黄金の円形屋根は「太陽の塔」を意識、伊東豊雄氏が現在と過去の万博を語る

インタビュー 伊東 豊雄 氏 伊東豊雄建築設計事務所

奥山 晃平
 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

大阪・関西万博の開幕まで250日を切った。催事を実施する主要施設の1つ、「EXPO ホール(大催事場、愛称シャインハット)」は、万博の開・閉会式が開かれる会場になる。巨大な円すい状の壁の上に、金色に輝く薄い円形屋根が載る。EXPO ホールの基本設計を手掛ける伊東豊雄建築設計事務所(東京・渋谷)の伊東豊雄氏に設計コンセプトを聞いた。そこには1970年に開かれた大阪万博への思いが込められていた。(聞き手は奥山 晃平=日経クロステック/日経アーキテクチュア)

インタビューに応じた伊東豊雄建築設計事務所の伊東豊雄氏(写真:日経アーキテクチュア)

インタビューに応じた伊東豊雄建築設計事務所の伊東豊雄氏(写真:日経アーキテクチュア)

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 EXPO ホールの建築的な特徴は何ですか。

 金色の薄い金属屋根は、直径が60mを超える大きさです。日本から世界に情報を発信したり、世界から情報を集めたりする「パラボラアンテナ」をイメージしてデザインしています。1970年に開催された大阪万博のシンボルである「太陽の塔」の最上部にある「黄金の顔」を意識しました。

EXPO ホールの建設現場。2024年6月撮影。実施設計や施工は、大成建設・昭和設計が71億1600万円で落札(写真:伊東豊雄建築設計事務所)

EXPO ホールの建設現場。2024年6月撮影。実施設計や施工は、大成建設・昭和設計が71億1600万円で落札(写真:伊東豊雄建築設計事務所)

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大阪府吹田市の万博記念公園に立つ「太陽の塔」。芸術家・岡本太郎(1911~96年)が制作し、現在まで残る(写真:日経クロステック)

大阪府吹田市の万博記念公園に立つ「太陽の塔」。芸術家・岡本太郎(1911~96年)が制作し、現在まで残る(写真:日経クロステック)

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 そんな円形屋根を支えるのは、大地から立ち上がってきたような物質感を持つ、ザラザラとした白い円すい状の壁です。外壁の仕上げには目の粗い吹き付け材を使い、屋根のツルツルした質感と対比させます。

「EXPO ホール」の外観イメージ。鉄骨造で、高さは約20m。2025年日本国際博覧会協会は大催事場基本設計業務の公募型プロポーザルを実施し、伊東豊雄建築設計事務所を最優秀提案事業者に選定した。基本設計業務の委託上限金額は約1億800万円(出所:2025年日本国際博覧会協会)

「EXPO ホール」の外観イメージ。鉄骨造で、高さは約20m。2025年日本国際博覧会協会は大催事場基本設計業務の公募型プロポーザルを実施し、伊東豊雄建築設計事務所を最優秀提案事業者に選定した。基本設計業務の委託上限金額は約1億800万円(出所:2025年日本国際博覧会協会)

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 建物の内部は真っ白な空間が広がります。

 当初は、太陽の塔のような深紅の内装も検討しました。ただ、プロジェクションマッピングによる映像演出などをすることも考慮し、壁面は白色にしました。(塗装するのではなく)白い布を壁に沿って設置し、建物内部全体を覆います。

 壁の布だけでなく、床面や客席も白く着色して真っ白な空間に仕上げます。一般的に劇場の内部は黒を基調としていますが、EXPO ホールは360度、白色で覆われる不思議な内部空間になります。

 そして天井だけが金色に輝く。実は屋根の金色とは光り方が異なります。天井は金属ではなく、紙素材を採用するからです。金属は光を反射してしまうので、映像をうまく投映できません。紙素材を使った天井なら、内部空間全体を使ったプロジェクションマッピングが可能になります。

EXPO ホールの内観イメージ。舞台より客席を見る(出所:2025年日本国際博覧会協会)

EXPO ホールの内観イメージ。舞台より客席を見る(出所:2025年日本国際博覧会協会)

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 建物には直径18mの円形ステージを設けます。それを半分囲むように約2000席の客席を並べます。

EXPO ホールの1階平面図。今後変更になる可能性がある(出所:2025年日本国際博覧会協会)

EXPO ホールの1階平面図。今後変更になる可能性がある(出所:2025年日本国際博覧会協会)

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 僕の事務所では2023年7月に水戸市で開館した「水戸市民会館」も設計していますが、EXPO ホールとほぼ同数の客席があるホールをつくりました。EXPO ホールの建設現場で建物内部のスケール感を実際に確認したところ、水戸市民会館のホールよりも大きく感じました。大阪・関西万博の来場者は、EXPO ホールの内部空間の広がりに驚くはずです。

市民が集う木のやぐら

 県内最大規模の大ホールを中心とした市民会館が水戸市の中心部に整備された。木組みの大空間をはじめ、市民が日常的に使える場所を随所に設けている。

2023/09/14

 建設資材の高騰は建築デザインに影響がありましたか。

 本当は建物の屋上に上がれるようにしたかったのですが、予算の関係で断念しました。後は楽屋などを少し簡略化した程度で、建物そのものは当初の計画から大きく変えていません

 

 

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