なぜ、ファミマで「普通の服」を売ろうとしているのか 「ユニクロ並み」価格を実現できた背景
2024年01月22日 05時00分 公開
[山口伸,ITmedia]
2023年から、ファミリーマートがアパレル事業を強化している。21年より「コンビニエンスウェア」というブランド名で靴下やTシャツなどの軽衣料を販売していたが、23年12月からスウェットやパーカーといったものも取り扱い始めた。1万円近くするジャケットなどの店舗限定商品も投入している。
コンビニで軽衣料はよく見かけるものの「普通の服」を売るのは異例の試みだ。「コンビニ×アパレル」はこれまでにないコラボレーションといえるが、ファミマは近年なぜアパレルを強化しているのだろうか。その概要と背景について探る。
2サイズ、1カラーのみのシンプルな3商品が話題に
ファミマは以前から販売しているブランド・コンビニエンスウェアの新商品として、23年12月5日に「スウェット トレーナーくろ」「スウェット パンツくろ」「スウェット パーカーくろ」の3商品を発売した。これまでは他社でも見られるようなパンツや靴下といった軽衣料が中心だったため、今回の新商品投入は話題となった。
2990円のスウェット トレーナーくろ(出所:プレスリリース、以下同)
3商品のうち前者2つは2990円、パーカーは3990円だ。各商品とも毛羽だちの少ない重めなUSAコットン素材を使用しており、いずれも黒一色のみの展開。ロゴはなく、至ってシンプルな作りとなっている。ファミマは着心地の良さをアピールしており、部屋着としても使えそうな印象だ。サイズはMとLの2種類でユニセックスの服でもある。
ファミマへ足を運ぶと、店内にコンビニエンスウェア商品を扱う横幅1メートルほどのコーナーが設置されていた。商品は全て透明のパッケージに包んで陳列している。普通のアパレル店のように服がそのまま並べられているわけではないが、2~3着ほどサンプル品が置いてあるため、形状は認識できる
麻布台ヒルズで店舗限定商品を発売
ちなみにスウェット3商品を発売した同日「ファミマ!!麻布台ヒルズ店」(東京都港区)の限定商品も発売した。限定商品の中には値ごろ感のある2990円のカーディガンもあるが、「デニムジャケット インディゴ」(9990円)や「デニムパンツ インディゴ」(7990円)、「フライトジャケット くろ」(9990円)といった高価な商品が目立つ。
麻布台ヒルズ店限定の商品のうち、比較的安価なカーディガン(2990円)
デニムは綿100%でできた13オンスの標準的なタイプで、フライトジャケットはミリタリー系で人気の「MA-1」デザインとなっている。発売から1時間で陳列分が売り切れるなど、出だしは好調だったようだ。なお発売に先んじて、ファミマは11月30日に国立代々木競技場の体育館で「コンビニ初」のファッションショーを実施している。
9990円のデニムジャケット インディゴ
同デニムパンツ インディゴ
冒頭の通り、コンビニエンスウェアは21年3月から展開しているブランドだ。
だが、
従来はTシャツや靴下、
タオルなどの商品がメインで、
今回のような普通の服を本格的に投入したのは初めてとなる。
同ブランドはファッションデザイナーの落合宏理氏がデザインを手がける。
「緊急需要」だけでなく「目的買い」の消費者を取り込む狙いがあったといい、新たな商品の投入は目的買い強化の一環と考えられるだろう。
全国で発売した3商品は機能だけでなく安さも特徴的だ。
スウェット トレーナーくろと同等の商品をユニクロで探すと同じく2990円であり、パーカーもユニクロと同じ価格帯である。
以前から販売している軽衣料もユニクロと同価格帯だ。
例えば
靴下は
ファミマが429円に対し、
ユニクロは390円と非常に近い。
ちなみにセブン‐イレブンは484円とやや高い
背景に伊藤忠商事
ファミマのコンビニエンスウェアがユニクロ並みの安さを実現できる背景には、親会社である伊藤忠商事の存在がある。伊藤忠の祖業は繊維事業であり「繊維カンパニー」は8つあるセグメントの一角をなし、国内外に衣類の生産網を有する。
9990円のフライトジャケット くろ
7990円のサロペット くろ。こちらもファミマ!!麻布台ヒルズ店限定商品だ
同社は広報誌で、既にあるリソースを使ってコンビニエンスウェアを展開する趣旨の主張をしていることから、安さの背景には伊藤忠商事のバックアップがあると見て良いだろう。他のコンビニチェーンが服を出したとしても、価格競争力でファミマに負けてしまう可能性は高いかもしれない。
同じく店舗限定商品のクルーネックセーター。こちらは3990円
「新定番」を狙った商品
市場全体に目を向けると国内のコンビニ業界は既に頭打ち感があり、今後は人口減少の影響で規模が縮小すると見られる。ファミマの国内店舗数も約1万6500店舗で推移しており、爆発的に伸びる余地はなさそうだ。
飽和した市場で1店舗当たりの売上高を少しでも伸ばすべく、コンビニ業界は新しい定番商品を模索し続けてきた。10年代に普及したコンビニコーヒーはヒット作の一つといえる。一方、15年頃に現れたドーナツは失敗に終わり、昔からあったおでんはコロナ禍での感染対策や人手不足で見かけることが減った。
ファミマがコンビニエンスウェアを強化するのは、こうした新たな定番商品を模索する活動の一環とみられる。弁当やパンなどの日配食品は既に研究しつくされており、加工食品は既に各社がプライベートブランド商品を取りそろえている。店員の手間がかかるホットスナック類で勝負するのは非現実的だ。
こうした状況下でファミマは非食品の衣類に商機を見出したのではないだろうか。現状、コンビニとアパレルという組み合わせの可能性は未知数だ。だがコンビニエンスウェアがヒットすれば他社も必ず導入するだろう。コンビニで気軽に服を買える時代が来るかもしれない。
著者プロフィール
山口伸
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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