300棟超えた大和ハウスの物流施設、下支えする特許取得の免震システム
中東 壮史
日経クロステック/日経アーキテクチュア
住宅メーカーのイメージが強かった大和ハウス工業は現在、物流施設の開発に力を入れている。まずは2023年に完成した巨大な物流施設群を見てみよう。
千葉県流山市の北部、埼玉県との県境を流れる江戸川と並行するように延びる県道5号沿いに、コンクリートの建物が一直線に並ぶエリアがある。その壮観な光景の正体は、大和ハウスが開発した物流施設と、競合する日本GLP(東京・中央)の物流施設だ。北側の4棟が大和ハウスの「DPL(ディープロジェクト・ロジスティクス)流山」で、南側の8棟が「GLP ALFALINK(アルファリンク)流山」である。
大和ハウスの最後の1棟「DPL流山II」は、23年4月に竣工したばかり。同じく日本GLPの「GLP ALFALINK流山4」も同年6月に竣工した。流山市にある両社の施設群がほぼ同時期に完成を迎えた。
千葉県流山市に完成した「DPL流山」を上空から見る。左から順にDPL流山I、同II、同III、同IV。DPL流山IIが2023年4月に竣工し、4棟が全て完成した(写真:大和ハウス工業)
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敷地は南北に細長く、大和ハウスの施設南端と日本GLPの施設北端は道路を挟んで隣同士である。こうして耕作が事実上止まっていたかつての水田跡地に、広大な物流タウンが誕生した。常磐自動車道の「流山インターチェンジ」まで、約2.5kmの距離に位置する。
DPL流山の総延べ面積は約73万m2、ALFALINK流山は同じく約93万m2と、どちらも広大である。ここには日本を代表するネット通販会社やアパレル企業などがテナントとして入居している。首都圏のサプライチェーンの要といえる。
物流施設が合計12棟も一列に並ぶのは珍しいものの、最近は全国各地で物流施設の建設ラッシュになっている。新型コロナウイルス禍でネット通販の勢いがますます強まり、運営会社の物流ニーズが一層高まったことが要因である。
物流施設を建てられる大きな敷地の奪い合いがあちこちで起こっている。特に11年の東日本大震災以降、津波や液状化現象の影響が少ない内陸部に物流施設を構えようとする企業が急増した。流山市に限らず、最大消費地の東京都に近い埼玉県や千葉県、神奈川県の高速道路出入り口付近は物流施設が立ち並んでいる。街の風景は一変した。
物流施設で働く人材の獲得競争も激化しており、どこも人手が足りない事態に陥っている。デベロッパーは敷地内に保育施設を設けるなど少しでも働きやすい環境を整えることで、地元での求人を有利に進めようと必死だ。
そんな中、物流施設の開発ブームが起こる前から全国で数多くの倉庫を建設してきた大和ハウスは、その経験を物流施設の開発に生かして棟数を急拡大してきた。同社が「Dプロジェクト」の名称で開発する事業施設は、23年9月末時点で工場やデータセンターなどの類似施設も含めて384カ所に達している。
Dプロジェクトはもともと大和ハウスが02年に使い始めた物流施設のブランドだ。今は事業向けの建物を含めた総称になっている。物流施設だけに絞ると現在、約330カ所で大半を占めている。
「Dプロジェクト」の開発棟数推移。物流施設の他、工場やデータセンター、店舗、研究開発施設、ホテルなど事業系の建物を含む。2019年3月期(18年度)以降の実績を掲載した。23年度は半期(23年9月)の実績(出所:取材を基に日経クロステックが作成)
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大和ハウスの物流施設の強みはカバー範囲の広さで、棟数も多い。東名阪などの主要地域だけでなく、全国津々浦々に大小様々な物流施設を構えている。各地に自社拠点もあり、倉庫開発の実績や各地の取引先や自治体とのネットワークもあるので、物流におけるエリア特性の荷物把握や土地の仕入れに力を発揮しやすい。
Dプロジェクトは大和ハウスが土地や建物に出資したり所有したりして、事業に参画するものだ。物流施設は大きく分けて2種類ある。
1つは顧客企業の事業スキームに合わせて、専用の物流施設を用意する「BTS(ビルド・トゥ・スーツ)型」。もう1つは、大和ハウスがデベロッパーとして立地が良い場所に物流施設を開発し、そこに複数のテナント企業が入居する「マルチテナント型」である。以前はBTS型が主体だったが、最近はマルチテナント型を急速に増やしている。DPL流山もマルチテナント型だ。
DPL流山の建設は16年に始まった。DPL流山Iと同IIIに続き、21年には同社最大規模となる地上5階建ての同IVが完成。そして4棟目のDPL流山IIの竣工で、7年越しの大プロジェクトが完成した。従業員は4棟合計で約5000人に上る。流山市は若い世帯を中心に人口が増加している街として全国から注目されており、他の地域に比べれば働き手を確保しやすいというメリットがある。
DPL流山IVの屋上から見た他の3棟(奥の建物)(写真:日経クロステック)
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延べ面積が約12万m2あるDPL流山IIIは、アマゾンジャパン(東京・目黒)が1棟借りするなどテナント契約は好調だ。「巨大なフロアを使いこなせるだけの想定顧客が順調に入居している」(大和ハウスの東京本店建築事業部の村上泰規事業部長)
大和ハウス工業東京本店建築事業部の村上泰規事業部長。物流施設は法人向け建築事業の1つだ(写真:日経クロステック)
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1フロアの延べ面積で言えば、DPL流山IVは国内最大の広さとなる7万7000m2以上を有する。さらに各階を周回できる両面トラックバースを大和ハウスのマルチテナント型では初めて採用した。4棟とも竣工と同時に、ほぼ満床という人気ぶりである。
DPL流山IVの外観(写真:大和ハウス工業)
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国内最大規模である1フロアの延べ面積を有するDPL流山IVの内部。柱の寸法は約1m×約1mで、スパンは約11m。物流ロボットを使ったオペレーションを前提としたフラットで仕切りの少ないつくりが特徴で、物流業界の2024年問題に対応することを念頭に置いた自動化向けの大規模施設である(写真:日経クロステック
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