万博で休憩所やトイレなど設計した若手20組、建築概要や最新パースを一挙公開

川又 英紀

 

日経クロステック

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年日本国際博覧会協会(大阪・関西万博協会)は2024年5月30日、若手設計者20組による万博会場内の合計20施設の概要と設計コンセプト、最新パースを公開した。対象は「休憩所」「ギャラリー」「展示施設」「ポップアップステージ」「サテライトスタジオ」「トイレ」で、いずれも設計は完了。一部の施設は施工が始まっている。

若手設計者20組が担当している施設の最新パースが一斉に公開された。そのうちの1つ「ポップアップステージ(北)」の完成イメージ(出所:2025年日本国際博覧会協会)

若手設計者20組が担当している施設の最新パースが一斉に公開された。

 

そのうちの1つ「ポップアップステージ(北)」の完成イメージ

(出所:2025年日本国際博覧会協会)

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2024年3月に都内で開かれた万博関連イベントで展示されたポップアップステージ(北)の模型やパース。設計者が個別に進捗状況を伝える場面はこれまでにもあったが、若手20組の最新情報が万博協会から一斉に公開されたのは初めて(写真:日経クロステック)

2024年3月に都内で開かれた万博関連イベントで展示されたポップアップステージ(北)の模型やパース。設計者が個別に進捗状況を伝える場面はこれまでにもあったが、若手20組の最新情報が万博協会から一斉に公開されたのは初めて(写真:日経クロステック)

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 ギャラリーはアートやアニメ、ファッションなどの催事や展示会、フォーラムの開催を想定した施設だ。展示施設は「未来の暮らし(食・文化・ヘルスケア)」が体験できる「フューチャーライフエクスペリエンス」と、「未来への行動」が体験できる「TEAM EXPOパビリオン」で行われる事業を発表・展示する場になる。

 

 

 ポップアップステージは、音楽やトークイベント、お祭りなどのイベントを開催する小規模なステージ広場だ。サテライトスタジオは、放送局の番組中継や収録用のスタジオになる。

 

 

 20組が設計した施設は多岐にわたる。ただし、万博のテーマであるサステナブルを強く意識している点は共通する。万博開催中の約半年間は「通過点」に過ぎず、むしろ閉幕後に長きにわたって建材などが次の場所で生かされるように設計された施設になっている。

 

 

 素材や建材の再利用や施設移築などを前提にしながら、それぞれがユニークな建築物を提案。半年限定だからこそできる、挑戦的な施設が目に付く。パースだけを見ると、何の施設なのか分からないものが幾つもある。

 施設で利用する素材も、通常の建築物ではなかなか利用できないものが多い。万博の仮設建築物だから許されるものを大胆に取り入れている。目立つのは自然素材の活用で、木や石、土、水などが使われる。素材そのものの感触や迫力がダイレクトに伝わってきそうだ。視覚や触覚だけでなく、嗅覚を刺激するものまである。

 

 

 

公募で選ばれた若手設計者20組と評価委員(中央前列の3人)がそろった22年8月はまだ新型コロナウイルス禍で、全員がマスクをしていた。前列の中央が会場デザインプロデューサーである藤本壮介氏(写真:2025年日本国際博覧会協会)

公募で選ばれた若手設計者20組と評価委員(中央前列の3人)がそろった22年8月はまだ新型コロナウイルス禍で、全員がマスクをしていた。前列の中央が会場デザインプロデューサーである藤本壮介氏(写真:2025年日本国際博覧会協会)

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 万博の会場デザインプロデューサーで、今回の公募のプロポーザル評価委員会委員でもある藤本壮介氏は、

 

「1970年の大阪万博では当時30代だった建築家が活躍し、その後、未来の建築をつくっていった。それを今回もやりたかった。実際、若い設計者から熱意のある提案が多数寄せられた」と振り返る。

 

 

 選出した20組が設計した施設については、

「建築のこれからを考えるうえで必要ないろいろな方向性が出てきた。建築デザインだけでなく、サステナビリティーやリサイクル、テンポラリー(仮設建築物)といった条件を踏まえながらも使う素材や場の在り方は非常に多様なのが面白い」(藤本氏)。

 

「若手」といっても大半が30~40代で、

日本の建築業界ではその名を知られる優秀な設計者が数多く選ばれている。

 

彼ら彼女らが実力を大いに発揮している。

 

 

 

 万博会場の中でも休憩所やトイレ、ステージといった施設は、「最も日常的な機能を持っており、来場者は実際に使ってみてリアルに体感できる。その意味で特筆すべき建築物になるだろう」。藤本氏は20組に大きな期待を寄せている。

 

 

 20組が設計した施設の概要を一覧表にまとめた。表の右端のキーワードは、それぞれの設計コンセプトを基に記者が特徴を一言で表現したものだ。使用する素材や建材、あるいは建設3Dプリンターのように採用するテクノロジーに注目した。

