イメージはA.T.フィールド? スッキリわかる! 日英伊共同開発 次期戦闘機の全貌
ロンドン上空を飛ぶ次期戦闘機のイメージ図(英政府提供)。大型の単座型ステルス戦闘機で、空戦ネットワークの中心を担う存在に
日本が初めてアメリカ以外の国と組んで開発し、2035年までの配備を目指す次期戦闘機の全貌が少しずつ明らかになってきた。
未来の戦闘機は、もはや『トップガン』の世界とはまったくの別物!
【画像】次期戦闘機のイメージ図ほか * * *
■イメージはA.T.フィールド?
日本、イギリス、イタリアによる
数兆円規模の次期戦闘機(日本では通称「F-3」、
2035年頃配備予定)開発プロジェクトを推進するに当たり、
各国政府や企業の調整役を担う国際機関「GIGO」(今年度中に発足する見込み)を
設立するための条約の承認案が、
5月14日に衆議院本会議で可決された。
2022年12月に3国での共同開発が正式発表されたF-3を巡る動きは、
今年に入って加速している。
3月には日本政府が第三国への輸出解禁の方針を決定。
また4月の日米首脳会談では、F-3を含む「第6世代戦闘機」とセットで運用される無人機について、日本、アメリカ、オーストラリアによる技術協力を推進していくことが共同声明に盛り込まれた。
なお、航空自衛隊が
現在運用している中で最新の戦闘機F-35Aは
「第5世代」の代表格。
第4世代以前との最大の違いは、
レーダーに探知されにくいステルス性だ。
では、次の「第6世代」はどのような戦闘機になるのだろうか?
かつて空自那覇基地で302飛行隊隊長を務めた杉山政樹氏(元空将補)はこう言う。
「F-3は小回りが利く空戦向きの戦闘機ではなく、
随伴する無人機に空戦を任せ、
自身は衛星、
早期警戒管制機、
地上レーダー基地、
艦艇レーダーなどからの情報を集約し、
無人機の指揮・統制ネットワークの中心となる。
そして、最後の決め手となる長射程のミサイルを搭載するために大型の機体になります。
イメージとしては、
『エヴァンゲリオン』シリーズのA.T.フィールドのような
ネットワークのドームを張り巡らせるF-3の横、前、後ろ、上下などに、
偵察や攻撃など各種任務を遂行するAI搭載の無人機が随伴している感じでしょうか」
エアチーミング(有人機と無人機の共同作戦)の方法については、
ボイスによる人間とAIの会話形式がいいのか、
それともパイロットのヘルメットのバイザーに映し出されるコマンドを見ながら各種スイッチを押して命令する形式がいいのかなど、
現在さまざまな方法が研究がされているという。
いずれにせよF-3パイロットの仕事は、
映画『トップガン』のような従来のイメージとはまったく異なるものになるようだ。
杉山氏が続ける。
「F-3はヘルメットのバイザーに出てくるポイントまで行けば、あとは自動操縦で着陸してくれるし、緊急事態になってもAIが対応をある程度判断してくれます。
一方で、多数の無人機の指揮・統制をするわけですから、
パイロットには現在の空自でいうマスリーダー(多数機編隊長)の資格か、
飛行班長クラスの技量が求められる。
つまり、エネルギーの比重は『操縦』よりも『戦闘』。
当然、新人パイロットの教育も大きく変わるでしょう
中国の無人機による飽和攻撃に勝てるか? では、F-3に随伴して共同作戦を行なう無人機はどのようなものになる? 「ステルス性を有した無人機であることは間違いありませんが、その〝ステルス度〟は課せられた任務によって異なります。
例えば、偵察を任務とする場合は高いステルス性を発揮する機体。一方、攻撃任務に使用される場合は、ステルス性がある程度制限されても多数のミサイル、爆弾を運ぶウェポンキャリーとしての能力を優先し、翼を大きくした機体になるはずです」(杉山氏)
各国の軍用・民生用無人機を取材しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。
「海外のエアショーを回っていると、
大手航空機メーカーは
将来の戦闘機が
随伴無人機とセットで運用されることを前提として、
研究・開発を進めていることがよくわかります。
また、現在使われている戦闘機でも、
無人機との共同作戦を実現しているケースはあります。
例えば韓国では、
第4.5世代ステルス戦闘機KF-21に随伴する、
用途別の複数種類の無人機開発が進んでいます。
また、イスラエル空軍はF-15、F-16戦闘機に衛星アンテナを搭載し、
すでにドローン管制を行なう能力を有しています」
ただ、ここからもう一歩想像を進めて、
実際の戦闘をシミュレーションしてみると、
無人機特有の問題も浮上してくる。
国際社会では現在、
無人兵器が殺傷能力のある攻撃をする場合、
その最終判断に人間が介在するべきであるという方向でのルール作りが議論されている。
そのため空自F-3のパイロットは、
随伴する無人機が発射するウェポンの最終介在者としての役割を担うことになるはずだ。
しかし、例えば無人機大国である中国は
そういった規制を整備することに賛同していない。
前出の柿谷氏が言う。
「中国共産党は人権よりも党のドクトリンを優先する組織ですので、この問題においても目的を達成するためなら、純軍事的な観点から〝合理的な決断〟を下すと思われます。 つまり、教育にコストと時間がかかる上に個々人の力量のばらつきに左右される有人戦闘機に代えて、無人機(AI)自身の判断による飽和攻撃を最も有効な戦術とする可能性が高いということです」 では、F-3が率いる空自の編隊は、中国無人機群の飽和攻撃に勝てるのだろうか?
