羨望の眼差しで英国人記者が取材

子供はほったらかし「のびのび子育て」ノルウェー人みたいな親になる方法

 
 
Photo: Cavan Images / Rachel Bell / Getty Images
 
 
 

 

ガーディアン(英国)

 

Text by Andy Welch

 

子供の幸福度がトップレベルの北欧諸国の子育ては近年、注目の的だ。それでは、どうしたら彼らのような親になれるのか。子供が生まれたばかりだという英「ガーディアン」紙の記者が、ノルウェーでその方法を探った。


午後1時30分、ニラとアリオンはいつもこの時間に学校から帰宅する。鍵を開けて家に入ると自分たちで手早く食事を作り、それが済むと宿題やピアノの練習、そして頼まれた家事をこなす。両親はあと数時間は帰ってこない。

ときには外出して、気ままに友達と遊ぶ。親から言われているルールらしいルールは、「やるべきことをすべて終えてから、テレビゲームなどのスクリーンタイムを楽しみなさい」くらいだ。

これは、ありふれた日常のように思われるかもしれない。だが2人はまだ10歳と8歳の姉弟で、大人の指示を受けない、このような半自立生活を未就学児だった数年前から続けている

 

 

 

 

 

ニラとアリオンはノルウェー南西部の港湾都市スタヴァンゲルに住んでいる。6歳で小学校に通いはじめてからずっと、ほかの友達と同じく、親の付き添いなしで歩いて登下校している。

そして小学校に入学してまもなく、家の鍵をそれぞれ渡された──これが、ノルウェー流の子育て。すこぶる自由放任で、子供の自主性と自己決定権と責任に重点が置かれ、そこに外で遊ぶ楽しさを少しだけ放り込んである。

私は2人については生まれたときから知っているが(姉弟の両親とは親友だ)、子供たちに与えられている自由度の高さにはいつも驚かされる。彼らの家を訪ねるたびに、私を含む何百万もの英国人が育てられたやり方と比較せずにいられない

 

 

 

 

1980年代の英国式子育ては抑圧的で制限的というわけではなかったが、子供の自主性に関しては、ノルウェーほどには高い価値を認めていなかった。

ニラとアリオンの父ジャンカルロ・ナポリに言わせれば、「この国ではこれが当たり前。自分たちと同じような育て方をしてない親なんて考えられない」。
 

英国人のジャンカルロは、旅行中にノルウェー人女性のレナと出逢った。そしてレナと結婚すると、スタヴァンゲルに移住した。近くにある大学で教える彼は、いまやノルウェー社会にすっかり溶け込み、ノルウェー流のびのび子育てクラブの忠実なる会員でもある。

このような子育ては、ほかの国の人間が北欧諸国の人々に対して抱く、よくあるイメージと一致する。高い生活水準に、手厚い出産・育児休暇、卓越した美的センス。それに国連の「世界幸福度報告」で、ノルウェーは7番目に幸福度が高く、GDP(国内総生産)は世界10位。政府系ファンドの規模は世界最大、犯罪率は世界最低を誇る。

しかし、ノルウェー流の放任主義的子育ての考え方はノルウェー人の懐よりも深く、この国の充実した公共サービスよりもはるかに長い歴史がある

 

 

 

信頼関係が基本


はるか昔の9世紀頃、ヴァイキングの子供たちもかなり現在と近い方法で育てられていたという証拠がある。彼らは大人の一員のように扱われ、どんな仕事も協力して手を貸すことが求められた。それは、ひとつの生き方だった。

トロムソ大学で子供のメンタルヘルスを研究するウィリー=トーレ・モルク名誉教授は、ヴァイキング流子育ての現代版は、第二次世界大戦後に注目されるようになったと話す。
 

ノルウェーのインフラの大半は、ナチス占領時代に破壊された。戦後に発足した新しい労働党政権は、子供も含め、全ノルウェー国民が国の再建に貢献すべきだと考えたのだ。

「子供たちには強さとたくましさが求められ、独立心と忠誠心を持つよう訓練されました。おそらく、現代の保護者はこのような国の歴史を意識しているわけではないでしょう。しかし、子供との信頼関係を築くことは現代ノルウェーの子育てで、いまも親子関係の基本であり続けています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=============================================================================================

 

