは厳しいと考えられる。  次に、開発費負担の増大が挙げられる。独自開発には巨額の研究開発費が必要となり、それが短期的には利益率を圧迫する可能性が高い。経営統合の場合、3社で開発費を分担するスキームが検討される見通しであったが、独自路線を選ぶ場合、その負担を全て自社で背負うことになる。こうした資金的な重圧が経営に影響を与える可能性が否めない。  さらに、市場適応の遅れも懸念材料だ。現地ニーズに素早く対応するためには、現地企業やパートナーとの緊密な連携が重要になる。しかし、独自路線ではこうした連携が不足し、情報量や対応力の面で競合他社に劣る可能性がある。市場の変化に即応する力が乏しければ、競争力を失うリスクも高まるだろう。  最後に、地政学的リスクへの対応が課題となる。ASEAN地域は比較的安定しているものの、一部の国では政情不安や規制変更が突発的に発生することがある。経営統合であればリスクを分散する仕組みを構築できるが、独自路線ではリスク分散が難しく、予期せぬ影響を受ける可能性がある。  以上のように、独自路線には複数の課題が潜在しており、それらへの対応が経営戦略の大きな鍵を握ることになる。

 

 

 

 

 

三菱自、競争優位を守る戦略の行方

三菱自動車のウェブサイト(画像:三菱自動車)

 

 

 

 

 ASEAN市場は成長ポテンシャルが極めて大きい一方で、中国メーカーの積極的な進出により競争が激化する見込みだ。  三菱自がこの地域での優位性を維持するには、柔軟な戦略と独自の強みを活かした取り組みが欠かせない。競合他社との競争と協業のバランスを慎重に見極めながら、市場に最適化したアプローチを展開することで、持続的な成長を実現する必要がある。  三菱自は1月末をめどに経営統合への合流可否を最終判断する予定だ。この動きは同社の今後の戦略に大きく影響を及ぼす可能性があり、その決定を注視する必要がある。

成家千春(自動車経済ライター)

 

 

 

三菱自はなぜ「経営統合」を見送るのか? 独自路線で生き残れる? 78万台vs300万台……見送りのリスクとASEAN市場の未来を考える(Merkmal) - Yahoo!ニュース