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ツバキ」「ウーノ」の売却は逆効果だった恐れ…資生堂が「1500人早期退職」に追い込まれた3つの理由

プレジデントオンライン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vincent_St_Thomas

 

 

 

 

資生堂

国内事業の

従業員の1割強にあたる

約1500人の

早期退職を募集すると

発表した。

 

 

企業アナリストの大関暁夫さんは

「資生堂はコロナ禍の業績不振からの回復が遅れており、早期退職に追い込まれたのだろう。

だが、早期退職は社内の雰囲気を悪化させるため、回復がさらに遅れる恐れがある」という――。 

 

 

 

【写真】資生堂の魚谷雅彦会長兼CEO 

 

 

 

■国内従業員の1割強が「早期退職」の対象に

  化粧品業界最大手の資生堂が苦境に陥っています。

化粧品業界はコロナ禍の影響で2020~22年に売上高を大きく減らしており、23年12月期決算では大幅な回復が期待されていました。ところが中核を担う日本事業は売上高2599億円で、コロナ禍前の19年12月期の4515億円と比べると6割程度でした。

 

  一方、

「コア営業利益」は18億円と前年に対して149億円改善し、

黒字に転換しました。

 

しかし、19年度の営業利益は910億円。

 

22年12月期第1四半期から国際会計基準であるIFRSを採用しているため、

単純比較はできませんが、

回復の遅れが読み取れる結果となりました。 

 

 

 これに危機感をもったのでしょう。

 

資生堂は2月、1500人の早期退職募集を発表しました。

 

資生堂の国内事業の従業員は、本部機能を除くと約1万3000人で、

今回の早期退職募集は1割強にあたります。

 

 

  筆者は、

資生堂が苦境に陥った原因として、

 

「戦略の3つの誤り」があったとみています。 

 

 1つ目は、

若年層をつかみ損ねた長期戦略の舵取りミスです。

歴史的にみれば、高度成長期からバブル期にかけて、百貨店などの大型店舗や街の専門店を足場として商品の値崩れを防止することでブラント構築をしてきた同社ですが、その過去の栄光が影響したのか、新たな潮流への対応力に欠けたといえます。 

 

 

 

■化粧品販売の「黄金セオリー」が崩された 

 その典型例としてあげられるのが、

2000年代に

ドラッグストア、

コンビニエンスストアなどで展開されてきた

「プチプラコスメ旋風」への対応の遅れです。

 

 

プチプラコスメとは、

プチ(petit=仏語で少し)とプライス(price=英語で価格)を組み合わせ、

手軽で安価な化粧品という意味を持たせた造語です。  

 

 

同時にEC(電子商取引)対応の遅れという、

戦略的ミスも指摘できます。

「化粧品は対面で売ってこそ顧客満足度が高まる」という黄金セオリーが、もろくも崩されてしまったのです。  

 

以前は百貨店詰めの美容部員や研修を受けた化粧品店員が、

化粧ノウハウを伝授することがウリとなっていた化粧品販売も、

今やそのノウハウはYouTubeなどからタダで手に入れられる時代となりました。

 

その結果、

化粧品は

ECサイトや

ドラッグストアで

 

簡便かつ安く手に入れるのが、

若い世代の常識となってきたのです

 

 

 

 

■「ツバキ」「ウーノ」を1600億円で売却 

 

 2つ目は、

「ツバキ(TSUBAKI)」

「ウーノ(uno)」

「専科」

「シーブリーズ(SEA BREEZE)」

といった著名ブランドの売却です。 

 

 

 若年層獲得の優先順位を下げた資生堂は、

 

中~高価格帯の主力ブランド

クレ・ド・ポー ボーテ」を中心とした

販売戦略に舵を切り、

 

それに伴って2021年7月に、

「ツバキ」や「ウーノ」といった著名ブランドを含むパーソナルケア事業(日用品事業)を、

 

投資ファンドの

CVCキャピタル・パートナーズに売却しました。

 

 

  売却額は1600億円。

時はちょうどコロナ真っ盛りの業績低迷時期であり、

手元資金確保と日用品事業の商品開発費用および広告宣伝費用の削減を目的とした戦略でした。

 

感染症ダメージという不可抗力的アクシデントへの対抗策なので、

背に腹は代えられない選択であったといえます。  

 

 

しかし、当時グループ売上の約1割を占め、

確実に利益を稼いでくれていた事業の売却は、

コロナ後の営業利益の落ち込みを考えると痛手であったといわざるを得ないでしょう。 

 

 

 

■コロナ後も「インバウンド需要」は戻っていない 

 当時この事業売却理由については、

「粗利率が低い事業の切り離しではないか」という見方がありました。

確かに資生堂の中~高価格帯は粗利率の高い事業です。

 

ただし、美容部員の人件費や百貨店をはじめとした施設維持コストなど重い固定費負担もあります。  

 

