高成長インド経済、GDPに映らない実態

Megha Mandavia

 

高成長インド経済、GDPに映らない実態 

 

 

 

【ベンガルール(インド)】

 

インドの今年の経済成長率は主要国で最も高くなりそうだが、公式の数字だけでは実態は見えてこないとエコノミストは指摘する。

インドの昨年度(今年3月まで)の国内総生産(GDP)は速報値で前年度比8%以上の伸びを示した。インフラへの公共支出やサービス・製造業の伸びがけん引した。これは中国の成長率(約5%)を大きく上回る強さで、ナレンドラ・モディ首相が目指す2047年までの先進国入りに追い風となる。

ただ、インドのGDP算出方法では、成長の強さが実際より大きくなる可能性がある。公式統計に含まれない巨大な非公式経済の弱さを十分に反映してないことが一因だ。また民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じていないようだ。

ピーターソン国際経済研究所の上級研究員で元モディ政権首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏は、「もし人々が経済に対して楽観的なら、もっと投資して消費するだろう。実際にはどちらも起きていない」と指摘した。

GDPの内訳で最大の民間消費は4%増にとどまり、新型コロナウイルス流行前の水準に戻っていない。エコノミストによると、もし政府がコロナ下で始めた大規模な食料支給プログラムを続けていなかったら、もっと弱い数字だったかもしれない。

問題の一因はコロナを経たインドの現状だ。大手企業や公式経済の労働者はおおむね順調だが、国民の大半は非公式経済や農業に従事し、その多くが職を失った。

高成長インド経済、GDPに映らない実態

高成長インド経済、GDPに映らない実態© The Wall Street Journal 提供

政府発表の昨年の失業率は約3%だが、調査会社インド経済モニタリングセンターによると、昨年度の失業率は8%だった。

南部の都市ベンガルールにあるお茶とたばこの売店で働くラトナンマさん(55)によると、以前その辺りはテック系専門職やブルーカラーの労働者でにぎわっていたが、客の多くが村に帰った。戻ってきた人もいるが、客は前より少ないという。

売り上げは以前なら多い日で100ドルいくこともあったが、今は12ドル(約1890円)ほどだ。生活費を賄うにも、半年前に借りた事業資金の返済にも足りないという。

エコノミストによると、非公式部門はこの10年でショックを3回経験した。16年の脱税対策の高額紙幣廃止で国内の紙幣の90%が価値を失い、翌年の税制改正で小規模企業の事務負担と経費が増え、さらにコロナ禍に見舞われた。

高成長インド経済、GDPに映らない実態

高成長インド経済、GDPに映らない実態© The Wall Street Journal 提供

その結果、都市部で雇用が悪化し、この数年で数百万人が農業の仕事に戻った。

鉄道の月間利用者数の回復が弱いことは、人流が完全には戻っていないことを示している。ANZリサーチのエコノミスト、ディラジ・ニム氏はこう指摘し、「おそらく農場は今も過密状態だろう」と述べた。

インドのGDPは、公式部門の企業の指標を使って非公式部門の活動状況を推計するため、非公式部門に残っている弱さを把握しきれない。その結果、政府が十分な経済対策を打てなければ、問題が生じかねない。

「間違いなく、インドのさまざまな経済指標は公式のGDPとはやや異なる方向を向いている。だがそれはインドに限ったことではない」。ガベカル・リサーチの新興国市場シニアアナリスト、ウディス・シカンド氏はこう話し、「それよりも重要なのは、統計の不正確さが体系的かつ広範囲に及び、経済政策当局の判断を鈍らせているかどうかだ」と述べた