電池最大手CATLの創業者が電池を超えた野望を語った
中国の電池王が語る「トヨタが開発する全固体電池はまだ現実的ではない」
中国の電池王が語る「トヨタが開発する全固体電池はまだ現実的ではない」 | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)
フィナンシャル・タイムズ(英国)
Text by Robin Harding, Ryan McMorrow and Gloria Li and Harry Dempsey
中国電池最大手CATLのロビン・ゼンCEOに英紙が単独インタビュー。中国の電池王はトヨタ自動車が開発する全固体電池は現実的でも安全でもないという。CATLは全固体電池ではなく、どんな電池の開発に取り組んでいるのか。CATLの野望を英紙が聞いた。
「全固体電池のすべてを理解している」
期待のかかる電動自動車(EV)向け全固体電池には、開発を妨げる「たくさんの障壁」があり、商品化にはまだ何年もかかるだろう。そう語ったのは、電池業界を支配する中国大企業のトップである。
本紙「フィナンシャル・タイムズ」は、CATLの創業者にしてCEOであるロビン・ゼンにインタビューをおこなった。ゼンによれば、これまで大きな話題となってきた全固体電池の技術は、まだ充分に機能しておらず、耐久性に欠け、安全性の問題も抱えているという。
電池業界の専門家たちいわく、全固体電池は通常の電池技術に使用される電解液をいっさい使用しない電池であり、EVの走行可能距離を格段に伸ばすことのできる革新的技術である。日本の自動車メーカーであるトヨタは全固体電池の開発を声高にうたい、早くも2027年にはそれを商品化すると約束している。
だが、物理学の博士号を持つ中国の「電池王」は、日本のライバル企業がそれほどの速さで全固体電池を商品化しようとしていることに疑問を呈した。
「全固体電池の技術自体は我々も完全に支持しますが、私はもう10年もこの事業に投資してきたんです」とゼンは語る。「私は開発担当者が全固体電池に取り組む様子をほぼ毎月見ていますから、その進捗をすべて理解しています。それでも我々はまださまざまな障壁に悩まされているのです」
全固体電池の3つ障壁
ゼンいわく、全固体電池から大きな恩恵を得るためには、アノード電極に純粋リチウム金属を用いて新種の化学反応を起こす必要があるが、これを市場に出すにはさまざまな困難が伴うという。
現在主流の液状電池の場合、リチウムイオンは電解液中で簡単に拡散するが、固体電解質を用いた場合はリチウムイオンがうまく拡散しない。ゼンによれば、技術者たちはこの問題を回避すべく、原料を高圧力下で合成するという。
「これで実験してみると、よしうまくいったとなるわけです。イオンの伝導がよく進むんですね。しかし現実問題として、どうやったら電池をそれほどの高圧力下に保っておけるのでしょうか?」
2つ目の問題は、充電時と放電時に発生するリチウムの膨張である。これが電池に負担をかけ寿命を短くしてしまうのだ。
「これでは充電の回数も限られてしまいます。おそらく10回程度しかできないでしょう。これでどうやって商品化できるでしょうか?」
きわめつけに安全性の問題が残っているとゼンは言う。自動車事故が発生して電池がむき出しになった場合、リチウムは大気中の水分と反応して発火してしまうのだ。
「ですので、全固体電池の商品化を急かす人たちもいますが、そういう人たちに対して私は『CATLがもう10年も開発に取り組んでいるんですよ』と言ってやるんです」とゼンは語り、全固体電池の開発競争において自社グループはほかのどこにも遅れをとらないと付け加えた