自国のCLTとボヘミアンガラス全面採用、高難度の万博「チェコ館」は大末建設が施工
川又 英紀
日経クロステック/日経アーキテクチュア
自国のCLTとボヘミアンガラス全面採用、高難度の万博「チェコ館」は大末建設が施工 | 日経クロステック(xTECH)
2025年4月13日の
開幕まで3カ月を切った大阪・関西万博の会場では、
建設が遅れている海外パビリオンが山場を迎えている。
そんな中、
大屋根(リング)内部の南側で、
海外パビリオンの理想的な姿と言えそうな「チェコ館」が間もなく完成する。
同館の特徴は、
建物に自国のCLT(直交集成板)パネルと
伝統工芸であるボヘミアンガラスを全面採用していることだ。
パビリオン建築そのもので、チェコの魅力や技術力を強くアピールしている。
チェコ館の外観。ファサードにボヘミアンガラスを使用(写真:Office of the Czech Commissioner General)
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CLTの構造体とガラスのファサードが25年の年明けに完成したのを受け、チェコは同年1月10日にメディア向けのパビリオン見学会を開催した。パビリオンの外周を覆うガラスのらせん回廊は会場内でも目立つ。表面に装飾を施したボヘミアンガラスは、入館しなくても外から眺められる。
チェコ館の入り口付近からの見上げ(写真:日経クロステック)
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現地を訪れて感じたのは、チェコ館は立地に恵まれているということだ。敷地面積は996.23m2、延べ面積は2348.52m2と中規模のパビリオンだが、目の前が大きく開けていて見晴らしが良い。ほぼ正面に、会期中は毎晩、水上ショー「アオと夜の虹のパレード」が開催される「ウォータープラザ」の水盤と舞台空間が広がる。
チェコ館は屋上まで上れるので、日没後は海風を感じながら水上ショーや会場の夜景を一望できる。ウォータープラザの先には瀬戸内海が続く。チェコビールを片手に、夕涼みするには絶好の場所だ。
チェコ館の屋上からは、水上ショーが開催される「ウォータープラザ」がよく見える(写真:日経クロステック)
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パビリオンの基本設計は公開建築コンペで選ばれた、チェコなど欧州を拠点とする建築設計事務所アプロポス・アーキテクツ(Apropos Architects)が手掛けている。コンペではパビリオンの外周を覆うガラスのファサードが高く評価された。実施設計にはアプロポスと共に、日本のフランク・ラ・リヴィエレ・アーキテクツ(東京・世田谷)が参画している。
アプロポス・アーキテクツの提案に基づくチェコ館の完成イメージ(出所:Office of the Czech Commissioner General)
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構造は木造(CLT造)、一部鉄骨造。地下1階・地上3階建てで、高さは約17m。構造体に利用するCLTパネルとファサードに使うボヘミアンガラスはいずれもチェコで製作し、船便で8〜10週間かけて日本まで運んだ。
CLTパネルとガラス板は、チェコでパビリオン用に加工済みだ。会場の大阪・夢洲(ゆめしま)では、組み立てるだけでパビリオンが完成する状態にしている。現在は内装工事や空調設備などの設置を進めており、25年3月の竣工を予定する。
施工途中のガラスファサード。構造体はCLTパネルで構成(写真:Office of the Czech Commissioner General)
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施工は中堅ゼネコンの大末建設が担当している。同社は大阪市に本社を構え、1970年の大阪万博でもパビリオン建設に関わった。今回の万博でも大阪の建設会社として施工に携わりたいと考え、チェコと縁があり施工を請け負った。大末建設がチェコと契約を結んだのは24年4月であり、着工は同年5月だ。チェコにしてみれば、開幕に間に合わせるにはギリギリのタイミングである。
そもそも施工者の選定が24年春までずれ込んだのは、「日本の関係当局にCLTパネルや主要な連結要素の試験結果や追加情報を提出し、強度を証明するのに時間を要したからだ」。チェコ政府代表のオンドジェイ・ソシュカ氏は、そう説明する。CLTパネルの接合部などには、強度を高めるため鉄骨を追加している。地震や台風のような災害が少ないチェコでは、日本ほど高い強度が求められないという。
パビリオンは木造だが、日本で求められる強度を確保するため一部鉄骨造とした(写真:日経クロステック)
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大末建設の村尾和則社長は、「チェコ館での経験を生かして海外の仕事や都市木造に挑戦していきたい」と意欲を示す。ただし、チェコ側はチェコ語の代わりに英語を使うが、それでもコミュニケーションの難しさから複雑な図面の読み解きに苦労しているという。チェコ館の完成イメージが公開されたとき、「独特な形状のパビリオンを開幕までに完成させられるのか」と心配する声が上がっていたほどだ。
施工を手掛ける大末建設の村尾和則社長(中央)(写真:日経クロステック)
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金属構造をほとんど使わず、
CLTを主体とする木造建築としては
国内最大規模になる
チェコ館は施工の難易度が高い。
CLTの使用量は約1600m3ある。
それでも大末建設は
25年1月6日に最後のガラスを取り付け、
予定より3週間ほど早い約半年間で作業を完了した。
大末建設の村尾社長は、
「CLTパネルとガラス板を組み立てるため、
チェコの職人が来日した。
非常にスキルが高く、
日本の職人に負けない堅実な仕事ぶりに感銘を受けた」と話す。
ガラスファサードで覆われたらせん回廊は、全長が約210mある。回廊の外に飛び出した部分はキャンチレバーで支える。回廊はひさしのように日よけにもなり、軒天はCLT現しになっている(写真:日経クロステック)
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ファサードに用いたボヘミアンガラスは青緑色に見える。表面には細かい模様が施されている。ガラス板の端を重ねていくデザインを採用(写真:日経クロステック)
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チェコ産のトウヒ(スプルース)や
マツなどの木材を使って製作するCLTは、
チェコで加工した部材を
バーコードで単品管理しながら輸入している。
それも会場での
施工スピードを上げられた要因の1つだ。
「チェコはCLTの加工や組み立てに慣れており、
技術力が高い。
CLTの活用では
日本よりかなり進んでいることを痛感させられた」(村尾社長