国民皆保険も破綻、「開業医は儲かる」神話の崩壊…この国の医療はどうなるのだろうか

河合 雅司(作家・ジャーナリスト

 

 

 

国民皆保険も破綻、「開業医は儲かる」神話の崩壊…この国の医療はどうなるのだろうか© 現代ビジネス 提供

 

 

国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。

 

 

50年後の2070年には総人口が約8700万人

 

 

100年後の2120年には

5000万人を割るという。

 

 

ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。

※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。

 

 

 

患者不足でも値上げできない

東京都の場合には公共交通機関が発達しているため、患者は自分が受診したい医療機関をかなり広域なエリアの中から選ぶことが可能だ。このため「患者不足」となる診療科では患者の争奪戦や抱え込みも起きることだろう。

 

人口が急激に減るわけではない23区内の医療機関であっても、経営的に苦境に立たされて廃業に追い込まれるところが出てきそうだ。

 

 

ちなみに、東京商工リサーチによれば、2021年の一般診療所の倒産は22件で前年から倍増した。コロナ禍による受診抑制や、テレワークの定着によるオフィス街の患者の減少が大きな要因だ。

 

 

これら「不況型」は15件で診療所倒産の約7割を占める。コロナ禍が完全に終息したとしても、「患者不足」となる診療科の診療所では収入が先細りとなる可能性が大きい。

患者数に比べて医師が多すぎる時代となれば、「開業医は儲かる」といった"神話"も崩れるだろう。

 

 

日本の医療機関の大半は保険医療を行っており、診察行為は診療報酬で値段が決まっているため、患者不足が深刻化したからといって他業種のように「値上げ」で対応することはできない。

 

 

そうした中、自由診療に活路を見出そうという動きがすでに出始めている。日医総研のレポートによれば、美容外科が絶対数こそ少ないものの増加が顕著だというのだ。

とりわけ東京23区における35歳未満の医師にその傾向が強いとしている。若手医師が美容外科を選択するというのはこれまでほとんど見られなかったことである。

 

 

東京23区の美容外科では、同じく増加の著しい皮膚科医が診察を行っているケースは少なくなく、自由診療に流れる傾向は今後も拡大しそうだ。

 

 

「無医地区」が急増する

一方、医師の都会流出が進むと別の問題が起きてくる。地方が再び「医師不足」に見舞われるのだ。

 

 

それを改善しようと政治家などが介入して医師養成数を高止まりのままにすれば、全国規模では医師の過剰状態が一段と悪化する。現状の医師不足や偏在の解消は、中長期的視野に立って取り組まなければかえって医療が届かない地域を拡大させるという皮肉を招く。

 

 

そもそも、現在の「医師不足」の解消施策というのは医師の年齢まで問うているわけではない。少子高齢化が進む中において住民の高齢化が著しい地域では、医師も高齢化が進んでいるケースが少なくない。

厚労省の資料(2020年)によれば、診療所に従事する医師は過去20年で1万8613人増加したが、60歳以上が半分ほどを占め、平均年齢は60.2歳だ。日本医師会総合政策研究機構の試算では2036年の65歳以上の医師数は9万3333人となり、2016年と比べて1.93倍となる。

 

 

 

地方では80代どころか90代の現役医師が少なくない。こうした年齢の医師が経営する診療所は後継者が決まっていないことが多く、それがゆえに超長寿の医師が従事し続けている。医師も人間なので高齢となればいつ亡くなったり、体調を崩したりするか分からない。

 

 

高齢医師が1人しかいない地域というのは「医師不足」への逆戻りどころか、いつ無医地区と化すか分からないのである。

 

 

つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する

 

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