前出の杉山氏は「完勝できる」と太鼓判を押す。
「先述したように、F-3は自身と無人随伴機のレーダーに加え、衛星、早期警戒管制機、地上・海上のレーダーによる情報を集約して、無人随伴機を指揮・統制します。これに対し、中国の無人機群は個々の機体がAIによって自律飛行しますが、ネットワークによって統合されているわけではありません。
つまり中国の無人機は、最初に入力された情報以外については、
『他機にぶつからないこと』程度の判断しかしない。あとは搭載しているミサイルの射程に標的が入った瞬間に一斉に撃つなど、シンプルな任務を機械的に遂行するだけなのです。
ですから、空自のF-3とその無人随伴機は、中国の無人機がミサイルを撃ってきたら左右どちらかに機動をかければいい。
そうすればミサイルは全弾、東シナ海に落下するだけです。
ミサイルを撃ち尽くした中国無人機が自爆装置を作動させて突っ込んできたとしても、それは巡航ミサイルと一緒ですから、片っ端から撃墜すればいいだけです。空中戦においては、量だけで質を凌駕することはできないのです」
空自は独自の運用を編み出し続けてきた この差が生まれた背景には、アメリカ中心の西側陣営と中国の戦闘機開発の「分かれ道」があるのだという。
杉山氏が続ける。
「中国は第5世代といわれるステルス戦闘機までは自国でなんとか開発しましたが、技術力の問題で第6世代機の開発はやめざるをえなかった。
その分、すさまじい額の開発費をほかの軍備に向け、艦艇や無人機を中心に数を増やしています。
一方、アメリカは現在運用している第5世代機のF-35の段階で、
『ロイヤルウイングマン』と呼ばれる無人随伴機との共同作戦をある程度まで実現できています。
そして、現時点で世界最強といわれる
第5世代機F-22ラプターの
後継機となる第6世代機、F-44(仮称)
の開発も進行中です。
アメリカは量産機のF-35を各国に売っていますが、
F-22は他国に売りませんでした。
おそらくF-44もそうなるか、
あるいは売るとしても重要技術をブラックボックス化した上で、すさまじい価格をつけるでしょう。
だから日本はイギリス、イタリアとの共同開発を選んだのですが、
その随伴機は日米で共同開発することが決まっている。
つまりアメリカの有人機・無人機共同作戦の技術はある程度生かされるわけで、
中国がいくら大量の無人機で飛来してこようが、
空中戦は先述したような様相になると予想されます」
アメリカは日本にF-4、F-15、F-35といった戦闘機を売り、
日本国内での生産も認めてきたが、
実はその「使い方」までは教えてくれない。
そのため空自は新型戦闘機が来るたびに、日本独自の運用方法を編み出してきた。 最後に杉山氏がこう語る。
「空自は現在、最終的に計142機が配備される第5世代機F-35をどう使うか、悩み、考え、試している最中です。
しかし、第6世代のF-3は、そこからさらに一歩も二歩も進めて運用しなければなりません。 例えば、国籍不明機に対して有人の戦闘機がスクランブルするのか、それとも無人機に任せるのか。そういったことからひとつひとつ検討していくわけです。
現在のところ空自の戦闘機F-35A、F-35B、F-15MSは、日本の国防の〝槍の穂先〟です。F-3の運用の全貌はまだわかりませんが、少なくとも現時点で言えることは、F-3自身は槍の穂先ではなく、その役割は無人随伴機が担うことになるだろうということです」
取材・文/小峯隆生 写真/時事通信
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