AI技術で人間のコンサルタントは不要に?

マッキンゼーや大手コンサル会社の黄金期は過ぎ去ったのかもしれない

 
 

 

エコノミスト(英国)

 

 

 

つい最近まで、マッキンゼーをはじめとするコンサル業界は絶好調であるかのように思われた。しかし、ここにきて風向きが変わった。英「エコノミスト」誌は、コンサル業界が今回の成長の落ち込みから復活するのは難しいと予想する。


2024年3月、ある匿名のメモがインターネット上に一時拡散した。メモの著者は複数人で、いずれも「マッキンゼーの元パートナー」と称していた。彼らは輝かしい業績を誇る戦略コンサル会社が近年、「成長ありきの無責任体制」に陥り、とくに経営陣に対しては「戦略的目標が欠如」していると手厳しく非難した。そしてマッキンゼー出身者らしい控え目な書き方ながら、「真に偉大な組織」が存亡の危機に瀕していると警告した。

このメモはすぐに削除されたが、それはマッキンゼー社員の直近の不満にほかならなかった。1月、同社マネージングパートナー(一般企業のCEOに当たる)のボブ・スターンフェルズは、最初の社内投票でシニアパートナーの過半数から再選に必要な支持を得られず、同社の最高位職を決める戦いに再び追い込まれた。最終的にスターンフェルズは再任されたが、一連の騒動は、マッキンゼー社内で問題が生じていることをうかがわせた。

つい最近まで、マッキンゼーをはじめとするコンサル業界は永遠の繁栄を謳歌し続けるかのように思われた。報酬額は跳ね上がった。新型コロナウイルス感染症のパンデミック期間中、彼らの顧客企業が業務のデジタル化、サプライチェーンの多様化、ESG(環境・社会・企業統治)経営の信任を得るよう要求する声の高まりに応える取り組みを加速させたためだ。
 

「ベイン・アンド・カンパニー」「ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)」「マッキンゼー」の戦略コンサル大手3社、「デロイト」「アーンスト・アンド・ヤング」「KPMG」「PwCコンサルティング」の4大会計事務所、およびアウトソーシングで世界最大手の「アクセンチュア」など、業界の最重鎮的なコンサル各社の収益は2021年に20%増、2022年には13%増となった。

だがその後、風向きは変わった。業界ウォッチャーの独立系調査会社「ケネディリサーチ」が発表したリポートの推計と、コンサル各社の財務諸表に基づく本誌「エコノミスト」の試算によれば、「コンサル最大手8社」の成長は落ち込み、2023年は年率5%前後に低下した。

インフレと経済の不透明感に苦しむ顧客企業側は、コンサル会社の助言を必要とする大掛かりなプロジェクトを減らしてきた。M&A(企業の合併・買収)件数は下回り、デュー・ディリジェンス(資産査定)や企業統合の支援といった需要も低迷するようになる。

このため、コンサル各社は頭を痛めることとなった。クライアントからの需要が無限にあるようにみえ、従業員の新規採用を積極的に進めたためだ。マッキンゼーの収益は2019年以降年率で約30%ずつ増えてはいるものの、従業員数はそれを上回る50%増の4万5000人に膨らんだ。

スタートアップやプライベートエクイティ(未公開株)ファンドにおける雇用機会が枯渇するとともに自己都合退職するコンサルタントは減り、新型コロナのパンデミック時に急増した離職率もめっきり減った。
 

いまや逆風は猛烈な勢いで吹いている。ベインとデロイトは一部の新卒者に対し入社日を遅らせ、一時金を支給した。各社の新入りコンサルタントは回ってくる仕事の少なさのあまり、キャリア展望が描けないと不満を漏らした。

コンサル業界では無縁と考えられていたレイオフ(一時解雇)も広がった。会計業界の大手4社は、そろってアドバイザリーチームの削減に踏み切った。8社中唯一の上場企業のアクセンチュアは2023年、1万9000人のスタッフを解雇すると表明した。また同社は3月21日、2023年1〜2月期のコンサル事業収益が前年同期比で3%減だったと発表した。今年度の成長見通しも下方修正し、この日同社の株価は9%下落した。

