落札者を誤った市に異例の賠償命令

青野 昌行

 

日経クロステック/日経コンストラクション

 

 

総合評価落札方式の入札を巡り、落札を逃した建設会社が発注者に賠償を求めた裁判があった。判決では、評価に誤りがなければ原告が落札できたはずだとし、5000万円を超える損害賠償を命じた。総合評価のミスに伴う逸失利益に対して、発注者に賠償責任を認めるのは極めて異例だ。

 問題となったのは、高知県南国市が2020年4月に実施した地域交流センター建設工事の制限付き一般競争入札。9社が参加し、総合評価の評価値が最も高かった岸之上工務店(高知市)が落札した。施設は同社の施工で完成し、22年4月に地域交流センター「みあーれ!」としてオープンしている(資料1、2)。

資料1■ 入札時の評価にミスがあったとして建設会社が発注者を訴えた(写真:日経クロステック)

資料1■ 入札時の評価にミスがあったとして建設会社が発注者を訴えた(写真:日経クロステック)

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資料2■ 南国市の地域交流センター「みあーれ!」。落札者となった岸之上工務店の施工で、既に完成している(写真:日経クロステック)

資料2■ 南国市の地域交流センター「みあーれ!」。落札者となった岸之上工務店の施工で、既に完成している(写真:日経クロステック)

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 発注者を訴えたのは、高知市に本社を置く新進建設。22年6月期の売上高は約30億円で、高知県内では比較的規模の大きい建設会社だ。入札時に南国市が正しく評価していれば自社が落札したはずだと主張し、1億1800万円の賠償を求めた。

 高知地裁は23年9月12日の判決で、評価結果が誤っていたと認定し、損害額を入札価格の3%の5253万8400円と算定。市に対して損害額を新進建設に賠償するよう命じた。市は9月21日に控訴した。

 裁判の主な争点は、下請け会社の見積もりに法定福利費が含まれているかどうかの確認方法だった。法定福利費とは、企業に負担の義務がある健康保険や厚生年金保険、雇用保険などの社会保険料のことだ。

 この入札では、岸之上工務店が調査基準価格を下回る札を入れたため、同社が低入札価格調査(低入調査)の対象となった(資料3)。見積もりの内訳に法定福利費が確認できないなどの問題があれば減点となる。

資料3■ 原告は評価値0.0005点差で落札できず

資料3■ 原告は評価値0.0005点差で落札できず

南国市の地域交流センター建設工事の入札結果。総合評価落札方式の一般競争入札を実施し、9社が参加した。予定価格を上回った3社を除く6社の評価結果などをまとめた。価格は全て税抜き(出所:南国市の資料を基に日経クロステックが作成)

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 落札者を決める評価値は、低入調査の結果を反映した技術等評価点を入札価格で割って算出する。低入調査を受けた岸之上工務店は、技術等評価点が札参加者の中で最低だったものの、価格の低さが決め手となって評価値が最も高くなった。

 この結果に対し、岸之上工務店よりも評価値が0.0005低く、次点となった新進建設が異議を申し立てた。その動機などは、同社が日経クロステックの取材に応じていないので不明だ。裁判資料によると、新進建設と市とのやり取りや主張は以下の通り(資料4)。

資料4■ 「積算根拠が書面上不明」かどうかが争点に

資料4■ 「積算根拠が書面上不明」かどうかが争点に

新進建設と南国市とのやり取りの概要(出所:裁判資料を基に日経クロステックが作成)

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 入札結果が参加者に通知された後、新進建設の担当者が市の担当者と面談した。話の焦点は、落札者の下請け会社の見積書に、法定福利費が明示されていない部分があったことだ。

 市は低入調査のヒアリングの際、法定福利費について落札者に確認していなかった。新進建設との面談の後、落札者に問い合わせて、法定福利費は諸経費の項目に積み上げているとの回答を得た。その後、新進建設の担当者と再度面談し、落札者の決定は取り消さない旨を伝えた

 

 

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