三井不動産が国内最大の木造混構造賃貸オフィスビル、竹中工務店が耐火技術を初適用
川又 英紀
日経クロステック
三井不動産が国内最大の木造混構造賃貸オフィスビル、竹中工務店が耐火技術を初適用 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
三井不動産は2024年1月4日、完成すれば国内最大の木造混構造の賃貸オフィスビルになるプロジェクト
「日本橋本町1丁目3番計画(仮称)」
に着工した。場所は東京都中央区日本橋本町1丁目で、
26年9月の竣工を予定している。
「日本橋本町1丁目3番計画(仮称)」の完成イメージ。国内最大の木造混構造の賃貸オフィスビルになる見通しだ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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地上18階建てで、
高さは84m。
木造混構造の賃貸オフィスビルでは、
階数も日本最高層になる。
敷地面積は約2500m2、
延べ面積は約2万8000m2。
オフィスの他、
研究所と
店舗
が入居する。
オフィス基準階の専有面積は約1180m2を予定する。
木質が特徴のオフィス専有部イメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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東京・日本橋エリアにおけるビルの配置図。計画地は昭和通りに面する(出所:三井不動産、竹中工務店)
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構造は木造と鉄骨造のハイブリッドである。
設計・施工は竹中工務店が手掛ける。
木材の使用量は国内最大級の1100m3超で、
二酸化炭素(CO2)固定量は約800tを見込む。
同規模の鉄骨造オフィスビルと比べて、
躯体(くたい)部分だけで
建築時のCO2排出量を約30%削減できる見通しだ。
この賃貸オフィスビルがどれくらい大きいのか、
23年10月末に竣工し、
同年12月からテナント入居が始まったばかりの
「野村不動産溜池山王ビル」と比較してみた。
同ビルも鉄骨造と木造のハイブリッドを採用した建物で、
現時点では賃貸オフィスビルとして国内最大規模である。
建築概要 | 日本橋本町1丁目3番計画(仮称) | 野村不動産溜池山王ビル |
---|---|---|
事業者 | 三井不動産 | 野村不動産 |
設計・施工者 | 竹中工務店 | 清水建設 |
所在地 | 東京・日本橋本町 | 東京・赤坂 |
階数(高さ) | 地上18階建て(84m) | 地下1階・地上9階建て(約41m) |
延べ面積 | 約2万8000m2 | 約5600m2 |
構造 | 木造、鉄骨造 | 鉄骨造、一部木造 |
主な木の構造材 | 竹中工務店の「燃エンウッド」「KiPLUS」 | 清水建設の「シミズ ハイウッド」 |
木材使用量 | 約1100m3 | 約470m3 |
用途 | オフィス、研究所、店舗 | オフィス |
オフィス基準階面積 | 約1180m2 | 535.86m2 |
補助制度 | 国土交通省「令和5年度優良木造建築物等整備推進事業」 | 国土交通省「令和3年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」 |
竣工時期 | 2026年9月(予定) | 2023年10月 |
三井不動産と野村不動産がそれぞれ発表している最新の資料を基に作成(出所:日経クロステック)
野村不が木造混構造で国内最大級の賃貸オフィスビル、「シミズ ハイウッド」採用
野村不動産が開発した木造混構造の賃貸オフィスビル「野村不動産溜池山王ビル」で、2023年12月1日からテナントの入居が始まった。清水建設が開発した耐火木材「シミズ ハイウッド」など約470m3の木材...