鍵を握る中国とサウジアラビア


コンサル業界は、2000年代初頭のドットコム・バブルの崩壊や世界金融危機(2007〜2010年)などの荒波を乗り越えてきた。だが今回の痛手からの回復は、3つの脅威が立ちはだかることになり、容易ではないだろう。

1つ目は地政学的危機だ。コンサル最大手はいずれも本社機能を欧米に置き、数十年にわたるグローバリゼーションの恩恵を受け、世界の隅々まで事業を拡張していった。なかでも業界最高のコンサル収益を上げているデロイトは、150以上の国と地域にオフィスがある。こうした世界展開が、いまやコンサル各社の立ち位置を悪くしている。

2月、マッキンゼーが共同設立したシンクタンク「アーバン・チャイナ・イニシアティブ」が2015年に中国政府に助言業務をおこなっていたことが表面化した。同イニシアティブの助言が「中国製造2025」計画策定につながり、以降、中国は海外企業の技術知識依存の脱却と、電気自動車から人工知能に至る広範な分野で主導的地位に立つことを目指す方針へ舵を切る。

マッキンゼーは計画策定につながった報告書の作成を否定しているが、米国議会の一部議員は、同社を連邦政府との契約から締め出すよう求めている。米国政府はマッキンゼーに対し、2023年9月までの12ヵ月間に1億ドルを超えるコンサル報酬を支払っている。
 

もっか中国は、さまざまな分野の外資コンサルを国内市場から締め出そうとしている。世界的な法律事務所「デントンズ」は2023年、サイバーセキュリティとデータ保護に関する中国の新たな管理規制を受けて、中国最大手の「北京大成法律事務所」との提携を解消した。コンサル部門において中国企業の台頭はまだみられないが、外資系はすでに厳しい状況に直面しつつある。

ベイン上海オフィスのスタッフは2023年、中国当局から根拠不明な尋問を受けた。3月22日には、中国政府がPwCによる「恒大集団(エバーグランデ)」の監査業務を精査していると報じられた。恒大は経営破綻した中国の不動産開発会社で、中国政府から売上高の不正な水増しを非難されている。PwCの中国国内のコンサル事業は今回の一件で後退するかもしれない。

地政学的問題を引き起こしているのは、なにも西側諸国と中国との関係に限らない。2月にはBCG、マッキンゼー、そして中堅コンサル会社「テネオ」の経営トップとマイケル・クラインが、サウジアラビアの「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」に対する助言業務の詳細に関する文書の提出を怠ったとして、米上院委員会から召喚を受けた(同委員会は、PIFがゴルフなどのスポーツ競技の投資を通じ、米国で「ソフトパワー」を構築しようと試みた経緯を調査している)。クラインはPIFのトップアドバイザーだった人物だ。

マッキンゼーとBCGの両経営トップは、両社がクライアントから受託した業務内容を漏洩すれば、サウジアラビア駐在スタッフが投獄される恐れがあると証言した。コンサル会社にとってペルシャ湾岸諸国は近年まれにみる明るい市場であり、オイルマネーで潤う湾岸諸国は経済の多角化を求め、彼らの助言に大金を投じている

 

 

 

 

AI開発会社との協業


コンサル業界の業績回復にとって第2の脅威は、「ウォーク(WOKE、社会問題などへの意識が高いことを揶揄した表現)資本主義」と批評家らがそしるESG(環境・社会・企業統治)への熱意が衰えつつある、ということだ。ここ数年、コンサル最大手各社は、とくに脱炭素化関連のESG案件拡充に多額の資金を投じてきた。
 

