秋山 真 さん、

 

日本のオーディオ・レヴューワー・評論家・編集者などの中で、

 

一番、”スっ切り”した、お部屋ですね!

 

 

 

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マランツ「STEREO 70s」自宅導入レビュー。評論家・秋山氏が「傑作アンプだと泣きながら確信した」その魅力とは?

2023/10/18秋山 真

 

 

 

マランツから、8K/60Hzの入力信号に対応するHDMIセレクターとHEOSによるネットワークオーディオ機能を搭載したステレオプリメインアンプ「STEREO 70s」が登場。同社の「NR1200」を購入して自宅導入している評論家の秋山 真氏が、新モデル「STEREO 70s」正式発売に先駆けて実機を速攻チェック。マランツユーザーならではの目線から新製品の魅力を徹底レポートする。

評論家・秋山真氏が自宅にSTEREO 70sを設置してNR1200と比較試聴

 

■「テレビにつなげるHi-Fiステレオプリメイン」に待望の新モデル登場


「HDMIセレクター付きステレオプリメインアンプ」という新ジャンルを切り拓いた「NR1200」が登場したのが2019年10月。我が家のリビングにも発売早々に導入し、コロナ禍のStay Home生活に彩りと安らぎを与えてくれた、かけがえのない存在だ。同じ思いを共有する読者の方も大勢おられるのではないだろうか?

あまりの人気っぷりに、一時期は全国的に品薄状態が続いて、私も友人・知人から「どうすれば手に入るのか?」と幾度も質問されたことを思い出す。長い間この仕事をやっていて、そんな経験は初めてだった。結局、NR1200は2019年、2020年の国内HiFiコンポーネント年間売上シェアNo.1という大ヒット商品となる。

ところが、そんなNR1200との平穏な日々も長くは続かなかった。キッカケは2020年に登場した「MODEL 30」だった。面食いのワタシは、そのデザインに一目惚れしてしまったのだ。完全に浮気である。NR1200にも新デザインの後継機が出るに違いない!そう確信した私は、それ以来、マランツ試聴室にお邪魔しては、「NR1500(←勝手に命名)はいつ出ますか?」と同じ質問を繰り返し、広報のT氏を困らせていた。

しかし、そこは頭脳派のT氏。私の追求を巧みにかわすと、今度は攻守交代と言わんばかりに「MODEL 40n」を送り込んで来たのである。なんという策士!

そのあたりの顛末は過去記事を読んでいただくとして、結果的にMODEL 40nを導入しなかったのは、筆者の寂しい懐事情もあったが、それ以上に、リビングのシステムをステレオのままで行くのか、それともアトモス化するのかを決めきれなかったからだ。

そして、私がその答えを見いだせぬまま、2023年10月、ついにその日はやってきた。NR1200の後継機が我が家のリビングに運び込まれたのである。

なお、今回はスケジュールの都合上、筆者は内覧会に参加していない。通常であればサウンドマネージャー尾形氏に根掘り葉掘り取材をした上で執筆するのだが、本レビューは主観評価と推察がメインとなることを予めご了承いただきたい。

STEREO 70s(左)とNR1200(右)

 

■愛用のテレビボードに「メッチャ映える」デザイン


名前はNR1500ではなく「STEREO 70s」となった(当たり前だ)。「MODEL」ではなく「STEREO」となったのは、CINEMAシリーズとの違いを明確にするためだろう。末尾の「s」は「slim」の頭文字だ。正確にはNR1200の後継機ではなく「上位機」という位置づけになり、実売価格が7万円前後まで下がったNR1200はエントリー機として併売される

 

 

 

 

 

 

 

貸出機のカラーは迷わずブラックを選択した。愛用のテレビボードに置くとメッチャ“映える”からである(MODEL 40nで実証済み)。しかし、STEREO 70sの実機を見るまでは一抹の不安もあった。それがフロントパネルのデザイン。スリム化して筐体の高さが低くなり、手前側のフラットな部分と、後ろ側の湾曲した部分の縦幅が揃ったことで、真正面からの公式写真では、MODEL 30やMODEL 40nよりも平面的なフェイスに見えたからだ。

ところが、これは全くの杞憂に終わった。斜めから見ればご覧の通りのイケメンである。

リビングルームに設置しても“映える”「新世代のマランツデザイン」を採用


ただし、サイドのスリットはMODEL 40nのようには光らなくなった。あのラグジュアリーな感じが何気にカッコ良かったので、省略されてしまったのは残念だが、定価がジャスト半額であることを考えれば致し方ナシか。

残念ついでに、それ以外のSTEREO 70sの残念ポイントを挙げておこう。1つめは、スピーカーターミナル。形状がNR1200からほとんど変わっておらず、Yラグのスピーカーケーブルが入らない。AVアンプと違ってスペース的にも余裕があるのだから、ここは大型ターミナルを採用してほしかった。もっと言うと、MODEL 30やMODEL 40nはシングルワイヤリング仕様だったのだから、STEREO 70sも同じでよかったのではないかと思う。普及価格帯の方がバイワイヤリングの需要があるということなのだろうか?

