プロブランドのこだわりが表出したDAC。

 

SPL

「Director Mk2」

「Diamond」

 

2モデルを徹底分析

2024/05/29 鴻池賢三

 

 

 

 

 

今、日本のハイエンドオーディオ業界で存在感を増しているSPL。実は1983年にドイツで設立されたブランドで、そろそろ老舗と呼んでも良いほどの歴史を持つ。創業から長らくプロ機材としてレコーディングやマスタリングなどの現場を支えてきた経緯があり、クオリティーと信頼性の両面で揺るぎない地位を確立してきた。

そのSPLがコンシューマー(一般消費者)向けのHiFiとして展開するのが、「Professional Fidelity」と呼ぶラインナップ。プロの現場で発想して鍛え上げてきた技術を核にしているのがポイントで、特にDAC以降、ローパスフィルターやアンプに適用される「120Vテクノロジー(VOLTAiRテクノロジー)」がユニーク。車に例えれば、レーシングカーの桁違いの技術エッセンスを乗用車に採り入れると考えればイメージし易いだろう。

今回は、SPLでも人気のDAC/プリアンプ、「Director Mk2」と「Diamond」の2製品を試聴室に持ち込み、最高峰の環境で比較試聴。それぞれのインプレッションをお届けすると共にユーザー像を探る。

 

 

「Diamond」324,500円(税込)

 

 

 

「Director Mk2」477,400円(税込)

 

■共通技術を搭載しながら異なる性格付けの2機。SPLのスタンスを読み解く


Director Mk2とDiamondはどちらも製品ジャンルとしてはDAC/プリアンプに分類できるものの小さくない価格差に気が付く。しかし、搭載機能を確認すると、格の上下というよりは、性格が異なる製品と言える。

センターに配置された大型のボリュームノブや2連のVUメーターが目を惹く「Director Mk2」

 

 

 

 


共通部分は、同社の中核技術「120Vテクノロジー」を採用しつつ、

フルサイズオーディオの幅430mm(17インチ)よりもスリムな

 

278mm(11インチ)の筐体に凝縮されていること。

また、「DAC768v2」と呼ぶ

従来よりもブラッシュアップされたD/A変換回路を搭載。

 

DACチップとして「AKM AK4493SEQ」を搭載し、

 

サンプリングレートはPCM最大768kHz、DSD256に対応。

 

これに組み合わせるローパスフィルターは同社の

「120Vテクノロジー」で構成されDAC768v2に最適化した「SLP120(Super Low-Pass)」と呼ぶ技術を採用するほか、周辺回路を擁するシステムとして設計されている。

 

 

 

 

共通する特長のひとつが、ブラッシュアップを重ねたD/A変換回路「DAC768v2」


デザインから読み解く両者の相違点としては、Director Mk2はセンターに配置された大型のボリュームノブや2連のVUメーターが目を惹き、プロシューマーのボールドな雰囲気を残しつつコンシューマーオーディオを意識してドレスアップしているように見えるのに対し、Diamondの外観はシンプルにまとめ上げられている。必要なノブやスイッチを効率良く整然と並べた雰囲気で、プロシューマーの道具としての機能美を濃く感じる。実際、DiamondはDirector Mk2が持たないワードクロック入力機能を搭載していて、SPLの意図が窺える。

 

 

 

 

 

 

デザイン的にもプロシューマーの道具としての機能美が濃く表れる「Diamond」


そして、両者で大きく異なるのは入力系統の種類と数だ。Director Mk2はXLRが2系統、RCAが4系統とアナログ入力豊富で、加えてテープモニター(RCA IN/OUT)も搭載する。

一方のDiamondはデジタル入力に特化し、USBほか、同軸2系統、光2系統、AES/EBUが1系統とDirector Mk2を凌駕。この時点で既にアナログ入力が必要ならDirector Mk2、デジタル入力重視ならDiamondという選び方が思い浮かぶ。
 

■Diamond/音源の情報を高密度に描写。プロブランドの持ち味を活かしたその特性に注目


試聴は音元出版の新試聴室にて実施。高度な防音と調音が施され、空調の騒音とも無縁の上質な専用室である。ソースはWindows PCでDirector Mk2またはDiamondとUSBケーブルで直結。同条件で比較試聴を試みた。出力はXLRでパワーアンプはAccuphase「A-48」、スピーカーはMonitor Audio「Platinum300 3G」という布陣である。

まずDiamondから。音が出た瞬間、粒立ちの良さが好印象。ディテールを引き出しつつも耳につかず、結果、高密度でウォームな音調。解像度の高さを誇示することなく、情報量の多いリッチなサウンドとして聴かせる傾向から、器の大きさを感じる。

「Diamond」を試聴すると、ニュートラルで密度が高く、モニターライクな忠実性を再現してくれた


筆者がリファレンス音源としているSusan Wongの「How Deep is Your Love」は、カチッと引き締まってリズムが端正ながらも、中低域にしっかりとした厚みが感じられ、リッチで格調高い音調。音場は広がり過ぎず、高密度で濃厚な描写が持ち味と言える。

