スノーピーク大幅減益が暗示する「見せびらかしキャンプ」の終焉、そして「グランピング」もフェードアウトする

現代ビジネス

非上場化まで発表

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 スノーピーク、純利益は100万円で前年比99%の減少。  

 

 

 

今年2月13日に同社が発表した決算は、なんとも衝撃的だった。

 

 

 

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スノーピークは、新潟・燕三条を本拠に、高品質のキャンプ用品やアパレルの製造・販売やキャンプ場なども運営するアウトドア用品の大手だ。  

 

 

2020年以降、コロナ禍でキャンプ人気が更に高まったことから、全国で販売網を増やし、ストア併設直営キャンプ場、体験型複合施設、複合型リゾート、宿泊・グランピングまで手掛けることで、キャンプ愛好家だけでなく、感度の高い都市部の比較的高所得なキャンプ初心者の取り込み、2022年12月期の連結売上高は、前年比119.7%増加の307億円と過去最高を記録した。  

 

 

しかし、コロナ禍が落ち着き海外旅行など他のレジャー需要が回復したことで、

一転して不振に陥り、

販管費の増加などもあり、

今年2月13日に発表した2023年12月期連結決算は、

売上高が前年比16.4%減の257億円、

当期純利益は前年比99.9%も減少し、

たった100万円という結果になった。  

 

 

 

この結果にマーケットもキャンプ愛好家も騒然とするなか、

 

新たなニュースが飛び込んできた。  

 

決算発表から1週間後の今年2月20日に、

 

申し合わせたように、

 

スノーピークは、

MBO(経営陣による買収)による非上場化を発表し、

更に世間の注目と困惑を集めることになった。

 

 

 

自治体や地銀も前のめりだった

 

 MBOは、米プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の

 

ベインキャピタルが、

 

TOB(株式公開買い付け)を実施する。

 

 

買い付け期間は4月12日までで、価格は1株あたり1,250円で総額は約340億円を見込む。

 

 

TOBが成立すれば、東証プライム市場への上場は廃止され、ベインが55%、創業家が45%を保有する形になる。一方、創業家である山井太会長兼社長(64)がMBO後も経営にあたるという。  

 

 

 

非上場化により、意思決定を迅速化し、事業を進め易くなる利点がある。

 

また、創業家にとっては、

株価下落による買収リスク回避や、

相続など事業承継に資する意図もあるだろう。  

 

 

なお、2022年9月には、

三代目社長だった山井梨沙氏が

「既婚男性との交際及び妊娠を理由」に辞任し、

父親であり二代目社長だった山井太会長が社長を

兼務する形になっている。  

 

 

MBO後も

山井太社長が続投する背景には、

経営手腕に加え、

国内外で築き上げた人的ネットワークや

発信力への期待もあるとみられる。

 

 

 

いずれにせよ、この先も、

 

ガバナンスのあり方や、

後継者問題は

スノーピークの課題として注目されることになろう。  

 

 

また、あえて苦言を呈したいが、

 

スノーピークを地場産業や

地域創生の成功事例として

持ち上げてきた経産省など

 

中央省庁や各自治体に加え、

積極的に融資を拡大してきたメガバンクや地銀など金融機関なども

「右に倣え」だけで

前のめりの姿勢に問題はなかったのだろうか。  

 

 

 

スノーピークは地域活性化に向け、

25の地方自治体や地銀など企業と包括連携協定を締結しているが、今後は双方において見直しなどが進む可能性もあろう。  

 

 

ただ、

キャンプブームに陰りが見える中

 

ベインはなぜお金を出したのか、

という素朴な疑問を持った人も多いはずだ

 

 

べインがスノピを買った理由

 

 非上場にした上で、海外展開を強化するというが、ベインは成功すると踏んでいるのだろうか。  

 

 

ベインとしては大前提として、スノーピークの現在の価値が

「割安だから」という判断があるのだろう。

 

