住友林業が木造10階建て実大振動台実験で独自検証、阪神大震災級でも損傷なし
星野 拓美
日経クロステック/日経アーキテクチュア
2023年春に米国で実施された、10階建て木造ビルを振動台で実際に揺らす世界初の実験。その第2フェーズとして住友林業が独自に改修した試験体を用いて、日本の耐震基準で検証した。阪神大震災で観測した地震波などの揺れに耐え、かつ構造躯体(くたい)が損傷しないことを確認した。実験は23年7月28日~8月10日に、米サンディエゴのカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)で行われた。住友林業が23年11月22日に発表した。
2023年7月28日~8月10日に米サンディエゴのカリフォルニア大学サンディエゴ校で実験。屋外の振動台を使用した(写真:住友林業)
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この実大振動台実験は、米科学財団(NSF)と米森林局(USFS)の助成事業「NHERI(自然災害工学研究インフラストラクチャー)トールウッド・プロジェクト」の一環。世界から数十社のスポンサー企業が参加しており、住友林業はその1社である。米西海岸の災害レベルを想定した第1フェーズの実験を23年6月6日に終えた後、住友林業が主体となって、日本の耐震基準に基づく第2フェーズの実験に取りかかった。
試験体の大まかな構成は第1フェーズと第2フェーズとで変えていない。高さは約34m、平面サイズは10.5m×10.6m。構造形式は柱と梁(はり)から成る木造軸組みに、「ポストテンション耐震技術」を用いた木質系耐力壁を組み合わせたものだ。壁は南北に2枚と東西に2枚を1~10階まで通しで設置。これらの壁に、それぞれ表面2本・裏面2本の計4本の鋼棒を使ってポストテンション方式でプレストレスをかけた。
試験体の平面図。柱と梁はLVL(単板積層材)。南北にCLT(直交集成板)の耐力壁を2枚、東西にMPP(マス・プライウッド・パネル)の耐力壁を2枚配置した(出所:住友林業)
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住友林業が試験体の改修によって変更したのは主に3点である。1点目は壁にプレストレスをかけるための鋼棒の径を太くし、かつ鋼棒同士の間隔を広げたことだ。水平力がかかると壁が傾こうとする。この力に抵抗して建物の変形を抑えることを意図した。壁用の鋼棒の径は40mmで第1フェーズの約2倍。2本の鋼棒の間隔は約2mとした。第1フェーズでは約360mmだった。
2点目は壁と柱の間に設置する制振装置を特製の履歴ダンパーに変更したことだ。第1フェーズで取り付けていたU字形の鋼材に比べ、エネルギー吸収量が大きい。これも建物の変形を抑えるのが狙いだ。履歴ダンパーは鋼材が降伏することで地震エネルギーを吸収する。
3点目は、柱にも1~10階まで通しでプレストレスをかけるようにしたこと。大きな水平力で柱が浮き上がるのを防ぐのが狙いだ。まず壁を取り付けた柱の頂部をつなぐように、反力梁を計4本設置。この梁を、それぞれ4本の鋼棒で引っ張って柱に圧縮力をかけた。
改修後の試験体の耐力壁。4本の鋼棒が見える。壁中央側の2本の細い鋼棒が柱用、壁外側の2本の太い鋼棒が壁用だ。壁用鋼棒2本の間隔はおよそ2m。柱と壁の間には履歴ダンパーを入れた(写真:住友林業の写真に日経クロステックが加筆)
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改修前の耐力壁。壁中央部に2本の鋼棒が見える。柱用鋼棒はない。柱と壁の間にはU字形の鋼材を取り付けている(写真:日経クロステック)
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住友林業筑波研究所住宅・建築1グループの長島泰介チームマネージャーは、「既存柱脚では耐力が足りないため今回は柱用鋼棒を取り付けた。木造ビルの設計で柱用鋼棒は必ずしも必要な部材ではない」と説明する。
改修に当たっては保有水平耐力計算と限界耐力計算、時刻歴応答解析を用いて構造計算した。長島チームマネージャーは、「当初の試験体は米国の耐震基準に準拠して建設しており、変形性能が不足していた。日本仕様にした試験体の変形量は、推定で改修前の試験体の0.6倍程度だ」と説明する
住友林業が木造10階建て実大振動台実験で独自検証、阪神大震災級でも損傷なし | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)