不正疑惑に揺れる米国建築家協会
幹部に不正支出や称号審査への介入の疑い
島津 翔
シリコンバレー支局
不正疑惑に揺れる米国建築家協会 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
米国建築界が疑惑に揺れている。
米国建築家協会(AIA)と
その幹部に対して
不正支出などの疑惑が生じた。
不当解雇でAIAを提訴する動きもある。
AIAは潔白を主張するが、疑念は払拭できていない。
「AIAで起こっている縁故採用や汚職について聞いたことがある人は?どうやら事態は深刻なようだ」
米国の掲示板サイトで
AIAの元会員と自称する人物がこう投稿したのは2024年3月。
不正の告発に100を超える返信が付き、注目を集めた。
「残念ながら(不正は)全て事実だ」
「もう会費を払う必要はない」といったコメントが相次いだ。
AIAは
1857年に
設立された建築設計者の専門職能団体で、
会員数は約9万6000人(2022年時点)。
米国最大の建築関連組織の1つだ。
不正の噂はすぐに広まり、
24年4月には
AIAの元会長22人が
AIA本部に対して
その真偽を問う書簡を提出した〔図1〕。
この問題を初めて報じた米ブルームバーグによれば、
書簡は予算の不正な執行、
幹部による縁故採用、
職場における報復行為などの真偽をただす内容だった。
〔図1〕AIA幹部に生じた疑惑の経緯
AIAの不正疑惑に関する経緯。第三者の弁護士事務所が調査しており、疑惑は完全には晴れていない。写真は2023年の年次イベントで撮影(出所:取材を基に日経アーキテクチュアが作成、写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]
「CEOが個人的に計画を変更」
あるAIA会員によれば、
元会長らが特に疑念を抱いた不正の対象は、
24年3月の社員旅行だったという。
AIAは
全従業員を対象に
ドミニカ共和国へ慰安旅行を行った。
元会長らは書簡で
「財政難のこの時期に、このような支出をした理由を説明してほしい」と問うた。
しかし、事態は単に
「財政難にもかかわらず社員旅行を敢行」というお粗末な話では終わらない。
AIAの元幹部で弁護士のオナ・テレンス氏は
6月6日、
不当解雇と
名誉毀損、
契約違反などを理由に
AIAをコロンビア特別区の高等裁判所に提訴した。
社員旅行を巡るさらなる不正があったと主張している。
訴状によれば、
AIAの法務最高責任者に就いていたテレンス氏は
ドミニカへの社員旅行について、
AIAのラキーシャ・ウッズCEO(最高経営責任者)が
個人的に計画したことを知り、
AIA内部の調査に乗り出した。
当初、AIA人事部は
本部のあるワシントン市内での全従業員会議を予定していた。
それを覆し、
ウッズCEOがドミニカへの旅行に変更し、
かつ個人の旅行サイトアカウントを利用して
全てのポイントを獲得していたという。
テレンス氏は
ウッズCEOが旅行会社を経営していることも指摘している。
テレンス氏の調査では、
ウッズCEOが個人的に
AIAの契約弁護士事務所を利用し、
その費用をAIAに請求した事実も判明したという。
これらの会計上の疑惑について、
テレンス氏はAIAの財務責任者などに報告書を提出。
内容について説明するため取締役会に出席しようとしたが、
ウッズCEOに阻止されたとテレンス氏は主張する。
取締役会の約3週間後、
「人種差別があった」として
AIAはテレンス氏を解雇した。
同氏はこの解雇が違法であり、
経済的損失と
精神的苦痛を受けたとしている