業績や株価は急落したものの、

根強いキャンプ愛好家に支えられたブランド価値はまだ残っている。

 

国内キャンプ市場は、縮小してもゼロになるワケではないのも確かだ。  

 

急ピッチで多角化した事業の再構築、商品ラインナップや店舗網の統廃合などリストラを進める一方、

海外事業の強化など新機軸を打ち出すことで、

企業価値を高め、

その上で、

「例えば、香港など華僑ファンドや大手商社などに高く買ってもらう、というシナリオを描いているのだろう」(外資系ファンドマネージャー)。  

 

 

忘れてならないのは、

 

ベインをはじめ

 

KKR、

 

カーライルなど

 

いわゆるPEファンドのビジネスとは、

 

企業を買収し、

 

リストラなどで企業価値を高め、

 

第三者への譲渡や株式上場などで

 

利益(キャピタルゲイン)を上げるものだ。

 

要するに、彼らは安く買えて、

その値段より高く売れればそれでいいのだろう。  

 

 

実際、スノーピークは、

非上場化後の経営方針のなかで、海外においては、

「旗艦店出店、販売チャネル開拓やブランド訴求施策強化を推進」するという。  

 

スノーピークの海外売上高は、

既に全体の33.3%で85.7億円を占めている(2023年12月期)。

 

米国では今年3月に初の直営キャンプ場がオープンするほか、

中国では富裕層をターゲットに大都市を中心に大陸全土への出店を強化するという。

 

 

  ただ、海外の強化が思惑通りに進むのかどうかはやや疑問もある。 

 

 

 山井社長は重々承知とは思うが、

 

米国ではキャンプが文化として根付き、

日本より圧倒的に巨大なマーケットがある。

 

 

筆者にも国内だけでなく、

米国でもキャンプなどアウトドア経験があるが、

キャンピングカーや

トレーラーハウスから

キャンプ用品に至るまで

豊富なラインナップが用意されており、

安価でも個々に楽しめる

 

キャンプや

別荘(キャビン)の文化が

確立されている米国において、

 

スノーピークの

高品質商品や

サービスが

 

受け入れられ、

米国事業を収益の柱としていくのは容易ではないだろう

 

 

 

 

 

 

「見せびらかしキャンプ」の終焉

 

 また、中国においても、スノーピークがイメージするキャンプ文化が早々に広がるかどうかは全くの未知数だ。価格競争も激しく、スノーピークブランドは、日本に比べればまだ無名に近い。実際、スノーピークの海外売上高は85.7億円と前年比で5.8%減少している(2023年12月期)。  そもそもスノーピークの業績悪化の要因として「キャンプブームに陰りがみえることと、コロナ禍の収斂とレジャーの多様化」を挙げる意見もあるが、それは正しいとは言えないと筆者は考えている。  「都会の煩わしさを忘れ、自然や仲間との触れ合い」がキャンプなどアウトドアの醍醐味であり、この先も変わらないであろう普遍的な価値であることに、異論はないだろう。  とはいうものの、現実のキャンプ場では、テントとテントがひしめき合い、その距離わずか数メートル。隣の気配や騒音に苛立ちながらも手前はマナーに気を使い、一方で他人にオフロード車やテント、キャンプ用品の違いを見せびらかすーー。そんな面倒くさい攻防が展開されているのが、日本のキャンプの現状である。  初心者はともかく、マナーが悪いキャンパーが参入することで、備品盗難、深夜騒音、喧嘩、盗撮、無断SNS掲載などが起きるようになり、道の駅では車中泊禁止になったり、公営キャンプ場が廃止になったりと規制を強化する動きが続いている。細々した規制や罰則が強化され、防犯カメラまで設置されたキャンプ場は、まさにディストピアだ。  そもそも自然の中で開放的な気分を味わうためのキャンプなのに、日常生活の煩わしさからの解放もなく、その延長戦のようなギスギスした世界があり、細々した規制が掛けられていること自体、異様だ。

