スマートフォンメーカーは巨大EVメーカーになれるのか

「中国版スティーブ・ジョブズ」シャオミ創業者が電気自動車に抱く野望

シャオミの会長兼CEOの野望とは Photo by Li Yueran/Anadolu via Getty Images
 
 
 

 

フィナンシャル・タイムズ(英国)

 

Text by Ryan McMorrow in Beijing and Gloria Li in Hong Kong

 

スマートフォン事業で成功した中国シャオミの創業者で会長兼CEOのレイ・ジュンが、電気自動車業界でも世界的な成功を狙っている。レイが抱く野望とは。

中国版「スティーブ・ジョブズ」と呼ばれて


米アップル社を真似することから始まった中国のスマートフォンメーカー・シャオミが設立されてから10年と少し。創業者でCEO兼会長のレイ・ジュン(54)は、スマートフォンの分野でついにアップルをしのぐ存在にまで至った。

アップルは2024年、10年の歳月と数十億ドルの予算を費やした電気自動車(EV)開発プロジェクトをひっそりと凍結した。一方のシャオミは、今この瞬間も北京の工場でEV生産を進めている。

シャオミのCEO兼会長のレイは、そのマーケティングセンスと思いつきを次々に製品へと変えていくという特徴のためにスティーブ・ジョブズとも比べられ、中国では「レイ・ジョブズ」という愛称で呼ばれている。
 

レイの野望であるEV開発を発表してからちょうど3年後、濃い青緑のブレザーで北京の舞台に登壇した彼は、感極まって自身の成功をまくしたてた。彼は歓声をあげる何百人ものファンに、「電気自動車を開発するのは大変な困難でした。アップルほどの巨大企業さえ投げ出すほどの困難です」と語った。

困難な仕事もどうやら報われたらしい。新型EV「SU7」の発表会の後、同製品に対して需要が高まり、2024年3月にシャオミの株価は約12%上昇した。同社はすでに10万台を超える予約を受注している。ただし、その多くはまだ払い戻し可能な保証金として計上されている。
 

「毎日不安で震えていた」


2010年、7人の仲間とともにシャオミを設立したレイは、その後同社を世界第3位の携帯電話メーカーに押し上げ、それ以外にもさまざまな製品の生産ラインを一手に握っている。その多様さたるや、いまやスーツケースから「スマート洗濯機」に至る、あらゆるものにシャオミのロゴが光るほどだ。

2021年、レイはシャオミグループの歴史においてもっとも大胆な賭けに出る。自ら「事業家として最後の大きな挑戦」と銘打ち、2024年のリリースを目指す量産型の自動車の開発計画に、100億元(約2330億円)を初期投資することを発表したのだ。

自動車がシャオミ製品に加わり、自宅の電気から炊飯器に至るまで、シャオミ車の運転手は車内にいながらにしてボタン1つであらゆる製品のスイッチを押すことが可能になる。「この3年間、自動車開発を試みながら、私は毎日不安に震えていました」とレイは語った。「私の心にとても重くのしかかっていたのです」
 

プロジェクトの詳細を知る人物によれば、この1年間、レイは7割から8割の時間を自社EV開発プロジェクトに費やし、朝7時から夜10時か11時までオフィスで働いていたという。「レイには、シャオミを中国で3位以内に入るEVメーカーにするという野望があるんです」とその人物は語る。

それが実現すれば、シャオミは世界最大級のEVメーカーのひとつともなる。北京郊外にある同社の工場は1年で15万台の自動車を生産でき、中国メディアによれば同社は生産規模を2024年の倍とすべく工場拡張を計画しているとのことだ。

シャオミの経営陣は、スマートフォンを普及させ、世界中に店舗を拡大してきた同社の国際的な実績が、海外での同社製EVの売れ行きを加速させるだろうと語る。とはいえシャオミの新しいEVは、価格戦争のまっただなかで競争の激しい中国市場に参入していくのだ。

シティバンクのアナリストであるジェフ・チュンは、流行りの見た目ながら安価で高品質のEVを大量供給できる中国の現状を考えたとき、シャオミの新製品の展望をそれほど楽観視することはできないと語る。シャオミの新型EVはポルシェのタイカンにとてもよく似ており、最低価格は21万5900人民元(約470万円)だ。

