津波対策

南海トラフ巨大地震に挑む3重防護、高知中心部への津波の脅威を減らす

奥野 慶四郎

 

ライタ

 

 

 

南海トラフ巨大地震に挑む3重防護、高知中心部への津波の脅威を減らす | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

 

防波堤の整備と海岸線の堤防のかさ上げ・強化、湾内の護岸改良という「3重防護」を進める高知市・浦戸湾。地理的特性を生かした他に類を見ない事業で、南海トラフ巨大地震による津波への防災・減災に挑む。

 2024年早春。高知市の高知新港沖に、4、5階建てビルにも相当する巨大なコンクリート塊が現れた(資料1)。甚大な津波被害が懸念される南海トラフ巨大地震への備えとして、国土交通省四国地方整備局が整備する桂浜津波防波堤(仮称)の堤幹部を成すケーソンだ(資料2)。

資料1■ 国内最大級のクレーン船で運ばれた桂浜津波防波堤用の巨大ケーソン。工事の本格化に備えて高知新港沖に仮置きされた(写真:国土交通省四国地方整備局)

資料1■ 国内最大級のクレーン船で運ばれた桂浜津波防波堤用の巨大ケーソン。工事の本格化に備えて高知新港沖に仮置きされた(写真:国土交通省四国地方整備局)

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資料2■ 桂浜津波防波堤の堤幹部となるケーソン。長さ13.2m×幅11.9m×高さ13.2m。重さは約1800tだ(写真:国土交通省四国地方整備局)

資料2■ 桂浜津波防波堤の堤幹部となるケーソン。長さ13.2m×幅11.9m×高さ13.2m。重さは約1800tだ(写真:国土交通省四国地方整備局)

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 四国地整と高知県が公表した資料によると、マグニチュード(M)9クラスの南海トラフ巨大地震が発生すれば、高知市には高さ16m程度の津波が浦戸湾から浸入する。津波は湾口から直線距離で7~8km離れた高知市街地にも容赦なく襲いかかる。

 県の人口のおよそ半分が集中し、大手企業の事業所や中枢機関が数多く立地する地区ゆえに、想定される被害は甚大だ。何も対策を講じなければ3300ヘクタールのエリアが浸水。床上・床下浸水の住居戸数は5.5万戸に達し、被災者は約12万人、被害資産はおよそ3兆円に上る。

 建設が始まった桂浜津波防波堤は、対岸の種崎千松公園側に整備予定の種崎津波防波堤(仮称)と対を成して湾口を絞る(資料3)。整備後は湾口の幅が現状の約300mから約170mへと狭まり、津波の流量や流速がカットされる。

資料3■ 桂浜津波防波堤の設置イメージ。2026年度の完成を目指す(出所:国土交通省四国地方整備局)

資料3■ 桂浜津波防波堤の設置イメージ。2026年度の完成を目指す(出所:国土交通省四国地方整備局)

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 この津波防波堤の工事は、四国地整と高知県が16年度に始めた総額約640億円の巨大事業の一環だ。「3重防護」対策と呼ばれている。

 「3重」とは、外洋に面した高知新港沖合の4つの防波堤(第1ライン)、冒頭の桂浜津波防波堤など浦戸湾湾口部の防波堤や外縁部の堤防(第2ライン)、浦戸湾内の護岸(第3ライン)で築く3段構えの防衛ラインを指す(資料4)。これらの施設で段階的に津波の減勢や水位低下を図り、市内の防災・減災につなげる。

資料4■ 3段構えで市内を守る

資料4■ 3段構えで市内を守る

3重防護事業の概要(出所:国土交通省四国地方整備局