Paul McCartneyの「I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter」は空気が澄んで空間が適度に広がる様子が晴れやか。ボーカルはボディーを感じつつも重くならず、軽やかに弾むトーンが曲の情緒感と良く似合う。

分析的に聴くと、ピアノやベースなどアコースティック楽器の音色も濃厚。重心が低くまとまりの良さから得られる一体感も心地良く感じられた。

Linda Ronstadtの「What's NEW」はオーケストラアレンジで交響曲のような重厚感が印象的。ボーカルの伸びやかさとピークの輝きは特筆に値し、どこまで伸び上がるのか心配になるほど。トゥイーターの性能に寄るところでもあるが、逆に能力の高いトゥイーターを歪なく諧調豊かにドライブできるのはDiamondの実力とも言える。この辺りは、「120Vテクノロジー」の恩恵が大きそうだ。

デジタル入力に特化した「Diamond」の背面部


DC±60Vの駆動は、一般的なICベースのオペアンプと比べると4倍に相当する。一般的に電圧を高くすると、ヘッドルームに余裕が生まれてダイナミックレンジの拡大に繋がる。適正な設計を行えば、S/Nの向上や高出力時の歪を少なくするのにも有利だ。

一般的なコンシューマーオーディオがこの手法を採用しないのは、汎用のオペアンプが使えずディスクリート設計する必要があることと、さらに電圧が上がるとパーツや電源も大型化する必要があり、コストも跳ね上がるためだ。コンシューマー機器の枠に囚われない、プロシューマー譲りの発想とそのアドバンテージは、SPL製品の醍醐味と言えるだろう

 

 

 

 

Director Mk2/切れ良く、優れたS/Nを提供するサウンドに圧巻


次にDirector Mk2を試聴。小音量でも非常な高S/Nに感心しきり。耳触りの良さ、滑らかなグラデーションを描くような表現の豊かさも抜群だ。特にS/Nの良さで引き出す情報量の多い高密度なサウンドは、上述の通り「120Vテクノロジー」による高電圧駆動の特長と合致する。SPLが支持される理由は、設計思想に裏打ちされたものだと確信できた。

「Director Mk2」は高S/Nで開放感やフォーカス感の高いサウンドを提供してくれる


Susan Wongの「How Deep is Your Love」は、音場が天井方向にも高く広がり、分離の良さが印象的。ボーカルは強調されることなく、空間にぽっと浮かぶように独立して明瞭な存在感を示す。音場感やフォーカスの良さはHiFiユーザーが共通して好む感覚で、Diamondよりも味わいを求めるリスニングを意識したチューニングのようだ。

グラデーションがシルクのようにきめ細やかで、柔らかく豊かなサウンドは上質そのもの。低域楽器がカチッと引き締まり空間がクリーンで、全ての音が輝いて躍動感が溢れる。コーラスの重なりもハーモニーが美しい。楽曲に込められたときめくような心情もより心に迫ってくる。有機的な美しさ、芸術的な表現が感じられるのだ。

Paul McCartneyの「I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter」はベースの弾力感が心地よい。ミュートのキレが印象的で、静寂がコントラストを紡いで心に沁みる。歪感とは無縁でピアノが輝くようにトレモロも高揚感が増す。切れが良くS/Nの良いサウンドが感情を揺さぶるのだ。

 

 

 

 

 

豊富なアナログ入力系を備える「Director Mk2」背面部


Linda Ronstadtの「What's NEW」は音場が広く天井方向の解放感も格別。高域は高解像で伸びやかさが印象的。パワーが入っても音は素直かつリニアに伸び、軽快でブリリアントな音色を奏でる。明瞭に分離したクリアな音が混ざらず丁寧に積み重ねられ、そのハーモニーが軽やかに空に広がるように美しい。澄んだ晴れやかなサウンドは圧巻だ。
 



冒頭で述べた通り、入力系統やルックスの違いからDiamondとDirector Mk2には異なる性格が与えられ、ユーザーの想定用途によってある程度の見当が付くかもしれない。加えて今回の試聴では、ニュートラルで密度が高く、分析的に聴く場合に音の判別し易いのがDiamond、高S/Nで開放感やフォーカス感が高く、オーディオ的に映えるのがDirector Mk2という印象を受けた。このサウンド傾向は、機能を含む性格と符合し、それぞれの用途で頼もしいパートナーたり得る。

オーディオリスニングという観点では、システムの中で縁の下の力持ちとして加えるならシンプルなDiamond、主役に据えるならDirector Mk2という選択が最適だと確認できた。

Diamondは、自宅スタジオ的な環境も含め、質実剛健なDACとして活躍しそうだ。Director Mk2はソースのスイッチャーとしても使い出があり、優秀なプリアンプとしてパワーアンプとの組み合わせが面白そうだ。平凡なプリメインアンプに飽き足らないHiFiオーディオファンに、新たな楽しみをもたらしてくれるだろう。

(協力:A&Mグループ株式会社

 

 

プロブランドのこだわりが表出したDAC。SPL「Director Mk2」「Diamond」、2モデルを徹底分析 (2/2) - PHILE WEB