万博会場デザインプロデューサー藤本壮介氏に聞く、大屋根を歩きながら4つの直球質問

川又 英紀
 

日経クロステック

 
 
大阪・関西万博で「会場デザインプロデューサー」を務める、建築家の藤本壮介氏。同氏がデザインした木造の大屋根(リング)について、4つの質問を投げかけた。

 藤本氏は2024年6月初旬、建設中の大屋根を記者と一緒に歩きながら、約1時間のインタビューに応じた。同氏は自身の「X(旧Twitter)」で、「万博の意義」「会場計画の意図」「木構造の意義」「万博の会場整備コスト」について詳しく言及している。時に厳しい批判にさらされながらも、会場デザインプロデューサーとして言語化を試みている。

 記者はXの投稿を読み込んだ上で、大きく4つの質問をストレートにぶつけることにした。4つの質問は、以下の通りだ。

  1. なぜ大屋根を木造にしたのか?
  2. なぜ大屋根を円形にしたのか?
  3. 建設費約350億円は適正な金額か?
  4. 会場デザインプロデューサーの役割とは?

 柱と梁(はり)の基本構造が既に8割以上出来上がっている大屋根の写真とともに、藤本氏の率直な回答を紹介する。大屋根は完成すると、世界最大級の木造建築物になる見通しだ。なお、本文中の「※」は、藤本氏がXに掲載している内容に基づく日経クロステックの注釈である。では、始めよう。

質問1:なぜ大屋根を木造にしたのか?

藤本氏 僕の建築設計事務所は日本だけでなく、フランス・パリにも拠点がある。ここ数年、欧州に行くたびに、社会全体のトレンドとして木造が強くプッシュされていると感じていた。脱炭素やサステナビリティーの発想に基づく木造への関心の高さは、もはや一過性のブームではない。

 ところが日本は木造に対して静かで、危機感を覚えた。日本は木造建築の長い歴史と伝統があるのに、現代では世界から遅れている。これはまずいと思った。

 1889年のパリ万博で鉄骨のエッフェル塔が登場したように、その時代の最先端の素材で万博の建築物をつくることには意味がある。2025年なら木造だ。これからの万博で「鉄骨で格好いい建築物をつくりました」と言っても、世界には通用しないでしょう。

大屋根を木造にした理由を語る藤本壮介氏(写真:生田 将人)

大屋根を木造にした理由を語る藤本壮介氏(写真:生田 将人)

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 そもそも日本には、1000年以上の歴史がある木造建築物が多く残っている。代表格が法隆寺。木造の歴史が長い日本、しかも京都や奈良に近い大阪から発信していく会場のシンボルは、木造しかないと思った。日本が木造で世界のイニシアチブを握るくらい強いメッセージを出したかった。

 大屋根に使う木材を現しでつくっているのも、未来の風景や建築物の方向性を「空間体験」や「デザインのクオリティー」として分かりやすく示したかったから。「木造でこれだけのものがつくれるのか」という驚きを世界に与えたい。会場を訪れた人は皆、木造の大屋根をくぐって、パビリオンに向かうことになる。

大屋根の柱と梁(はり)の基本構造は間もなく完成し、全周約2kmが円形につながる(写真:生田 将人)

大屋根の柱と梁(はり)の基本構造は間もなく完成し、全周約2kmが円形につながる(写真:生田 将人)

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大屋根をくぐって会場を出入りする(写真:生田 将人)

大屋根をくぐって会場を出入りする(写真:生田 将人)

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質問2:なぜ大屋根を円形にしたのか?

藤本氏 大屋根には機能性と万博の象徴という、大きく2つの役割がある。前者は日差しを遮る、雨風を避ける、さらには円形の回遊路を設けて来場者を分散させる、といったものだ。

 広い会場のどこからでも見える大屋根は、迷子になったり道が分からなくなったりしても目印になる。円形なら等距離で大屋根まで戻れるから安心できる。一番近い大屋根の下までなら、誰でも移動しやすいだろう。

 一方、万博のシンボルとしての大屋根は「記憶に残りやすい強い形」にしたかった。それが正円だ。この円の中に約半年間、世界中から来た人々が集まっていたんだと長く記憶に残りやすいと考えた。

記憶に残りやすい強いシンボルとして正円を選んだ(写真:生田 将人)

記憶に残りやすい強いシンボルとして正円を選んだ(写真:生田 将人)

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 円形にはヒエラルキー(格差)もない。唯一、特別な場所があるとすれば、円の中心。そこにはパビリオンを置かず、「静けさの森」にする。

大屋根の屋上に回廊「スカイウォーク」を設ける。寝転がれるスペースもある(写真:生田 将人)

大屋根の屋上に回廊「スカイウォーク」を設ける。寝転がれるスペースもある(写真:生田 将人)

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 もともと会場の動線計画として、円形はイメージの1つにあった。万博の目玉である、8人のテーマ事業プロデューサーによる「シグネチャーパビリオン」や、参加国が出展する海外パビリオンを円の内側に集めれば、動きやすい。

 ただ、決定的だったのは、まだ何もなかった夢洲(ゆめしま)の会場計画地をテーマ事業プロデューサーの皆さんと一緒に初めて視察に来た時の体験だ。「空が大きい」と感じ、みんなで空を見上げていた。「この空にはどんな建築物もかなわないな」と思いながら、来場者もきっとこの空を見上げるだろうと想像し、大屋根で丸く切り取りたいと考えた。

2024年6月時点で、大屋根はほぼ円形に立ち上がっている(写真:吉田 誠)

2024年6月時点で、大屋根はほぼ円形に立ち上がっている(写真:吉田 誠)

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 視察の後、大阪からの帰りの新幹線の中で、iPadで大屋根のスケッチを描いた。それが正円だった。円の内側に主要なパビリオンを収める必要があるので、そこは何度も計算して円の大きさを割り出した

 

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