ヨーロッパで徴兵制復活の動き、ドイツ国防相「兵役停止は誤りだった」…デンマークなどは女性も対象

読売新聞オンライン

 【ロンドン=尾関航也】

 

欧州各地で長く停止していた徴兵制を復活させたり、

兵役の対象者を拡大したりする動きが広がっている。

 

ドイツで兵役再開の是非が議論されているほか、

すでに再開した国もある。

 

ウクライナ侵略を続けるロシアへの警戒感に加え、

北大西洋条約機構(NATO)の同盟国である米国への信頼低下が背景にある。

 

 

 

  【図解】一目でわかる…兵役義務を巡るヨーロッパ諸国の状況

 

 

 

定員割れ

 ドイツ

ボリス・ピストリウス国防相は

今月4日、

ドイツ連邦軍の組織改革に関する発表の中で、

若年層の新規入隊拡大へ向けた方策を検討していると明らかにした。

 

 

 ドイツではかつて18~27歳の男性を対象に、

原則として兵役が義務付けられていたが、

2011年に停止され、

現在は軍の定員割れが常態化している。

 

 

 ピストリウス氏は兵役の停止について、

「誤りだった」とした上で、

徴兵制を維持している北欧諸国の兵役の仕組みに関心があると表明した。

何らかの形で義務的な兵役の再開を目指す意向とみられる。

 

 

 

 すでに徴兵を再開した国もある。

 

旧ソ連バルト3国の一つである

ラトビア

は今年1月、18年ぶりに徴兵制を復活させ、18~27歳の男性に原則として11か月間の兵役を義務付けた。

 

 

 旧ユーゴスラビアのクロアチアでは、09年のNATO加盟直前に兵役が停止されたが、地元メディアによると、再開へ向けた調整が進んでいる。

 

 

 

トランプ氏

訓練中の徴集兵と言葉を交わすデンマークのフレデリクセン首相(左、3月)=ロイター

 

 

 

 各国に共通するのは、

ロシアとNATOの間で

軍事衝突が起きた場合、

現状の兵力ではロシア軍の侵攻を防げないという危機感だ。

 

欧州では冷戦後、

大半の国が兵員規模を縮小させてきた。

 

ロシアのウクライナ侵略をきっかけに各国が軍備増強に転じる中、

いかに兵員不足を補うかが喫緊の課題となっている。

 

 

 

 NATOの盟主、米国の動向も欧州の焦りに拍車をかけている。

 

欧州防衛への関与に

否定的な発言を繰り返す

共和党のトランプ前大統領

11月の大統領選で勝利し、返り咲く可能性がある。

NATOの抑止力低下に直結しかねず、欧州としては看過できない問題だ

 

 

 

女性も対象

 すでに徴兵制がある国でも、制度の強化と拡充の動きが見られる。

 バルト海を挟んでロシアと向き合う北欧デンマークは今年3月、26年から女性を徴兵対象に加えると発表した。英BBCによれば、欧州で女性に兵役を義務付けるのはスウェーデンとノルウェーに続いて3か国目だ。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「戦争をしたいからではなく、避けたいから再軍備するのだ」と抑止力強化の意図を強調した。

 ただ、兵役再開や拡大の効果に関しては、「技術的に洗練された現代の軍隊で徴集兵に何ができるのか定かではない」(英誌エコノミスト)と疑問視する声もある。

 国民の支持も国によってまちまちだ。フランスではマクロン大統領が17年の大統領選で兵役再開を公約したが、対象となる若者らの反発で今も実現の見通しは立っていない。

徴兵制とは…自由の制限巡り反発も

 Q 徴兵制とは。

 A 国家が国民に一定期間の兵役を義務付ける制度で、志願制と区別される。18歳前後の男性を数か月から年単位で徴集するのが一般的だ。軍に必要な人員を確保し、組織的な行動や兵器の操作に習熟させることで、有事の防衛力を高める狙いがある。

 近代では、18世紀末のフランス革命時に革命政府が導入したのが始まりとされる。第1~2次大戦期には米、英、ドイツを含む多くの国で、国民に兵役を義務付けた。日本では1873年(明治6年)に導入され、1945年の終戦まで続いた。

 Q 今も徴兵制があるのはどういう国か。

 A ロシアやイランなど専制国家もあれば、フィンランドやエストニアなど民主主義国もある。永世中立国スイスは、徴兵制を基盤とする徹底的な国民皆兵制度で知られる。アジアでは韓国、北朝鮮、ベトナム、タイ、シンガポールなどに兵役義務がある。

 米ピュー・リサーチ・センターによる2019年時点の調査によれば、制度として徴兵の仕組みが存在するのは世界83か国。そのうち60か国で実際に施行されていた。

 Q 反発はないのか

 

 

 

 

 

A 国民の行動の自由が制限され、若者の人生設計に多大な影響を与えるので、どの国にも反対意見はある。韓国ではスポーツ選手や芸能人の兵役免除について、しばしば論争が起きている。

 一部の国は宗教上の事情などを理由に「良心的兵役拒否」を容認し、社会奉仕への従事などを義務付けている。一方で、徴集兵は技能と規律を身につける間に衣食住が約束され、給与も支払われるため、兵役が事実上の職業訓練や失業対策の役割を果たしている場合もある

 

 

 

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