若い労働力の流出が止まらない

「高収入ワーホリ」を目指す日本の若者たちの現状─次なるトレンド国は

 

 

ブルームバーグ(米国)

 

Text by Momoka Yokoyama and Mia Glass

 

「稼げる」というイメージから、海外へワーキングホリデーに行く日本の若者が急増している。米メディア「ブルームバーグ」が、彼らを海外へ向かわせる日本の現状と最新ワーホリ事情を取材した。

 

給料は日本にいたときの3倍


オーストラリアの田舎の食肉加工施設に勤めるヨシハラ・トモキ(25)は、朝5時からシフトに入り、週に約50時間働く。彼はここで、日本で自衛隊員だったときの3倍の給料を稼いでいる。

2023年度、オーストラリアが日本人向けに発給したワーキングホリデー(ワーホリ)ビザの数は、過去最多となった。ヨシハラもそうした日本人の一人だ。彼らがオーストラリアに惹かれる理由のひとつは賃金の高さだが、これは円安傾向によっていっそう魅力的なものとなっている。

「給料の面からいえば、こちらのほうがはるかに良いです」とヨシハラは言う。彼は月に手取りで約3300ドル(約52万円)もらっており、シドニーの南にあるゴールバーンに住んでいる。「お金を貯めたいなら、オーストラリアは最高ですよ」
 

若者と政府の認識にギャップ


コロナ禍を経て、英国やカナダ、ニュージーランドのワーホリビザ発給数が回復するなか、日本では若い人材の流出による労働力不足が深刻になっている。これは、デフレからの脱却を目指す日本政府の経済的楽観主義を、多くの若者が受け入れていないことを示している。

「若者は日本経済の見通しに疑問を抱いています」と、明治安田総合研究所のエコノミスト、吉川裕也は言う。「実際の生活状況は、報道されているインフレ率が示すよりもはるかに厳しいです」

賃金の上昇によってインフレが促進される好循環の兆候が見られるなか、日本銀行は3月、マイナス金利を解除した。しかし同月、日本の労働組合が過去30年で最大の賃上げを勝ち取ったばかりにもかかわらず、実際の給料においては、ほかの先進国とのあいだに大きな差がある。

OECDの最新データによると、2022年、オーストラリアの平均年収は5万9408ドル(約928万円)、米国は7万7463ドル(約1209万円)だったのに対して、日本は4万1509ドル(約648万円)だった。

賃上げよりも雇用の安定性を優先する長期のトレードオフは、物価の変動がほとんどなかった時代には理にかなっていた。だがいま、インフレ率が数十年振りの高水準にあるなか、日本人の多くは長年の賃金停滞により、毎月のやりくりが厳しいことに気付きはじめている。
 

「他国の賃金が上昇する一方、日本では過去20年間、賃金がまったく上がりませんでした」と、伊藤忠総研のチーフエコノミストである武田淳は言う。「円安が進み、その差はさらに大きくなっています

 

 

 

 

 

2024年の人気渡航先を予測


2023年6月までの1年間で、1万4398人の日本人がオーストラリアのワーホリビザを取得した。オーストラリア政府のデータによると、これは2001年以降で最多の数字だ。

ワーホリビザは、18歳以上30歳以下の若者に休暇目的の入国と、就労しながら滞在資金を調達することを認めるものだ。オーストラリアの場合、滞在期間を3年まで延長することも可能だ。

魅力的な賃金に加えて、安全な国であるという評判や、日本との時差がほとんどないこと、そして最近ルールが緩和され、条件を満たせばビザ取得者が6ヵ月以上の就労を認められるようになったこともあり、オーストラリアは人気の渡航先となっている。

同国は「これまでも寛容なビザシステムがありましたが、最近の改正で就労期間が延び、日本人はより移住しやすくなりました」と、日本ワーキング・ホリデー協会の真田浩太郎は言う。
 

オーストラリアに限らず、ルールが緩和されれば、ビザの発給数はさらに増えるだろうと真田は予測する。たとえば今年、英国のワーホリビザの日本人枠は、1500から6000へと大幅に増加した。これを受け、真田は英国が次の人気渡航先になるだろうと予測している。

「働き口を期待して、ますます多くの人が海外に向かっています」と話すのは、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの首席エコノミスト、田口はるみだ。「この傾向が続けば、日本で若い労働者を雇用するのはいっそう難しくなるでしょう

 

 

 

 

止まらない労働力の流出


大学を卒業してすぐの4月にオーストラリアへと向かったタカハシ・リリ(22)は、ワーキングホリデーで2年間滞在したのち永住権を取得し、ここで女性のパートナーと結婚することも考えているという。日本と違い、オーストラリアでは同性婚が認められているからだ。

また、対オーストラリアドルで円が過去10年ぶりの安値を更新し、円換算で収入がさらに増加したことは、ワークライフバランスの改善にもつながるだろう。

 

 

 

 

「日本の給与は生きていくには充分かもしれませんが、趣味や交際費に使えるお金が残らないのは悲しいです」とタカハシは言う。
 

ワーキングホリデービザの増加は海外移住を選ぶ日本人の増加という、もっと大きなトレンドの一部だ。外務省によれば、2023年、外国の永住権を持つ日本人の数は、1989年の調査開始以来最多だったという。

この傾向により、高齢化が進む日本社会において、労働力不足がさらに深刻化する可能性もある。ある調査では、中小企業の3分の2以上が労働力不足に直面していると回答している。帝国データバンクによれば、2023年、労働力不足が原因で破産した会社の数は史上最多だったという。これを受け、日本政府は過去最多の外国人労働者を受け入れ、人手不足を緩和しようとしている。

伊藤忠総研の武田淳は、労働力の海外流出は経済的な見通しに左右されると話す。「日本がより早く成長できる環境にならないと、若者たちは日本に戻る理由を見つけられないかもしれません

 

「高収入ワーホリ」を目指す日本の若者たちの現状─次なるトレンド国は? | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

 

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エコノミスト(英国)

 

 

 

より高い給与を求め、海外で働く日本人の若者が急増している。その原因は日本の給与が安いからというだけではない。背景にあるその本当の理由に、英誌「エコノミスト」が迫った。

 

海外に「出稼ぎ」に行く若者の急増


神奈川県出身のアシハラ・マリナ(25)は、世界を見たいと思っていた。2022年4月、彼女は「ワーキング・ホリデー」プログラムを利用し、オーストラリアに移住した。この制度では、31歳未満の若者に1年間のビザが発給される。彼女は、東部の農場で4ヵ月間働き、現在はシドニーでバリスタとして働いている。

冒険のつもりで始めた海外生活だったが、それが経済的にも合理的だと気づいた。彼女は最低賃金で働いているが、その時給は時給21.38豪ドル(約1960円)と日本の最低賃金の倍額だ。パートタイムで働いても、東京でOLとして下働きをしていたときよりも多くの収入を得られる。

海外で働こうとする日本人がいま増えている。アシハラはその一例だ。オーストラリアにワーキングホリデービザを申請する日本人の数は急増し、2022年には前年比で倍以上になった。求人プラットフォームの「インディード」では、海外求人の検索数が過去最高を記録している。
 

留学エージェントは「出稼ぎ留学」という言葉を宣伝に使うようになった。海外で学びながら稼ごうと言うわけだ。キャリアコンサルタントのヒラワタリ・ジュンイチは言う。「日本とまったく同じ仕事をしても、海外で得られる収入は倍になる可能性があります。より強い通貨で稼ぎたいと考える若者が増えているのです

 

 

 

 

明るくない将来への悲観