The Wall Street Journal

 

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け

 

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け© The Wall Street Journal 提供

工場から出荷される一つ一つの製品が常に完璧であるとしたらどうだろう。工場長の夢物語のように聞こえるかもしれないが、これは「欠陥ゼロ」のモノづくりの最終目標であり、米国の経営幹部の間ではこうした理想を追求する姿勢が広がっている。

米国の製造業に対しては、品質について厳しい視線が注がれている。製品のリコールは急増し、ボーイング機のドアプラグが飛行中に吹き飛んだ1月の事故など、大きな問題の報道も相次ぐ。ただ、企業の間では技術や訓練、重点の置き方など複数の要素を組み合わせることでミスをなくすことができるとの指摘もある。

自動車大手フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は欠陥ゼロの目標実現が必要だと主張する。投資家に対しては昨年、ピックアップトラック「スーパーデューティ」の製造での問題を発見するために、組み立てラインで人工知能(AI)を活用し、徹底的な走行テストを行ったと説明した。同様に欠陥ゼロを目指す自動車大手ステランティスでは、新たな品質基準の数は100を超え、品質保証に基づくクレーム請求の減少率は2桁になったとしている。

医薬品やスナック菓子など、さまざまな業界の企業が欠陥ゼロを目標に掲げる。ミズーリ州に本社を置き、半導体向けの化学薬品や材料を製造するブリューワーサイエンスはPR動画で自社を「完璧の先駆者」と称する。同社によると、徹底した測定と検査により、アルミニウムイオンなどの不純物を10億分の1(ppb)未満のレベルにまで減らした。スリカンス・コム最高執行責任者(COO)は欠陥の定義はますます厳格化していると指摘し、「今日は十分であっても、明日は十分ではない」と述べた。

 

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け© The Wall Street Journal 提供

品質管理を巡る問題が相次いでいることで、完璧を目指す取り組みに力が入っていると話すメーカーが増えている。ニュースレター「ワランティ・ウィーク」によると、2022年は品質保証に基づくクレーム対応での自動車メーカーの費用は過去最高額に達した。連邦機関の米消費者製品安全委員会(CPSC)が発表した製品リコールは23年に6年ぶりの高水準に達した。

企業のリコール対応を支援する米セジックによると、昨年は製薬会社や食品会社でリコールが急増した。セジックのクリス・ハーベイ上級副社長は、品質問題の背景には従業員の訓練不足、複雑化する製品、拡大するサプライチェーン(供給網)があると指摘する。

ボーイング機の胴体を製造する部品メーカー、スピリット・エアロシステムズは品質問題で打撃を受けている。パット・シャナハンCEOは同社の目標は「完璧を実現すること」とし、今後1年以内の目標達成に向けた取り組みを開始したと語った。

スピリットのショーン・ブラック最高技術責任者(CTO)はこの取り組みについて、製造工程を簡素化することが目的との認識を示す。同社は色分けされたドリルテンプレートとその色に対応する工具を使用し、工具はあらかじめ適正な速度に設定されるという。また、機首と尾翼部分に数千個の固定具を取り付ける手作業などは自動化する。スキャナーで機体の隅々まで点検し、最終製品に誤差がないかどうかを確認するという。ブラック氏は「検査報告書を提出する代わりに、デジタル画像を直接顧客に渡すことができる」と語る。

 

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け© The Wall Street Journal 提供

欠陥ゼロを追求する考え方は、1960年代初頭に米防衛産業のマーチン社が「パーシング」ミサイルから欠陥を排除する努力から広がった。同社はそれまで、バルブの緩みなどの問題を発見するために検査に頼っていたが、問題の予防に重きを置く方針に変えた。ポスターや集会で従業員に対して正しい作業を最初から行うよう呼びかけ、その後の点検作業も徹底した。

マーチンの品質責任者、ジェームス・ハルピン氏はこの取り組みに関する書籍で、数百人に上る従業員が完璧な作業を継続することでミスが激減したと記した。ハンダ付け作業員の1人は一度もミスがないまま50万回近くの接合作業を行い、別の作業員はミスなしの組み立て作業が5万回続いたという。

欠陥品の発生をなくすこうした取り組みを多くの企業が採用したが、数十年を経た現在でも、品質管理には問題が付きまとう。カリフォルニア大学バークレー校のロバート・リーチマン教授(経営工学・オペレーションズリサーチ)によると、1980年代から90年代にかけて、米企業の製品は品質管理プログラムの導入などによって大幅な改善がみられたものの、企業の間で業務を低コスト地域に移管する動きが強まると、進歩は頭打ちになったという。

 

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け

米製造業で高まる「欠陥ゼロ」追求 品質問題の増加受け© The Wall Street Journal 提供

リーチマン氏は「大ざっぱに言うと、品質に関してはわれわれは1990年代末の状態とほぼ変わっていない」と述べた。

ミシガン州を拠点とする自動車関連メーカーのハッチ・スタンピングで品質担当のバイスプレジデントを務めるジョセフ・デラニー氏は、これまでの進歩は大きいと語る。ハッチでは、欠陥部品の検出・排除のためにロボットによる画像処理システムと高度なセンサーを使用しているという。同社は欠陥検出の精度をさらに高めるためにAIの活用を検討しているものの、デラニー氏は、部品の複雑さや問題発生要因の多さを考えると、欠陥ゼロを達成するのは容易ではないと述べた。

欠陥ゼロに向けて導入する技術や仕組みは高コストになる可能性があるが、工業部品メーカーのパーカー・ハネフィンなど、コスト節減につながると主張する企業もある。

自動車業界に詳しく、欠陥ゼロを目指す企業の取り組みを支援するコンサルタント、メアリー・リテラル氏は、低品質に伴うコストは売り上げの少なくとも 10% に相当すると考えられると語る。これは、不良品への対応に費やした時間など総合的な要因を考慮した結果だという。

エネルギー産業向けの製品を手掛けるシュナイダーエレクトリックの欠陥ゼロの取り組みには、ボルトなどの締め付けで適正な強さに達したことを示すトルクレンチや、異常を検出する AI ツールなどが含まれる。同社北米事業の社長を務めるアーミル・ポール氏は従業員には製品の品質に関して積極的に発言することを奨励しているとし、希望すれば匿名でも構わないという。

昔から人為的なミスは欠陥が発生する要因になってきたが、コンサルタントのリテラル氏は、こうしたミスは製造工程から排除することができると話す。工具を逆向きにセットすることができないような機械や、空になれば動かなくなる接着剤塗布装置を設計することなどを対応として挙げた。

米国品質協会(ASQ)の次期会長に就任するダニエラ・ピッチョッティ氏は、企業は通常、重要な部品に特別の注意を払い、その他の部品に対してはサンプリングによる検査を行うことが多いと語る。そのため全てを把握することは極めて困難であり、うまく機能している製造システムでさえ、新しいサプライヤーや新しい材料、新しい従業員によっておかしくなる可能性があると語る。同氏は「失敗のリスクは内在する」とし、「それはいつでもそこにある」と述べた