 

 

遊び方、褒め方、学び方…

子供の幸福度が世界トップレベルの北欧諸国に学ぶ「子育ての7つの極意」

 
 
 
 
Photo: Geilo / Getty Images
 

 

ガーディアン(英国)

 

Text by Helen Russell

 

2020年に発表されたユニセフによる子供の幸福度ランキングで、日本の子供たちは「身体的健康」で1位だった一方、「精神的幸福度」では38ヵ国中37位、総合では20位だった。同ランキングで総合上位を占めたのは、デンマークやノルウェー、フィンランドといった北欧の国々だ。英国からデンマークに引っ越した筆者が、現地で学んだ北欧流の子育てとは──

 

 

 

何から何まで違う


息子が燃やした木のにおいをまとって幼稚園から帰宅し、「ナイフの使い方」を習ったと言ったとき、私は面倒なことになったと思った。彼の双子のきょうだいが2歳の誕生日にノコギリをねだってきたとき、もう後には戻れないとわかった。私はヴァイキングの母親になってしまったのだ。

こんなはずじゃなかった。当時、私には子供もおらず、軽い気持ちでロンドンからデンマークに引っ越してきた。1年だけの滞在のつもりが、10年経ってもまだここにいて、3人の子供もいる。だから、子供たちがヴァイキングになるのに、私も一枚かんでいるわけだ。

北欧の子供はいろいろと違う。食べ方、勉強の仕方、遊び方、服の着方、寝方まで違う。赤ん坊は氷点下のなか、ベビーカーに乗せて外で昼寝させる。歌い、ケンカし、木に登って、落ちて、また立ち上がる。一日のうち何時間も自然のなかで過ごす。天気が悪くてもおかまいなしだ。
 

北欧人に楽天的な人はめったにいない。楽しいことをするのにも、偶然に任せるよりきっちり計画を立てるのを好む。それなのに、子供の幸福度ランキングで、北欧諸国はいつも上位を占めている。

彼らの子育て法のなかには、普遍的に通用するものもあれば、インスピレーションを与えてくれるものもある。北欧流の子育てについて、私が学んだことを紹介しよう。
 

1. 毎日いろいろな方法で遊ぶ


北欧では、遊びはとても重要だ。クイーン・モード大学のエレン・ベアーテ・ハンセン・サンドセーター教授は次のように述べる。

「子供の成長を追った研究によれば、高いところを怖がるのは木に登って落ちて足を骨折した子供ではなく、木に登ったことのない子供なのです」

「戦いごっこ」も、子供が協調性や自信、適切な判断を学ぶ機会であり、成長するうえで重要なものだ。「ときどき子供を戦わせないとだめよ」と、あるデンマーク人の母親に言われたことがある。子供は「衝突を経験して、話し合いを通じて自分たちでそれを解決できるようになる」必要があるという。これは勇気がいることかもしれないが、長い目で見れば役に立つ(と私は教わった

 

 

 

 

 

2. 何を考えるかではなく、どう考えるかを教える


北欧の子供は6歳(フィンランドでは7歳)になるまで学校に行かない。10歳までは授業も半日で、成績やテスト、宿題もなく、ゆっくりと学校生活に慣れていく。ケンブリッジ大学教育学部の博士課程に在籍するサビラ・エブー・アルワニは、これは望ましいことだと考える。なぜなら、「早くから宿題を大量に与えると、成長のうえで大事な時間が失われる」からだ。

デンマークの教育制度は、生徒の関心にしたがって教えることを基本にしており、「子供たちはテストで点をとる方法だけでなく、考える方法を教わる」のだと教師のルイーズ・リンガードは言う。

子供たちは6歳から人前で話す練習をして、自分の意見を言えるようになる。読み方を習うのはそのあとで、8歳ごろからだ。15歳になるまでには、北欧諸国はOECDの学力ランキングで平均より上に位置するようになり、フィンランドは総合で英国や米国を上回る。

教育制度の違いに関係なく、子供自身の興味や関心を伸ばしてあげること、そして自分のペースで本を読ませてあげることが重要だ。研究によると、あまり早くから子供に読むことを強要するとストレスになる。また、読みはじめたのが遅い子供が早く読みはじめた子供に簡単に追いつき、追い越すこともわかっている