2023/12/12
立地や用途は異なるが、規模は日本橋本町1丁目3番計画が2倍以上あることが分かる。
国内最大の木造ハイブリッド賃貸オフィスビルを実現するため、竹中工務店は同社が開発して大臣認定を取得した耐火・木造技術を主要な構造部材として使う。具体的には、3時間耐火集成材「燃エンウッド」、鉄骨の耐火被覆に木材を用いる「KiPLUS TAIKA for CFT」「KiPLUS TAIKA for BEAM」、そしてCLT(直交集成板)を用いた耐震壁と制震壁である。
日本初適用のものばかりで、竹中工務店にとっては失敗できない重要なプロジェクトになる。
構造イメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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使用する耐火・木造技術。いずれも竹中工務店が開発した製品で、日本初適用のものばかり(出所:三井不動産、竹中工務店)
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構造材だけでなく、内装や仕上げ材にも木材を積極採用。木のぬくもりを感じやすいオフィスビルをつくり、入居企業の従業員が「行きたくなるオフィス」を目指す。
仕上げ材にも木材を多用するオフィスイメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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建物の象徴といえるエントランスホールは吹き抜けで、壁には三井不動産グループの保有林の木材を使用する。天井には三井ホームの木接合技術を用いる。オフィス専有部は木の構造材を現しとし、働きながら木を感じられる職場環境を整備する。
木質のエントランスホール(出所:三井不動産、竹中工務店)
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三井不動産グループは、北海道に約5000haの森林を保有している。
使用する1100m3超の国産構造木材のうち、
約100m3分に保有林の木材を充てる。
三井不動産と日建設計が作成した
マニュアルをベースに、
不動産協会が策定した
「建設時GHG(温室効果ガス)排出量算出マニュアル」
を適用してCO2排出量を把握する、初めてのオフィスビルになる
都心の屋内外で木や緑を感じて働く
三井不動産は東京大学との産学協創による「三井不動産東大ラボ」を展開している。共同研究の一環として、東大大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻で木質環境学が専門の恒次祐子教授と連携。木質空間が人体に与える影響を調査する。
恒次教授は「木の見た目や香り、手触りにはリラックス効果があることが分かってきた。だが現代人は1日の90%以上を屋内で過ごすともいわれ、木に触れる機会が少ない。屋内に自然の要素をどのように取り入れるかは重要な課題だ。解決策として『バイオフィリックデザイン』が注目されている」と指摘する。
三井不動産は国内最大の木造ハイブリッドビルで、バイオフィリックデザインの実証実験を進める。バイオフィリックデザインとは、人が本能的に自然とつながろうとする性質に基づく環境デザインのことだ。
それだけではない。三井不動産はこのビルに日本橋エリアでは同社初となる賃貸ラボ&オフィス「三井リンクラボ」を設置する。ライフサイエンス分野の企業向けに、本格的な研究環境を整える。
日本橋本町1丁目3番計画のコンセプトは「日本橋に森をつくる」である。そこで約480m2の緑地をつくる。都心に生き物が生息しやすい環境をつくるため植栽を設け、「いきもの共生事業所認証(ABINC認証)」の取得を目指す。
東側の公開空地イメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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西側低層部の外観イメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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北側低層部の外観イメージ(出所:三井不動産、竹中工務店)
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ビルの屋上には、
有機質肥料を用いたオーガニック農法を展開する
「水耕栽培システム」と、
空調の省エネ効果を期待できる「室外機芋緑化システム」
を導入する予定だ。
有機質肥料を用いた屋上の水耕栽培システムは、
国内のオフィスビルでは初めての挑戦になる。
屋上に設ける、有機質肥料を用いた水耕栽培システムのイメージ(写真:三井不動産、竹中工務店)
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室外機芋緑化システムは、屋上に設置する室外機の周りで芋を栽培し、葉の蒸散作用と日陰で周辺の温度を下げ、消費電力を低減するものだ。三井不動産グループとしては初導入になる。
室外機芋緑化システムのイメージ(写真:三井不動産、竹中工務店)
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さらに東芝エネルギーシステムズ(川崎市)と連携し、
フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実装と
システム構築を進める。
他にもアサヒ飲料が開発している
「CO2を食べる自販機」を設置。
自販機内にCO2を吸収する鉱業副産物を使った特殊材を搭載し、大気中のCO2を吸収する。
竹中工務店とは、
建築廃材のアップサイクルにも取り組む。既存建物の解体で出る廃材や新築工事で発生する端材を、新築建物の一部や什器などにアップサイクルする。
建築資材には環境に配慮した製品を採用。
セメントの一部を鉄鋼を製造する際の副産物である高炉スラグ粉末に置き換える「ECMコンクリート」や、
素材にリサイクル再生紙を使う不燃ダクト「エボルダン」、
セメントを使わない舗装材「土系ブロック舗装材」、
漁網やカーペットの廃材をリサイクルした床材「漁網カーペットタイル」
などを取り入れる。
様々な環境配慮の取り組みにより、
ZEB Ready(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・レディ)認証や
DBJ Green Building認証(プラン認証)、
CASBEE評価認証-建築(新築)
におけるSランクの取得も目指す
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