国立劇場の再整備は「国が責任持って財源準備すべき」、有識者検討会が提言

小山 航

 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

 

 

国立劇場の再整備は「国が責任持って財源準備すべき」、有識者検討会が提言 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

 

入札の不調・不落で再整備計画が進まない国立劇場(東京・千代田)。同劇場を運営する日本芸術文化振興会は、板東久美子日本赤十字社常任理事を座長とする有識者検討会を設置し、次回入札に向けた要件などの検討を進めている。2024年5月15日には、検討会による中間まとめを発表した。

 検討会は建設費や資材の高騰が続く昨今の市場動向を受け、「開始が遅れるほど再整備は困難になる」と指摘。「国が責任を持って必要な財源を準備すべきだ」とした。日本芸術文化振興会に対しても、「スピード感を持って事務的な検討を進めてほしい」と要請した。

2023年10月に閉場した国立劇場。記者が訪れた日は、複数人の外国人観光客が建物を見に来ていた。24年4月20日撮影(写真:日経クロステック)

2023年10月に閉場した国立劇場。記者が訪れた日は、複数人の外国人観光客が建物を見に来ていた。24年4月20日撮影(写真:日経クロステック)

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 国立劇場の再整備は、1966年に竣工した既存施設を解体・撤去して文化観光拠点に建て替えるものだ。舞台機能を強化しつつ、体験型の展示施設などを併設する。日本芸術文化振興会や文化庁などで構成するプロジェクトチームが2020年に発表した。

 建物の老朽化への対応や、インバウンド(訪日外国人)や若年層といった新たな顧客を取り込む狙いもある。再整備にはPFI(民間資金を活用した社会資本整備)方式を採用し、ホテルやレストランなど収益施設の設置も計画に盛り込んだ。

 日本芸術文化振興会は22年度中に入札で事業者を選定し、29年度末の再開場を計画していた。だが建設費の高騰や人手不足の影響で、22年4月に公告した1回目の入札では応募者が辞退。23年2月の再公告時も事業範囲を見直すなどしたが、落札に至らなかった。

 今回の検討会では、2度の入札が不調・不落になったことから、PFI方式そのものの見直しに言及。民間事業者が持つ提案力の活用や事業費の平準化といった同方式のメリットは認めつつも、建設費の高騰に対応するには「公的資金の投入も検討すべきだ」としている。

 民間事業者が負うリスクの軽減も必要とした。再整備計画のPFI方式では、収益施設を整備する事業者が定期借地権に基づいて地代(賃料)を支払うことになっている。物価の上昇が続く中、そうした条件は最低限にとどめ、事業者の創意工夫を発揮しやすい契約内容に変更すべきだとした。日本芸術文化振興会が複数の事業検討者にヒアリングしたところ、オフィスやレストラン、ホテルといった用途での収益確保は難しいとの意見が寄せられたという。

 同振興会国立劇場再整備本部の担当者は、「財源確保は最も重要な論点の1つだ。振興会だけでは決められないので、プロジェクトチームに相談する」と話す。一方、文化庁企画調整課の担当者は、「中間まとめは課題の論点を整理したものと認識している。検討会の議論をベースに振興会で実務的な検討を進めてもらう。国の再整備計画にどう落とし込むかは、今後の議論になる」とコメントしている