供用中の高速道路直上で岩塊掘削、落石防ぐ入念な準備

上信越自動車道北野牧工事(群馬県)

筒井 爽人

 

日経クロステック/日経コンストラクション

 

供用中の高速道路直上で岩塊掘削、落石防ぐ入念な準備 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

 

 供用中の高速道路の上部で巨大な岩塊を掘削する工事が進む。予定した工期の半分以上を掘削前の準備に費やした。険しい地形での搬入出経路の整備や、直下を通る高速道路への落石対策などだ。

ドローンで撮影した上信越自動車道北野牧工事の現場(動画:大村 拓也)

東京方面から長野方面に北野牧トンネルを通る(動画:大村 拓也)

資機材や掘削した岩石の搬入出経路として設置したインクライン(動画:大村 拓也)

 山間を通る高速道路にそびえ立つ「要塞」――。その正体は岩石の掘削工事のために組み上げた足場だ。中には高さ約70m、幅約90mの巨大な岩塊がある。その頂部で掘削工事が進んでいる。

北野牧トンネルの直上に位置する岩塊掘削工事の現場(写真:大村 拓也)

北野牧トンネルの直上に位置する岩塊掘削工事の現場(写真:大村 拓也)

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上信越自動車道北野牧工事を長野側から見る(写真:大村 拓也)

上信越自動車道北野牧工事を長野側から見る(写真:大村 拓也)

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 1996年に北海道古平町で発生した豊浜トンネル岩盤崩落事故を受けて、上信越自動車道の北野牧トンネル上部を調査したところ、「くさびブロック」と呼ばれる崩落の危険性がある領域の存在を確認した。さらに、その領域を含む岩塊の下部に浸食が早い部分があることも判明。東日本高速道路会社は、崩落のリスクを取り除くために岩塊の撤去工事を発注した。

 撤去に当たっては、岩塊を頂上から掘削し、小分けにして運び出す。岩塊の掘削には油圧割岩工法を採用した。クローラードリルで開けた穴に、3枚の刃が中心から開く「ビッガー」と呼ぶくさびを挿入して亀裂を入れる工法だ。

挿入して3枚の刃を開き岩に亀裂を入れるビッガー(写真:大村 拓也)

挿入して3枚の刃を開き岩に亀裂を入れるビッガー(写真:大村 拓也)

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 ビッガーを打ち込んだだけでは岩は崩壊しない。そこでブレーカーで打撃を与えて崩していく。頂部の平面に80cm間隔で深さ130cmまで打ち込んだクローラードリルの掘削穴を目印に、岩石を1辺40cm程度のサイズにまで分割する。

バックホーで運べるサイズにブレーカーで岩を砕く(写真:大村 拓也)

バックホーで運べるサイズにブレーカーで岩を砕く(写真:大村 拓也)

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 火薬を使用する工法も検討したが、見送った。施工者の大林組上信越北野牧工事事務所の下村哲雄所長は「ダイナマイトなどを使用すると振動で崩してはいけない岩を崩してしまう恐れがある。油圧割岩工法は振動がほとんどない」と話す。

 掘削場からダンプトラックの積み込み場までの岩石の運搬には、回転式のクローラーダンプを導入した。頂上付近は狭く、運搬経路は重機1台分ほどの幅員しか確保できない。後進中の事故を懸念し、運転席と荷台が水平回転するタイプを導入することで事故のリスクを減らした。

 ダンプトラックに積み込んだ岩石は、そのまま昇降式のインクラインに乗せて運び出す。長さ150mのインクラインを片道約7分で移動する。取材した2024年1月時点の1日当たりの運搬量は60m3。掘削が進むにつれて施工範囲が広くなり、最大200m3に達する予定だ。

ダンプトラックを載せて動くインクライン(写真:大村 拓也)

ダンプトラックを載せて動くインクライン(写真:大村 拓也