イスラエルと連帯する米国は「ガザ虐殺」の共犯者アラブ世界の怒りあおる鉄壁のイスラエル支援
アメリカのジョー・バイデン大統領がイスラエルを訪問する中、中東ではイスラエルだけではなく、超大国アメリカに対しても、悲嘆と怒りが高まっている。アメリカがイスラエルを中東における最重要の同盟国に位置付け、揺るぎない連帯を表明しているからだ。
10月17日、ガザ地区の病院で大規模な爆発が発生し、治療や避難のため病院に滞在していた数百人のパレスチナ人が死亡したことを受け、イスラエルを非難する声が中東全域に広がった。イスラエルは爆発への関与を否定し、パレスチナ人の武装勢力「イスラム聖戦」がロケット弾の発射に失敗して病院に着弾したものだとしている。
アメリカの支援で行われるパレスチナ人虐殺
だが、病院爆発が起こる以前から、中東では多くの人々がイスラエルとパレスチナ武装組織「ハマス」の戦争は、封鎖されたガザ地区のパレスチナ民間人に対する大量虐殺であり、それはアメリカの支援によって行われていると考えるようになっていた。ハマスは1週間以上前にイスラエル南部に衝撃の奇襲攻撃を仕掛け、1400人を殺害した。
イスラエルは、ガザ地区への水、医薬品、電力の供給を遮断し、同地区に激しい空爆を繰り返している。死者数は、病院が爆発する以前の段階で、少なくとも2800人に達していた。
多くのアラブ人は、アメリカ政府はイスラエルの占領下で生きるパレスチナ人の苦しみに無関心なだけでなく、イスラエルと共犯関係にあると考えている。イスラエルがガザへの地上侵攻を準備する中、アメリカがイスラエルに対する「鉄壁」のサポートと無条件の安全保障支援を打ち出したことで、反米感情の高まりに火がついた格好だ
「アラブ世界では、ハマスを支持しない人々の間でも怒りが膨れ上がっている」。エジプトのナビール・ファフミー元外相は、西側の大国は「イスラエルに青信号を出し」ており、「事態が一段と血なまぐさくなっていく中、西側は自らの手を血で染めることになる」と話した。
こうした怒りの感情は極めて強く、「アメリカに死を」というフレーズが改めて中東に響き渡っている。アメリカの親密な同盟国であるバーレーンで13日に行われた抗議活動でも、この言葉が使われた。
パレスチナ人やその他のアラブ人の多くは取材に対し、イスラエルとアメリカの政府上層部の語り口は、パレスチナ人を人間未満の存在として扱い、戦争をあおるものになっていると話した。
今回の戦争が始まったとき、バイデン大統領は、イスラエルの兵士と民間人を射殺し、約200人を人質にとったハマスの奇襲攻撃を「純然たる完全な悪」と呼んだ。
イスラエルのヨアフ・ガラント国防相は、「われわれは人間の形をした獣と戦っている。ハマスは存在しなくなる。われわれはすべてを消し去る」と言った。
バイデン政権のイスラエル支援は犯罪レベル
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は過去1週間で中東各国を歴訪する中で、ハマスの攻撃に対するイスラエルの軍事報復でどのような被害が生じようとも、バイデン政権は相当なところまで許容するというシグナルを送った。
パレスチナ系イスラエル人で、弁護士としてイスラエルとパレスチナの間の交渉に関わってきたディアナ・ブットゥ氏は、イスラエルに対するアメリカの支持は固いため、イスラエルとパレスチナの紛争でアメリカが演じる役回りについて「何の幻想」も抱いたことはないと語る一方で、バイデン政権の反応には愕然としたと話した。
「内臓をえぐられるような思いだ。ここまでイスラエルに味方するのは、大虐殺に加担するのに等しい
アメリカの一部の当局者は、イスラエルを理由もなくテロ攻撃に襲われた被害者と位置づけているが、中東ではそのような見方をする人々は少ない。