マッキンゼーは2021年、サステナビリティ推進派コンサル3社を買収した。アクセンチュアは翌2022年に5社を買収した。現時点では、こうした投資は成功しているようだ。2022年、環境サステナビリティコンサル会社の「クアンティス」を買収したBCGのCEOクリストフ・シュヴァイツァーは、2023年最も急成長した分野のひとつがサステナビリティだと話す

 

 

 

 

だが、今後も同じようなペースで右肩上がりを続けるかどうかは心もとない。米国ではフロリダ、ミズーリ、テキサス州といった共和党色の濃い州が、世界最大の資産運用会社「ブラックロック」に預けていた資金を引き揚げた。同社の投資方針にESGへの配慮が含まれていることに対する抗議だった。

コンサル関連調査会社の「ソースグローバルリサーチ」が1月に実施した調査では、コンサル会社のクライアントによるサステナビリティ関連プロジェクトの位置付けは、2023年の4位から10位に下がった。

コンサル大手の一部は特定のクライアントについて、大胆な気候変動対策の取り組みが尻すぼみになっていることを認めた。別のコンサル大手は、消費者は懐事情が苦しくなり、環境配慮型商品の価格上乗せ分(グリーンプレミアム)を支払う余力がないことを指摘した。

そしてコンサル最大手8社にとって最もやっかいな第3の脅威が、技術的変化だ。顧客企業は長年にわたり、扱いにくい旧来のシステムを近代化するための支援をコンサル会社に求めてきたが、当のコンサル会社自身がデジタル・ディスラプション(デジタル技術による既存秩序の破壊)と格闘する事例がますます増えている。
 

企業買収を手がけるコンサル大手トップによれば、売却の相手先企業がターゲット企業評価に必要な分析の一部を高額な費用がかかるコンサルタントではなく、分析ツールやデータプロバイダーに頼りつつあるという。また、企業の支出傾向に関するデータの集計や分類など、かつて大勢のコンサルタントが何時間もかけて分析した作業も、いまやボタンをクリックするだけで済む。

コンサル会社側も、ただ手をこまねいているわけではない。ベインは、Webスクレイピングプログラムといった最新の自動化ツールを取り入れ、企業資産のデュー・ディリジェンス手法を一新した。AIに一歩先んじるべく、互いに知恵を絞ってもいる。マッキンゼーは2023年8月、社内のデータフレームワークおよび大規模言語モデル(LLM)に基づくコーパスを学習させたChatGPTのようなチャットボット「Lilli」を発表し、コンサル業務のスピードアップを目指している。

競合他社もこの動きに追随する。ベインのマネージングパートナーのマニー・マセダは、このようなボットを活用すれば、コンサルタントは顧客企業の「組織の現実」をいっそう良く理解するための時間が確保できるとみている。

この種の“生成型”AIに対するクライアントの期待の高まりは、新たな仕事も生み出している。BCGのシュヴァイツァーCEOによれば、同社はすでにAI技術に関連した数百のプロジェクトの契約をクライアントと結んだという。

アクセンチュアは過去6ヵ月間で11億ドル相当の生成AI関連業務を受注した。こうした取り組みはAI開発企業との協業がほとんどで、アクセンチュアはマイクロソフトと提携している。同社は3月、AIモデル開発を手がける「コーヒア」との業務提携を発表した(マッキンゼーもコーヒアの提携先だ)。ベインはChatGPT開発元の「OpenAI」と組み、BCGも、やはりAI開発を手がける米「アンソロピック」と提携している。
 

AI開発企業との協業は、コンサル業界にとって歓迎すべき成長源のようにみえる。しかし時が経過すれば、足もとをすくわれる可能性がある。AI企業との協業によって成果を出した場合はなおさらそうだ。

顧客企業側がチャットボットにいち早く満足すれば、シリコンバレーの開発元に直接頼る時期がやってくるのもその分早くなるだろう。そうなればコンサル最大手8社がAIの助けを借りて短期的に利益を出しても、結果的に的外れな企業努力となりかねない。クライアントの戦略を練る前に、まずはこの問題を考えたほうがよい

 

 

 

 

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