ホンダが日米全数リコール、デンソー燃料ポンプの無償交換は1600万台超えてさらに深刻化

近岡 裕

 

日経クロステック

 

 

図1 ホンダが日米全数リコールを決断

図1 ホンダが日米全数リコールを決断

 

 

 

 

これまで日米で販売したデンソー製欠陥燃料ポンプ搭載車の全てをホンダはリコールする。日本市場を皮切りに、第2弾として米国市場の全数リコールを届け出た。左からホンダの三部敏宏社長、デンソーの有馬浩二会長、同社の林新之助社長。(出所:日経クロステック、三部社長の写真:ホンダ、燃料ポンプの写真:デンソー)

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 デンソー製欠陥燃料ポンプ(以下、欠陥燃料ポンプ)の問題で、ホンダが日米全数リコールを決めた(図1)。「疑わしきは全て(リコールとして)対応する」(同社)とし、欠陥燃料ポンプを搭載した車両を全て無償回収する方針だ。他社も追随を余儀なくされる可能性がある。

 

 

 

 2023年12月21日(米国現地時間)、ホンダは米国市場において欠陥燃料ポンプ搭載車の追加リコールを届け出た。同社にとって7度目のリコールとなる。これにより、欠陥燃料ポンプ搭載車の世界のリコール総数はさらに増え、約1617万台にまで拡大した(図2)。

 

 

 

 

図2 欠陥燃料ポンプ搭載車のリコール総数が世界で約1617万台に拡大

図2 欠陥燃料ポンプ搭載車のリコール総数が世界で約1617万台に拡大

ホンダが米国市場で約260万台のリコールを届け出た。これにより、同社のリコール台数は約807万台にまで膨らみ、トヨタ自動車のリコール台数を超えた。(出所:日経クロステック、イラスト:穐山里実)

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 リコールの対象は、「ILX」や「MDX」「NSX」など高級車「Acura」シリーズが7車種、「アコード」や「シビック」「フィット」などホンダ車が14車種の合計21車種だ(図3)。リコール台数は約260万台に上る。これにより、ホンダのリコール台数は800万台を超え(約807万台)、トヨタ自動車(約620万台)のリコール台数を上回って最大となった。

 

 

 

図3 ホンダが米国市場でリコールした車種の例

図3 ホンダが米国市場でリコールした車種の例

左がAcuraシリーズのILXで、右がホンダ車のシビック。リコール対象は両モデルを合わせて合計21種類に上る。(写真:ホンダ)

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 リコール費用も膨らむはずだが、この点についてホンダは明らかにしない。一方のデンソーは、これまでに約2900億円のリコール費用を計上しており、2023年11月15日の時点では林新之助社長が「現時点では新たな(リコール費用の)引き当てにはならない」と説明していた。ところが、その後、ホンダが同年12月8日に約114万台のリコールを届け出た。これに今回のリコール分を加えると、林社長の説明後に積み上がったリコール台数は約374万台となる。これに伴うリコール費用の増加の有無についてデンソーに聞いたところ、同社も回答を避けた。

 

 

デンソーに追加のリコール費用発生か

 
 
 

 果たして、デンソーのリコール費用は2900億円で済むのか試算してみよう。2023年11月15日時点の世界のリコール総数は約1245万台だ。ここから、欠陥燃料ポンプ1個当たりのリコール費用は約2万3300円となる。この金額は、2021年3月期(2020年度)第4四半期にホンダが約134万台のリコールを届け出たのに伴い、デンソーが310億円のリコール費用を計上した時の欠陥燃料ポンプ1個当たりのリコール費用(約2万3100円)と近似している。

 

 

 

 

デンソーが負ったリコール費用

燃料ポンプの賠償が約2900億円に増加 デンソー品質問題

 

 これに対し、11月15日以降に追加されたリコール費用の分についてもデンソーが既に引き当て済みであり、リコール費用が2900億円のまま変わらなかったと仮定する。すると、欠陥燃料ポンプ1個当たりのリコール費用は約1万8000円と計算できる。先の金額と比べて5000円も低いのは、さすがに低過ぎる。やはり、欠陥燃料ポンプ1個当たりのリコール費用は先の金額、すなわち約2万3000円が妥当ではないか。

 

 

 

 この見立てが正しければ、デンソーにはリコール費用として約860億円(2万3000円×374万個)が追加で発生することになる。安価な樹脂製インペラ(羽根車)の膨潤が引き起こした燃料ポンプの品質不具合(以下、不具合)は、さらに巨額の損失を生む可能性があるというわけだ。(図4)。

 

 

 

 

図4 燃料ポンプの構造

図4 燃料ポンプの構造

樹脂製インペラが燃料を含んで膨潤し、燃料ポンプのケースと干渉して作動不良となる。射出成形用金型のゲートに欠陥があったとホンダは見ている。(出所:デンソーの資料を基に日経クロステックが作成)

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 一方、ホンダはどうか。仮に1台当たりのリコール対策費用(交換用燃料ポンプ代+工賃)に5万円がかかるとすると、同社が負担する費用は約2万7000円となる。ここから、ホンダが計上するリコール費用は937億円(2万7000円×347万台)と算出できる。ホンダは2023年6月に北米市場でリアビューモニター用ケーブルのコネクターに関して約130万台の「メガリコール」を届け出て、586億円の損失を計上している。これを台数で2.7倍、金額で約1.6倍上回る規模のリコールとなる可能性がある。

 

 

 さらに言えば、2023年におけるホンダの欠陥燃料ポンプ搭載車のリコール台数は合計で約405万台だから、欠陥燃料ポンプだけで同社はこの1年で1094億円のリコール費用の捻出を余儀なくされる計算となる。

 

 

 ホンダは今期(2024年3月期、以下2023年度)、品質関連費用の増加で苦しんでいる。2023年11月に開いた2023年度第2四半期の決算会見では、同費用が増えている理由として「エンジンのコンロッドベアリングにまつわる製造不具合」(同社)に関するリコールを挙げた。品質関連費用が積み上がる中で、ホンダは日米の全数リコールに踏み切ったことになる。

 

 その理由は、市場の不安を払拭するためだ

 

ホンダが日米全数リコール、デンソー燃料ポンプの無償交換は1600万台超えてさらに深刻化 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)