本物の富裕層が欲しがるもの

 そして、主従が逆転して「見せびらかし」が第一義となった我が国の「プチ高級アウトドア市場」の頂点に君臨していたのが、スノーピークだったともいえよう。  「キャンプといえば、聞こえがいいが、車中泊を含め、要は野営であり野宿」「マナーの悪さが目立ち、楽しめなかった」「たかがキャンプに高額ブランドは理解できない」とのやっかみ交じりの批判の声も根強くある。  実際、筆者の周りにも富裕層をはじめ「混雑や揉め事には、近寄らないのが一番」「リスクもあり、運気も下がる」とキャンプそのものを避ける者も多い。相変わらず批判や苦情が多い河川敷などでのバーベキューでのトラブルに通じるものがあろう。  考えてみれば、テントをはじめキャンプ用品は頻繁に買い替えるものでもなく、(1)コロナ禍の収斂、(2)初心者層の離脱、(3)マナー悪化、(4)購入需要の一巡、といった要因が重なり、キャンプ用品の売り上げが低下し、卸売店やオンラインで半額セールなどたたき売りされ、メルカリやラクマといったフリマサイトやリサイクルショップにアウトドア用品があふれんばかりに並べられるという事態になっているのだ。  こうしたキャンプ市場を取り巻く外部環境の変化に加え、スノーピークそのものの経営判断やビジネスモデルに拙さがあったのではないかと、筆者は見ている。  富裕層向け資産運用アドバイザーでもある筆者の経験上、そもそも富裕層になればなるほど「人と同じものは嫌」になる。ブームや人混みや混雑を最も嫌うのだ。  スノーピークは、例えばフェラーリのように、製品ラインナップや店舗網をあえて絞ることで、ブランド価値を維持し、利益率を上げることで株価上昇や企業価値の向上に努めるべきだったのかもしれない

 

 

 

 

 

あるようでないマーケット

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 経営者の市場の読み違いからシュリンクが予想されるのはキャンプ市場ばかりではない。未だに全国で続々誕生の高級でスタイリッシュなグランピング施設なども、同様の理由でこの先フェードアウトしていく可能性があろう。  そもそもの疑問として、誰が頻繁に利用するのだろうか。都心のいわゆる富裕層というよりは、ロードサイド沿線、国道16号など首都圏近郊、北関東、札幌、仙台、静岡、長野、名古屋圏などの都市郊外の持ち家と車を持つ若く経済力があるファミリー層が、こぞってスノーピークの製品を購入しキャンプに行く、またはグランピングに行く  一方で、所得水準も高い都市部の住民の自家用車保有率は低く、キャンプ場やグランピング場までの「アシ」がないケースも多い。田舎は憧れるけど都会でやる事が一杯ある、と都市での暮らしを優先するようになったら、都会にはマーケットがあるようでないのではと勘ぐってしまう。  本当の富裕層であれば、キャンプ場やグランピング施設ではなく、別荘やリゾートコンドミニアム、高級ホテル旅館を利用しながら、温泉にスキーに向かうのではないだろうか。  「プチ高級アウトドア市場」自体、幻想であり、キャンプブームと同様に、グランピングでも陰りが見えてくるのかもしれない。本当に自然を愛する従来のキャンプ愛好家には、ブームが去ることが望ましいのだろう。  いずれにせよ、キャンプやグランピングに限らず、オートキャンプ、キャンピングカーなどアウトドア産業の裾野は広い。一過性のブームに終わらず、持続可能な日本らしいキャンプなどアウトドア文化を根付かせるためにも、このあたりで一度リセットしてみるいい機会なのかもしれない。MBO後のスノーピークが果たす役割や企業価値を更に向上させるヒントもこの辺りにあるのではないだろうか。

高橋 克英(金融アナリスト

 

 

 

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