栄養価が高く、環境負荷が少ない「ウキクサ」は人類の“次のタンパク源”か

池などで栽培されるウキクサに注目が集まる Photo: Sina Schuldt / picture alliance / Getty Images
ブルームバーグ(米国)
Text by Jessica Nix
米食料品チェーン大手のホールフーズ・マーケット社は、2025年の食品トレンドとして「ウキクサ(ダックウィード)」を挙げている。栄養価が高く、栽培時の環境負荷が低いウキクサ。その可能性を米経済メディア「ブルームバーグ」が報じる。
食生活に革命をもたらす可能性
池などの水面で繁殖するウキクサのタンパク質含有量は最大で45%に達する。これはほかの野菜よりもはるかに高い。そのため、次世代のタンパク源としてウキクサの研究・開発に取り組む企業が増えている。
「ワナ・グリーンズ」というブランド名でウキクサを販売しているイスラエルのグリーン・オニキス社は、2024年に4700万ドル(約71億円)の資金を調達している。同社の製品には、ほうれん草よりも多くの鉄分、ケールやブロッコリーよりも多くの亜鉛、そしてほかのどの野菜よりも多くのカリウムが含まれているという。
栄養価が高いだけでなく、ウキクサは成長が早いことも特徴だ。24~72時間ごとに倍増し、年間を通じて栽培できる。少量の水と狭い土地でも発育するため、栽培時の環境負荷も少ない。
問題は、ウキクサが実際に美味しいのかどうかだ。グリーン・オニキスの共同創業者、ツィピ・ショハムはその味をこう表現する。
「ウキクサはクセのない味で、独特の食感があります。ピーナッツバターとジャムのサンドイッチに加えると、まるでポッピング・キャンディーのような食感になりますよ」
市場開拓に課題も
プレンティブルはウキクサからタンパク質を抽出する独自の手法を有しており、これまでの資金調達額は2700万ドル(約40億円)にのぼる。プレンティブルの食品はいま、米国食品医薬品局(FDA)の最終承認を待っている。
ウキクサを普及させようとする企業はほかにもある。タイのフロー・ウォルフィア社、英国のドライグロウ社、オランダのルビスコ・フーズ社、メキシコのミクロ・テッラ社も、ウキクサの新たな市場開拓を目指す。
しかしウキクサがふたたび注目を集める一方で、過去には失敗例もある。米スタートアップ企業である「レムネイチャー・アクアファーム」はフロリダの海でウキクサの栽培をし、商用化を目指していたが、2023年末に破産申請した。
同社CEOを務めたフランク・ジメネスは、ウキクサの市場を開拓できなかったことが事業の失敗理由の一つだったと明かしている。
これまでに次世代の食品として売り出された食品も、必ずしもスムーズに普及したわけではない。米ビヨンド・ミート社のような植物ベースの肉を製造する企業は、味や価格の高さ、栄養価などの問題で、顧客の反発に直面してきた。
そのため、次世代フード全体への投資は鈍化傾向にある。ブルームバーグが提供するエネルギー関連の調査サービス「BNEF」のデータによれば、持続可能なタンパク質を開発する企業への民間投資は2023年におよそ40%減少した
ウキクサに期待を寄せる意外な業界もある。NASAは、植物が宇宙でも生育可能かどうかを確かめるため、国際宇宙ステーションでウキクサを栽培するようグリーン・オニキスに依頼した。同社は2023年11月に、ウキクサのパックを宇宙に送り出している。
NASAは宇宙飛行士が長期飛行する際の食料源を探しているため、高栄養価で冷蔵保存も可能なウキクサに注目しているのだ。
グリーン・オニキス社はその後、イスラエル国内で一般向けの通信販売を開始。初回分はすでに完売したという。今後は米国での展開を検討しており、大衆市場への参入を目指す。
プレンティブルは輸入食品に依存する国々へのウキクサ普及を視野に入れている。同社の共同創業者フェキーニは、同業他社の動きをどうみているのだろうか。
「他社でさまざまな革新が起きているのを見るのは刺激になります。ウキクサの市場を皆で作り上げているのですから