サウジアラビアを代表する知識人、ハリド・アル=ダヒル氏は、西側の大国が「イスラエル側の言い分を鵜呑みにしている」ことに最も失望していると語った。「西側は(ロシアによる)ウクライナの占領に反対しているが、パレスチナが(イスラエルによって)占領されている事実を否定できるのか」。
アメリカの評判に取り返しのつかない傷
アメリカの当局者はここに来て強硬な語り口をトーンダウンしたようで、ハマスのせいでパレスチナの民間人が苦しむことはあってはならないと強調するようになっている。
国務省は15日、アラブ諸国での経験があるベテラン外交官のデービッド・サッターフィールド氏を人道問題担当特使に任命し、ガザ地区の危機対応にあたらせた。バイデン大統領は、CBSテレビの報道番組「60ミニッツ」のインタビューで、イスラエルはガザを再占領するべきではないと語った。
さらにバイデン大統領は、大統領専用機エアフォースワンがイスラエルに向かって離陸して間もなく、ガザの病院での爆発について「ガザのアル・アフリ・アラブ病院で発生した爆発とそれによるたいへんな人名の損失に、憤りを覚えるのと同時に深く心を痛めている」という声明を発表。中東地域の複数の首脳と電話会談し、自身の国家安全保障チームに対し、実際に何が起こったのか調べるよう指示したと述べた。
それでも、中東では元から悪かったアメリカのイメージにはすでに取り返しのつかない傷が入ったと、ワシントンを拠点とするシンクタンク「中東研究所」のハフサ・ハラワ客員研究員は言う。
「アメリカ人は中東では道義的に立つ瀬がまったくない」
ハラワ氏によれば、過去1週間の空気は、9.11同時多発テロ直後の、そしてアメリカによる2003年のイラク侵攻直前の雰囲気を思い起こさせるものだった
9.11直後と同じ純然たるイスラム嫌悪感情が、今まさに広がっている。5分間ニュースを見れば、それは明らかだ」と、ハラワ氏。「あれから23年経つが、当時とまったく同じ言葉が飛び交っている。アメリカ人は何も学んでいないのだ」。
ブリンケン国務長官が中東を歴訪する中で、中東ではアメリカに対する苛立ちが高まり、アラブ諸国の独裁者たちが人権についてアメリカの当局者に説教するという異例の光景が見られた。
サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、ブリンケン国務長官に対し、イスラエルはガザの封鎖を解除しなくてはならない、サウジは「パレスチナ人の日常生活に影響を与えるようなインフラやライフラインの破壊を決して認めない」と語った。
パレスチナを見捨てる「西側の二重基準」
エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は、アメリカは数十年におよぶパレスチナ人に対する弾圧よりも、イスラエル人が殺されたことに衝撃を受けているのではないか、とほのめかした。
エルシーシ大統領はハマスによる攻撃について、「もちろん、過去9日間に起きたことが極めて難しい、行きすぎた行動だったのは確かだ。エジプトは今回の攻撃を明確に非難する」とブリンケン国務長官に伝えた。「しかし、今回の攻撃は、40年にわたって解決策を見いだす希望すらない状態に置かれてきたパレスチナ人の間で蓄積した怒りと憎悪の結果であるということも、理解する必要がある」。
ガザに住む27歳のウィサム・アブ・ジャマエさんは、昨年のロシアによるウクライナ侵攻に対する西側の反応と比べると、イスラエルによるガザ封鎖を非難する声は少なく、この差は「筋が通らない」と話した。
「世界が私たち(パレスチナ人)のことを十分に気にかけてくれていれば、私たちはこのような状況には置かれていなかっただろう」。彼女がそう語る背後では、上空でイスラエルの戦闘機が轟音を鳴り響かせていた。「1分ごとにどこかで1つの家族が抹殺され、存在が消されていっている」。
(執筆:Vivian Nereim、Alissa J. Rubin、Euan Ward)
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