「極論を言えば、20万〜30万元(400万〜600万円)の価格帯の電池式EVは、すべて失敗する可能性があります」とチュンは語る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

止まらない中国のEV勢力


EVに憧れる企業から量産企業になるというシャオミの急激な転換は、中国国内におけるEV生産サプライチェーンの成熟にも支えられている。国内のEVメーカー各社ならびに上海に主要工場を持つテスラによって、中国には巨大な人材プールが形成された。さらにはCATLをはじめとする電池の巨大企業からアルミ部品メーカーのウェンツァングループに至る、新たなサプライヤーの一団が成長してきた。

シャオミの工場にオートメーション装置を供給するある企業の社員によれば、工場の内部では元テスラ社員が何十人も働いているらしい。「テスラはEV業界における陸軍軍官学校みたいなものです」と、彼は中国統一の礎たる国民軍を育んだ、1920年代設立の士官学校を引き合いに出した。アップルもEVプロジェクトの初期には、やはりシリコンバレーにおけるテスラの人材を引き抜きにかかったのだ。

シャオミの広報担当によれば、同社はEV事業への参入を表明したのち、主要な自動車メーカーでの職歴を持つ3万人の候補者から3000人のエンジニアを採用し、EV部門に登用したとのことだ。
 

アップルに追いつけ追い越せ


レイがプログラマーとしてのキャリアをスタートしたのは、中国・武漢で大学生をしていたときのことだ。1989年、彼は大学の先輩とともに初の製品を発表する。それはフロッピーディスク仕様の暗号化ソフトウェアだった。

続いて、彼はある地方のホテルの一室で、コンピューターおよびソフトウェア販売、印刷、写真複写サービスの会社を始めた。最近開かれたシャオミのイベントで、彼は「事業がさまざまな方面で成長していくにつれて、お金を稼ぐのはどんどん難しくなっていきました」と語っている。
 

やがて彼は中国のソフトウェアメーカー・キングソフトの社長に就任する。同社はマイクロソフトのオフィスに似た生産性向上ツールを生産している。彼は香港証券取引所に上場している同社株の23%を現在も保持し続けているが、その総額は310億香港ドル(約6200億円)におよぶ。

スティーブ・ジョブズが2007年に初代iPhoneを発表してから3年後、レイはiPhoneに似た機能を持つスマートフォンの開発チームを結集する。シャオミのスマートフォンは優れた仕様と手頃な価格で評判となった。レイのマーケティングも大いに功を奏し、同社製品はまもなく多くのファンを獲得する。

だが、お手頃価格製品企業のイメージはなかなか払拭することができない。レイはこれまで幾度も高級スマートフォンの開発に挑戦してきたが、アップル製品に近い高級価格帯で多くの顧客を獲得することはできなかった。

結果、シャオミは最高級価格帯の製品を非常に低い利益率で販売している。2023年のグループ全体の利益率は6.4%、対するアップルは26%である。投資家たちの評価では、シャオミの企業価値はわずか500億ドル(約7兆7500億円)未満。これはアップルの時価総額の約50分の1である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャオミの展望


HSBC前海証券のIT系アナリストであるフランク・ヒーによれば、シャオミの利益の約半分はユーザー向けサービスの販売に依存している。グーグルプレイストアが中国国内で禁止されていることから、シャオミグループが展開するアプリストアからの手数料収入はとりわけ大きいとのことだ。
 

ヒーの予想では、この先2年はシャオミのEV生産も成長途中にあり、その間のEV販売事業は赤字になる。しかし、やがてEV1台あたりの販売もわずかな黒字に転じ、自社製品のドライバーに提供する各種サービスからも黒字を出すことができるだろうという。

「レイ会長はより大きな市場の獲得を狙える成長エンジンが欲しかった」とヒーは語る。「シャオミにはブランド力という固有のアドバンテージがあります。これは中国の国内外で通用するものです」

上海でシャオミのカーユニットを共同開発してきたソフトウェア開発会社「オートフォーム」のゼネラルマネジャー、クリストフ・ウェバーによれば、レイは高性能EV事業の旗揚げ成功と同様、これからも同事業を成功に導いていくだろうとのことだ。

「シャオミはIT企業の考え方をします。昔ながらの自動車会社とは違うんですよ」と彼は語った

 

 

 

 

 

 

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