 

 

 掲載順は、5月30日に発表された資料に従った。それぞれの施設ができる会場内の工区ごとに施設が紹介されている。

 

 

万博会場の工区と20施設の位置(出所:2025年日本国際博覧会協会)

万博会場の工区と20施設の位置(出所:2025年日本国際博覧会協会)

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 「北東工区①」がポップアップステージ(北)とトイレ5、トイレ6。「北東工区②」が休憩所3と休憩所4、ポップアップステージ(東内)、ポップアップステージ(東外)。「南東工区①」はトイレ1とサテライトスタジオ(東)。「南東工区②」はトイレ7とトイレ8。「西工区①」はサテライトスタジオ(西)と休憩所1、トイレ2、トイレ3。「西工区②」はポップアップステージ(西)とトイレ4、休憩所2。「GW(ゲートウエイ)工区」はギャラリーと展示施設、となっている。

 

 

施設名 設計者 主用途 階数 延べ面積 構造 施設の特徴 *1
ポップアップステージ(北) 佐々木 慧
(axonometric)
イベント広場 平屋 108.90m2 アルミニウム合金造 木材乾燥中
トイレ5 *2 米澤 隆
(米澤隆建築設計事務所)
トイレ 平屋 246.04m2 鉄骨造 カラフル積み木
トイレ6 隈 翔平+エルサ・エスコベド
(KUMA&ELSA)
トイレ 平屋 288.98m2 木造 水の循環
休憩所3 山田 紗子
(山田紗子建築設計事務所)
休憩所、トイレ 2階 568.23m2 木造、鉄骨造 森と人工物
休憩所4 服部 大祐+新森 雄大
(Schenk Hattori+Niimori Jamison)
休憩所、トイレ 地下1階・地上1階 248.84m2 鉄骨造 鉄筋パーゴラ屋根
ポップアップステージ(東内) 桐 圭佑
(KIRI ARCHITECTS)
イベント広場 平屋 118.69m2 鉄骨造、木造 雲の屋根
ポップアップステージ(東外) 萬代 基介
(萬代基介建築設計事務所)
イベント広場 平屋 121.44m2 鉄骨造 ドーム建築
トイレ1 井上 岳+齋藤 直紀+中井 由梨+棗田 久美子
(GROUP)
トイレ 平屋 81.27m2 鉄骨造 夢洲の庭
サテライトスタジオ(東) 野中 あつみ+三谷 裕樹
(ナノメートルアーキテクチャー)
放送用スタジオ 平屋 248.08m2 木造 いびつな木
トイレ7 鈴木 淳平+村部 塁+溝端 友輔
(HIGASHIYAMA STUDIO+farm+NOD)
トイレ 平屋 95.46m2 鉄骨造 3Dプリント樹脂パネル
トイレ8 斎藤 信吾+根本 友樹+田代 夢々
(斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro)
トイレ 平屋 56.19m2 木造、一部鉄骨造 性の多様性
サテライトスタジオ(西) 佐藤 研吾
(佐藤研吾建築設計事務所)
放送用スタジオ 平屋 144.08m2 木造 福島県産木材
休憩所1 大西 麻貴+百田 有希
(大西麻貴+百田有希/o+h)
休憩所、トイレ 平屋 830.10m2 膜構造、鉄骨造、木造 毛皮の大屋根
トイレ2 小林 広美+大野 宏+竹村 優里佳
(Studio mikke+Studio on_site+Yurica Design and Architecture)
トイレ 平屋 60.54m2 鉄骨造、一部木造 残念石
トイレ3 小俣 裕亮
(小俣裕亮建築設計事務所 new building office)
トイレ 平屋 249.97m2 木造、一部空気膜構造 空気膜屋根
ポップアップステージ(西) 三井 嶺
(三井嶺建築設計事務所)
イベント広場 平屋 87.84m2 鉄骨造、一部木造 丸太1本
トイレ4 浜田 晶則
(浜田晶則建築設計事務所 AHA)
トイレ 平屋 138.63m2 木造 3Dプリント土壁
休憩所2 工藤 浩平
(工藤浩平建築設計事務所/Kohei Kudo & Associates)
休憩所、トイレ 2階 504.23m2 木造(建築物)、鉄筋コンクリート造+鉄骨造(工作物) 石のパーゴラ
ギャラリー 金野 千恵
(teco)
展示場 平屋 644.38m2 鉄骨造 ベジタブルコンクリート
展示施設 小室 舞
(KOMPAS JAPAN)
展示場 平屋 1271.94m2 鉄骨造、木造 木の葉の屋根

2024年5月30日の発表内容を基に日経クロステックが作成

*1 設計コンセプトを基に記者が施設の特徴を一言で表現したもの

*2 24年5月30日時点では入札公告中

 

 

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