そして2つめが、サブウーファー出力。2系統あるのは有り難いが、信号自体はモノラルであり、それがパラレルで出力されるだけなのだ。これはMODEL 40nも同じ仕様なのだが、ステレオアンプなのだからL/Rの信号を出力してほしかったし、そうするべきだ。

昨今のヒットチャートは超低域を積極的に使う楽曲が多く、小型スピーカーでは、アーティストやエンジニアの狙い通りの音で再生するのが年々難しくなっている。今後は映画再生だけでなく、音楽再生においてもサブウーファーの需要はどんどん高まるだろう。となれば、サブウーファーだってステレオ使いするのが理想的である。ピュアオーディオ機器にHDMI端子がつくことを“当たり前”にしたマランツには、サブウーファー出力のステレオ化でも先陣を切ってほしい。

背面端子部


以上である。約2週間試用して、不満点はこれだけ。

さぁ、ここからはお待ちかね、STEREO 70sの音質レビューだ。秋山史上最高に褒めまくりますので、心の準備をお願いいたします。
 

■「STEREO 70sの音に心を鷲掴みにされた」


最初に、テレビ(レグザ55X8400)で録画しておいたサザンオールスターズの特番(NHK地デジ)から、新曲「Relay~杜の詩」のライブシーンをHDMI ARC経由にて視聴したのだが、イントロが流れた瞬間、私は心を鷲掴みにされ、画面の向こう側に引き込まれそうになった。桑田さんのやるせない思いが、これでもかというほど胸に迫る。
 



こんなマランツサウンドは聴いたことがない。NR1200はもちろん、過去にこのリビングで聴いたMODEL 40nやCINEMA 50とも違う。強いて言うならば、MODEL 30やAV 10+AMP 10とは共通項があるだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

例えば、NR1200の音を端的に表すなら、「シャープな音像とクリーンな音場。解像感が高く、帯域バランスもフラット」となるだろう。語弊を恐れずに言うならば「ピュアオーディオライクなサウンド」である。

それに対して、STEREO 70sはもっと自然体の音だ。「静けさの杜にある透明な泉の真ん中から、滾々と清水が湧き出すような」とでも言おうか。よくあるオーディオ用語よりも、こうした表現の方がしっくり来る。とはいえ、筆者はオーディオ詩人ではないので、ひとつずつ解説していこう。

秋山氏が試したブラックモデルに加えてシルバーゴールドモデルも展開


まずは「静かな杜」。この静けさの正体が、STEREO 70sのプリアンプ部に搭載されたHDAM-SA2であることを私は知っている。以前、HDAM-SA2搭載のCINEMA 50と非搭載のNR1711の比較試聴をした際に、試聴室の空気が静まりかえるほどのS/Nに驚嘆したからだ。

次に「透明な泉」。この透明度の正体は、1kHzで10dB以上も低歪化したという新開発のフルディスクリートパワーアンプ回路だろう。

さらに「滾々と」は、専用カスタムコンデンサーと上位グレードの高品位パーツで構成された大容量パワーサプライの恩恵であり、湧き出す水の「清らかさ」は、MODEL 40nで初採用され、業界をアッと驚かせた高音質設計のHDMI ARC回路の賜物に他ならない。

しかし、これだけならばMODEL 40nだって同じことだ。私がSTEREO 70sに心を鷲掴みにされた本当の理由には他にある。
 

■「これは傑作アンプだ。泣きながらそう確信した」


以前、オーディオビジュアル評論の大先輩である麻倉怜士氏が、「ピュアオーディオに最適な音と、映像付きのオーディオに最適な音は違う」という発言をされていた。これは、師と仰ぐ偉大な先人、山中敬三氏から伝授された教えだそうで、私もこの考え方に完全同意である。

ここからは筆者の推察なのだが、CINEMAシリーズやMODEL 40nの低重心で迫力のあるサウンドは、100インチ超の大画面映像にも負けない音作りを強く意識した結果ではないだろうか。しかし、物量投入ができないスリムなSTEREO 70sでは、別のアプローチで映像に寄り添わなくてはならない。

そこで重要になってくるのが、音の浸透力だ。MODEL 30やAV 10+AMP 10とは共通項があると書いたのは、まさにこの部分である。歌や台詞に込められた感情やメッセージを、いかに真っ直ぐリスナーへ届けるか。その能力において、MODEL 30とAV 10+AMP 10は傑出しており、それゆえに尾形氏をD級アンプ設計の天才だと思っていたのだが、同じことを実売11万円前後のAB級アンプで実現してしまったことに、私は驚きを隠せない

