逗子斜面崩落事故、2つの訴訟でマンション管理会社に損害賠償命令

荒川 尚美

 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

 

神奈川県逗子市の分譲マンションの敷地で風化した斜面が崩れ、直下の市道を歩いていた女子高校生が巻き込まれて亡くなった2020年2月の事故。この事故を巡る2つの訴訟で、マンション管理会社の大京アステージ(東京・渋谷)に賠償を命じる判決が23年12月15日、立て続けに下された。裁判では何が争点となったのか、判決文を基に読み解く。

2020年2月5日に敷地内の斜面が崩落して通行人が死亡した神奈川県逗子市内の分譲マンション「ライオンズグローベル逗子の丘」。60トン以上の土砂が崩れた。写真は事故翌日の様子(写真:日経クロステック)

2020年2月5日に敷地内の斜面が崩落して通行人が死亡した神奈川県逗子市内の分譲マンション「ライオンズグローベル逗子の丘」。60トン以上の土砂が崩れた。写真は事故翌日の様子(写真:日経クロステック)

[画像のクリックで拡大表示]

 訴訟の1つは、遺族側が大京アステージと管理業務主任者の従業員に対し、事故の発生を防止する義務を怠ったとして、計約6100万円の損害賠償を求めたもの。横浜地方裁判所は従業員と同社の不法行為責任を認め、連帯して計約107万円を支払うよう命じた。同社は判決を受け入れたが、従業員は控訴した。

 遺族側はこの裁判で当初、マンションの区分所有者約50人についても訴えていたが、23年6月に区分所有者側が1億円を支払うことで和解が成立している。上記の計約107万円はこの和解金を差し引いた金額だ。原告側代理人の南竹要弁護士によると、区分所有者側は加入していた損害保険金を支払いに充てているという。

 なお、横浜地検横須賀支部は判決に先立つ23年12月13日、業務上過失致死の疑いで書類送検された同社の従業員を不起訴としていた。

 判決文によると、大京アステージはマンション管理業務を手掛けるに当たって、販売会社のグローベルス(現Jトラスト、東京・品川)から斜面の地質調査報告書を受領していた。着工前の03年6月に作成されていたこの報告書には、斜面の風化が進行し「クラッキー」な状態で、落石の危険性があるなどと記載されていた。また、被告の従業員は事故前日、マンション管理人から斜面上部に亀裂が生じているとの連絡を受けていたが、区分所有者や通行人への対応を取らなかった。

 被告側は、亀裂の発見から短時間のうちに通行人の生命を奪う重大事故が発生するリスクを予見することは不可能だったと主張した。これについて横浜地裁は、亀裂の存在などから斜面崩壊の可能性を認識可能であるとした上で、「近い将来崩落する恐れの認識で(不法行為責任の認定に)足りる」とした。

 さらに横浜地裁は、大京アステージが報告書を受領していたことを踏まえ、使用者として従業員に斜面の危険性を説明し、危険回避措置を講じさせる義務を怠ったとして、同社の使用者責任と不法行為責任を認めた。

 南竹弁護士は、「規模や時期など定量的な予見の必要はなく、亀裂があれば崩れる危険があるといった定性的な予見でいいとした点に意義がある」と話す

 

 

 

逗子斜面崩落事故、2つの訴訟でマンション管理会社に損害賠償命令 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)