※編集部註:初出時、

本文内で魚谷雅彦会長CEOの発言を引用していましたが、

事実関係に誤りがありました。取り消して、訂正します。(5月10日18時20分追記)

 

 

 

 

  一方、パーソナルケア事業(日用品事業)は、

粗利率こそ低いものの

コロナ禍においても着実に売上・利益を稼いでくれる底堅い事業であったのです。

 

後出しジャンケン的物言いにはなりますが、

資生堂にとってこのカテゴリーは残しておくべきだったのではないかと思います。

 

 

 

  投資を集中させた中~高価格帯では、

国際的に名の通った強力な欧米ブランド勢が強く、

対日本人向け市場で

資生堂が爆発的にシェアを伸ばすのは至難の業です。

 

コロナ以前に同社のこの分野の成長を主に支えてきたのは、

特にそのブランド力が通用する中国からのインバウンドに対する販売でした。

 

 

 

  3つ目は、

コロナ明けの需要の読み間違いです。

コロナ禍を経た中国国民の消費行動の変化、

中国国内での安売り競争参戦によって、

資生堂のブランド力は一時的に低下しています。

 

結果として訪日客は戻ってきたものの

資生堂に対するインバウンド需要は思ったように戻っていない状況にあり、

厳しい戦いを強いられています

 

 

 

 

 

■新たに注力するのは「インナーケア事業」

 

  そこで資生堂

日本事業の立て直しに向けて

新たに力を入れているのが、

 

美や健康に関連する栄養素をサプリなどで供与するインナーケア事業です。

 

 

具体的には、

この分野において新たなブランド

「シセイドウ・ビューティ・ウエルネス」を立ち上げました。

 

 

2月には第一弾として、

ツムラと連携したタブレットタイプのサプリメント「チューンボーテ」と、

 

カゴメと連携した飲料「ルーティナ」の取り扱いを開始しています。  

 

資生堂が持つ先端美容科学ノウハウをベースに、

「チューンボーテ」はツムラが持つ漢方知識である東洋「五臓」の考え方を融合、

 

 

 

「ルーティナ」は

カゴメの野菜と果実の応用技術を活用して、

それぞれ日常的な健康管理目的のサプリメントとドリンク剤として開発しています。

 

 

  インナーケア事業は

25年から中国など海外での展開も検討するなど、

この事業にかける意気込みの大きさがうかがい知れるところです。  

 

 

ただ、この新規事業領域は競争の激しいレッドオーシャンです。

 

サプリ市場は、

シェアトップのサントリーウエルネス、

 

2位のファンケル、

 

3位のDHCを合わせても

 

約25%であり、

 

1%以上のシェアを持つ企業が30社以上を数えています。

 

サプリが医薬品ではなく食品として

扱われるため参入障壁が低く、

新規参入が非常に多いのです。

 

 

 

 ■早期退職募集が始まると、職場の雰囲気は悪くなる 

 

 商品の入れ替わりも激しく、

一定の支持を得られないものは次々淘汰されていくという状況にあって、

資生堂が存在感を確立するのは容易ではないといわざるを得ないでしょう。  

 

 

また若年層も重要なターゲットであり、

ECを含めたオンラインと

主要販売マーケットであるドラッグストアというオフラインの、

 

マーケティング・ミックスが不可欠ではないかと筆者は考えます。

 

この点でも、

 

Webや

ドラッグストアでの

存在感が薄い資生堂には、

厳しい戦いが強いられるのではとの懸念がつきまとうのです。  

 

 

 

このように明るい材料に乏しい現状から、

会社の屋台骨である日本事業での改革が断行されたといえます。

 

早期退職者募集の対象は、

45歳以上かつ勤続年数20年以上の社員となります。

 

  これは過去の金融危機不況時に筆者がかつての勤務先で経験したものと酷似しています。

 

 

筆者の経験から申し上げれば、

こうした早期退職募集が始まると、

職場の雰囲気は著しく悪くなります。

組織は生き物であり、

一度崩れた社内のムードを立て直すのに時間がかかるのはもちろん、

易々と修復できるものでもありません。  

 

内憂外患、

苦境にあえぐ資生堂は、

かつて圧倒的な存在感で化粧品業界を席巻していた、

あの輝きを取り戻せるのでしょうか。

 

 

現状からは、その道は険しく遠いと感じさせられます。

 

 

 

 

 ---------- 大関 暁夫(おおぜき・あけお) 

企業アナリスト スタジオ02代表取締役。

1959年東京生まれ。

東北大学経済学部卒。

1984年横浜銀行に入り企画部門、

営業部門のほか、

出向による新聞記者経験も含め

プレス、

マーケティング畑を歴任。

 

支店長を務めた後、

2006年に独立。

金融機関、

上場企業、

ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、

企業アナリストとして、

メディア執筆やコメンテーターを務めている。 ----------

 

 

企業アナリスト 大関 暁夫

 

 

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