ピエトロ・ベッカーリが仕掛ける挑戦

ルイ・ヴィトンCEO「バッグを売るだけではない文化企業を目指している

 

ルイ・ヴィトンのピエトロ・ベッカーリCEO Photo: Stephane Cardinale / Corbis / Getty Images

 

フィナンシャル・タイムズ(英国)

 

Text by Kati Chitrakorn and Adrienne Klasa

 

2023年にルイ・ヴィトンのCEOに就任したピエトロ・ベッカーリは、LVMHグループ内でスピード出世を遂げてきただけでなく、元プロサッカー選手という異色の経歴の持ち主だ。

ラグジュアリー業界が厳しい局面にある現在、ベッカーリはルイ・ヴィトンを単なる高級ブランドから、ライフスタイル全体を束ねる文化企業に変化させようとしている。その新たな挑戦について、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が聞いた。


ある画像が、ソーシャルメディア上で大きなセンセーションを巻き起こした。サッカーのスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシが、ルイ・ヴィトンの旅行かばんの上でチェスに興じる画像である。

それはルイ・ヴィトンの2022年のキャンペーン画像で、当時インスタグラム上で最もいいねを集めた投稿となった。そして今回、年商200億ユーロ(約3兆4000億円)の世界最大の高級ブランドは、新しいキャンペーンで世界的テニス選手のラファエル・ナダルとロジャー・フェデラーを起用する。再びスポーツ界のスター選手二人組でセンセーションを巻き起こそうとしているのだ。

ルイ・ヴィトンのCEO、ピエトロ・ベッカーリ(56)にとって、この二人の組み合わせはいわばクーデターだった。ルイ・ヴィトンを文化的大企業に作り替えてさらに成長させるべく、ベッカーリが現在の役職に就いてから、まだ1年あまりしか経っていない。
 

「世界中探しても、ルイ・ヴィトン製品といっさい関わりのない家庭なんてありません」。ベッカーリは、パリから「フィナンシャル・タイムズ」のビデオインタビューにそう答えた。

「私たちのように、人々の生活に浸透しているといえるブランドはそう多くないでしょう

 

 

 

 

 

製品から「文化」へ


香港上海銀行(HSBC)の推計によると、ルイ・ヴィトンのハンドバッグや既製品の服の売り上げは、2018年から2022年のあいだに倍増している。だが、ベッカーリはそれらについてのみ言っているわけではない。ルイ・ヴィトンやディオールなどを擁するLVMHのCEOベルナール・アルノーと、ベッカーリのリーダーシップのもと、ルイ・ヴィトンはラグジュアリーの幅を押し広げ、より多くの人々にアプローチしようとしている。

「私たちは本、執筆、編集、さらには音楽にも携わっています」と、このイタリア人経営者は語る。

「私たちはスポーツにも携わっていますから、人が人生において惹きつけられるあらゆるものをカバーしていると言えます。人々がこのブランドに惹きつけられるのは、磁石のような力が働いているからなのです」
 

このラグジュアリーブランドをより大衆から人気のあるものにするためのベッカーリのアプローチは、2023年にミュージシャンでプロデューサーのファレル・ウィリアムスをメンズウェアのデザイナーに起用したことに象徴される。ウィリアムスは技術的な知識を持ち合わせていなかったが、それを文化的な魅力でみごとに補完した。手の込んだ演出と、ジェイ・Zらミュージシャンを招くことによって、ファッションショーをエンターテインメントイベントに変貌させたのだ

 

 

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