 

 

 

 

続いて鑑賞した「すずめの戸締まり」のUHD BDでは、ラストシーンでの子役の演技に、思わず涙腺が崩壊してしまった。IMAXシアターで観た時はここまで感情を揺さぶられなかったのに……。そもそも音質チェックのために冒頭12分間だけ再生するつもりだったのに……。気づいたら扉の向こう側に引き込まれていた。
 



これは傑作アンプだ。泣きながらそう確信した。音の浸透力は銘機の絶対条件だと思う。

翌日、T氏に電話して購入の意志を伝えた。今回は一目惚れではなく一聴惚れ。浮気ではなく本気だ。

それまで使っていたNR1200を片付け、テレビボードにはSTEREO 70sが鎮座することに


冒頭で触れたステレオorアトモス問題も、STEREO 70sの音を聴いて2.1chで行くことに決めた。視聴距離2.5mの55型テレビと組み合わせるには、STEREO 70sのステレオ再生がベストだと確信できたからだ。

これには画面サイズと視聴距離が大きく関係してくるので、あくまで拙宅においての話だが、もし近い将来、このリビングに100インチ超の大画面を導入するようなことがあれば、その時は迷わずアトモス化しよう。しかし、先日クルマを購入してしまい、以前にも増して懐事情が寂しい私は、当分の間はSTEREO 70sとの蜜月が続きそうだ。だから、無償保証期間が5年間に延長されたのは地味に嬉しい。
 

■まだまだ語り足りない魅力が溢れる「STEREO 70s」


なお、STEREO 70sの使いこなしにおいて、フォノ入力を使わない場合には、空き端子にショートプラグを装着することを強く推奨する。STEREO 70sでは別途用意する必要があるが、高いものではない。筆者は自作品で試したが、これだけで音のフォーカス性能が如実に向上するので忘れずに装着したい。というか、やっぱりMODEL 40nのように付属してほしかったというのが本音なので、さっきの残念リストに加えちゃおう。

それ以外では、MODEL 40nでいろいろと実験をした記事があるので、そちらも参考にしていただきたいが、やはり電源ケーブルの交換はマストだろう。電源ケーブルの違いにリニアに反応するのはSTEREO 70sも例外ではない。

最後に、読者の中にも気になっている方がいるであろう、通常のHDMI入力とHDMI ARCとの音質差について。HDMIインターフェースをバイパスし、デジタルオーディオセレクターに直結したHDMI ARCと比較できるのは、実はSTEREO 70sだけである。

パナソニックのUHD BDプレーヤー「DP-UB45」を使ってCD音源で検証したところ、HDMI ARCの方が若干下寄りのバランスになるものの、鮮度感の後退は最小限に抑えられていて、これならば安心して常用できることがわかった。ちなみに、NR1200で同じ比較をすると、通常仕様のHDMI ARCの音はモケモケ。HDMI ARCを活用したシステムを組むのであれば、4万円の差額を払ってでも、絶対にSTEREO 70sを選んだ方がいい。

HDMI端子部


ただし、HDMI ARCの場合、ほとんどのテレビでPCM出力が48kHz/16bitに制限されてしまうことは覚えておこう。これはテレビ側のSoCに原因があり、じつはeARC同士でも同じ問題が発生する。とはいえ、通常のHDMI入力が6系統(そのうち3つは8K/60Hz、4K/120Hz対応)あるSTEREO 70sなら無問題。拙宅の場合は、HDMI入力3にUHD BDプレーヤーの音声専用出力を接続して、ハイビット・ハイサンプリングのコンテンツにも対応できるようにしている。

紙幅が尽きてしまった。

STEREO 70sには他にもお伝えしたい魅力が盛り沢山だ。GUIが高精細化されたHEOSは、NR1200の時代とは比べ物にならないほど快適だし、じつはアナログ入力の音質もかなりイイ。試しに、往年の銘機マランツCD-34(中身はPHILIPS製)を繋いで、新旧マランツサウンドの競演をさせてみたところ、佇まいの美しさに、HARBETH HL-Compactを英国製アンプで鳴らしているような錯覚にとらわれた。こんな表情も見せてくれるのか。なんて素敵なアンプだろう。また機会があれば、このあたりの話もお届けできたらと思う。

(提供:ディーアンドエムホールディングス

 

 

 

マランツ「STEREO 70s」自宅導入レビュー。評論家・秋山氏が「傑作アンプだと泣きながら確信した」その魅力とは? (4/4) - PHILE WEB