生活道路に「ゾーン30プラス」じわり増加…段差などで速度抑制、振動懸念で整備が進まない県も

公園前の道路に設けられた段差「ハンプ」をゆっくり走る車(横浜市南区で)=画像は一部修整しています
生活道路に
段差や
ポールなどを設けた
「ゾーン30プラス」
と呼ばれるエリアが、
じわりと増えている。
通行する車の速度や量を抑え、事故を防ぐのが狙いで、国の制度化から3年で120地区超に整備された。ただ、景観や振動への懸念から住民の合意が得られず、整備がなかなか進まない県もある。国は自治体向けの手引を作るなどして、理解や普及に力を入れる。
(野崎達也) 【図表】「ゾーン30プラス」でとられている主な対策
横浜市南区大橋町の住宅街。一角には小学校があり、周辺の道路は通学路になっているが、「以前は幹線道路の
抜け道に使われ、
制限速度30キロを超えて走る車が多く
『怖い』
という声があがっていた」と、近くの男性(83)は話す。
男性ら地元住民や市、警察などが対策に乗り出したのは
2021年。
ゾーン30プラス
の制度を利用し、
危険性の高い11地点に、
高さ約10センチの緩い段差「ハンプ」や
ポールを立てて
道幅を狭めた
「狭さく」を設けるなどした。
効果はてきめんだ。国や市の調査では、
狭さく設置路線で車の平均速度が
時速35・5キロから
27・4キロ、
ハンプ設置路線で
42・5キロから30・0キロにそれぞれ低下した。
住民からは
「ハンプ通行時に振動が発生しないか」と不安の声もあったが、
男性は「思ったより振動も少なく、
車のスピードが落ちたと実感する人が多い。やって良かった」と話す。
幅員5・5メートル未満の狭い道路での
事故は昨年、
全国で7万3607件起きており、
このうち死亡事故は408件に上る。
ゾーン30プラスは、
生活道路での事故を減らすため、
21年に制度化された。
最高時速が30キロに制限される「ゾーン30」(11年導入)の
指定エリアに物理的対策をプラスして行うもので、
自治体は車の速度の調査や試験設置を行う際、国の支援を受けられる。
国土交通省によると、
今年3月時点で
128地区に整備され、
計画中も64地区に上る。
だが、4358地区のゾーン30に比べると少なく、未設置の県もある
ハードルとなっているのが住民の合意だ。
和歌山県は整備ゼロで、
和歌山市の担当者は
「ハンプを試験的に設置したが、住民から『車が通りにくくなる』
という声もあり、本設置には至っていない」と話す。
愛知県豊田市の国立豊田高専の山岡俊一教授(交通計画)が
19年、
生活道路に物理的対策を行うことの賛否を県民ら約1400人にアンケート調査したところ、
狭さくは
「景観への影響」などを理由に45%が反対。
ハンプについても
車の通行時の振動を懸念する人が多く、
反対が28%に上った。
山岡教授は
「振動を抑える技術も発達していることを知ってもらい、
安全対策の選択肢を増やすことが重要だ」と指摘する。
こうした課題を踏まえ、
国交省は今年度、
合意形成に成功した事例などを紹介する
手引を作成し、
自治体に配布する計画だ。
設置基準についても、
軽自動車の車幅に比べて、
狭さくの目安(幅3メートル)が広いため
「効果が限定的」との指摘もあることから、
見直しを進めている。
同省の担当者は
「豪雪地帯では除雪の妨げにならないようポールを着脱式にするなど、
工夫を凝らした事例もある。こうした先進事例を広く共有し、整備を促したい」としている。
法定速度の引き下げ、2026年9月に施行へ
幅員の狭い「生活道路」の自動車の法定速度について、政府は7月、一律に時速60キロから30キロに引き下げる改正道路交通法施行令を閣議決定した。2026年9月に施行される見通しだ。
ゾーン30については、
警察庁は法定速度の一律引き下げ後も、
「ドライバーへの周知効果がある」として制度を継続する方針だ。
国交省はゾーン30プラスについても引き続き、30キロ制限の道路を対象に拡大を目指す
生活道路に「ゾーン30プラス」じわり増加…段差などで速度抑制、振動懸念で整備が進まない県も(読売新聞オンライン)