寺院を取り込んだ高層ビルに露天風呂、「カンデオホテルズ大阪心斎橋」23年11月開業
川又 英紀日経クロステック
寺院とホテルが一体化した極めて珍しい施設が、大阪に間もなく誕生する。場所はホテル激戦区の心斎橋だ。
東京建物は2023年10月11日、宗教法人三津寺(みつてら)と共同で、寺院とホテル、店舗の一体型複合施設「東京建物三津寺ビルディング」が同年9月29日に大阪市内で竣工したと発表した。施設の上層部に入居するホテル「カンデオホテルズ大阪心斎橋」は、同年11月26日に開業する予定である。
施設の低層部に寺院を配置した新築の高層ビル「東京建物三津寺ビルディング」。上層部にはホテル「カンデオホテルズ大阪心斎橋」、寺院がある北側のピロティの隣には商業施設が入る(写真:日経クロステック)
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断面図(出所:東京建物、大成建設)
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東京建物三津寺ビルディングは地下1階・地上15階建てで、高さは約60m。敷地は市の繁華街である心斎橋の一等地にあり、地下鉄御堂筋線の心斎橋駅となんば駅の中間に位置する。市の中心部を南北に貫く幹線道路の御堂筋に面する絶好のロケーションだ。
御堂筋に面した施設1階に本堂を移設した。三津寺は参拝しやすい路面配置にこだわった(写真:日経クロステック)
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東京建物三津寺ビルディングの位置図。御堂筋沿いで、心斎橋駅となんば駅からそれぞれ徒歩5分という好立地(出所:東京建物)
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施設の周辺には、高級ブランドショップが軒を連ねている。心斎橋のランドマークである百貨店の大丸もすぐそばだ。そして三津寺と一体化した東京建物三津寺ビルディングもまた、御堂筋の新たな顔になりそうである。
今回のプロジェクトは、地元で長く信仰の場になってきた「七宝山大福院三津寺」の本堂を保存しながら、ホテルと商業施設を備えた複合施設を建設するものだ。三津寺の本堂と庫裏(くり、厨房)がホテルと店舗が入る施設に同居する。延べ面積は約9500m2である。
真新しい高層ビルの地上1~3階に設けた3層吹き抜けのピロティに、古い木造寺院をすっぽり納めた。新旧が入り交じる不思議な光景を生み出している。以前は三津寺筋にあった寺院の入り口は今回、御堂筋側に変更。非常に目立つようになった。
地上1階の平面図(出所:東京建物、大成建設)
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前例がない大胆な建築計画を三津寺が決断したのは、
江戸時代に建立された貴重な本堂をこれからも保存していき、
同時に老朽化が進んでいた庫裏を建て替えるためだ。
地元に根付く仏教文化を次世代へ確実に継承していく道を選んだ。
以前の三津寺。庫裏の老朽化が進んでいた(写真:東京建物、デジクリ)
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コンセプトは「開かれた三津寺」である。1階のホテルエントランスと寺院の境内に相当する部分は完全に一体化している。ホテル利用者は必ず、三津寺を見ながらホテルに入っていくことになる。
1階のホテルエントランスと寺院の境内が一体化(写真:日経クロステック)
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ピロティ内で本堂を見ると、その大きさに驚く(写真:日経クロステック
三津寺が所有する土地に定期借地権を設定
三津寺を持続可能な形で存続させるため、東京建物がプロジェクトマネジメントを担当。独自の事業スキームを構築し、建物の開発を主導してきた。
具体的には、三津寺が所有する土地に50年の定期借地権を設定。東京建物が契約して借地権者になった。そのうえで、本堂と庫裏を所有する三津寺と、借地権者として施設を所有する東京建物が共同事業者となり、複合施設を開発する。三津寺は定期的に東京建物から収入を受け取り、今後の改修資金などに充てる計画だ。
50年後の契約終了時には、東京建物が施設を解体して更地に戻し、三津寺に返却する。ただし、再契約などもあり得る。
三津寺は西暦744年、聖武天皇の命で行基菩薩が応神天皇の菩提を弔うため、十一面観世音菩薩像を彫って祭ったことを開創とする真言宗寺院である。現在の本堂は1808年に建立された木造建築物で、平安時代から江戸時代までの仏像を数多く保有する。1200年以上の歴史があり、大阪ミナミの信仰の場になってきた。一方、庫裏は1933年に鉄筋コンクリート造に建て替えたものだ。
本堂は市内では珍しい、第2次世界大戦の戦火を免れた江戸時代の建物である。天井に描かれた100を超える色とりどりの花卉(かき)図や、漆や金箔、色絵で彩られた柱や彫刻などの江戸美術が現在までそのまま残っている。副住職の加賀俊裕氏は、「本堂や江戸美術を次世代に継承していくのが我々の役目だ」と説明する。
天井に描かれた色鮮やかな花卉(かき)図が本堂の見どころの1つ(写真:日経クロステック)
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施設正面から見て一番奥側に建て替えた庫裏には、仏像や仏画の展示ギャラリーや茶室などを設けた。右は三津寺副住職の加賀俊裕氏(写真:日経クロステック)
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これまでなかなか見られなかった本堂の屋根部分を館内の窓から眺められるようにした(写真:日経クロステック)
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「三津寺ホテルプロジェクト新築工事(仮称)」で設計・施工を手掛けた大成建設は、レールを敷いた曳き家(ひきや)工事で本堂の位置を動かしながら施設の建設を進めてきた。施設の構造は鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造だ。鉄骨に囲まれた半屋外空間に、木造の本堂が移設されたわけだ。
低層部は本堂を包み込む北側ピロティの外郭フレームと、ガラスファサードで覆った南側の商業エリアに分かれる。
寺院を建屋に取り込んだ「カンデオホテルズ大阪心斎橋」、本堂はレールで2回移動
大阪市にある宗教法人三津寺と東京建物、カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントは2022年12月14日、三津寺本堂を新築ビルの低層部に取り込んだホテル「カンデオホテルズ大阪心斎橋」を23年11月26日...
2022/12/19
本堂を施設内に移す今回のタイミングで、修復も実施した。1933年に行われた改修前の姿に戻すことにし、軒の修復や向拝(唐破風)の撤去を行った。取り外した部材の一部は、境内の出入り口に装飾として転用。近代の記憶も継承していく。
従前の本堂(写真:東京建物、デジクリ)
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修復した本堂。外観を建立時の様式に戻した(写真:東京建物、エスエス大阪支店
最上階に露天風呂があるホテルで大阪攻略
東京建物三津寺ビルディングは15階建てで、1~3階の北側に本堂、南側には御堂筋に立ち並ぶようなハイエンドな店舗が入る予定だ。4~15階がカンデオホテルズになる。カンデオホテルズを運営するカンデオ・ホスピタリティ・マネジメントは2023年10月13日に、報道陣向けのホテル内覧会を開催した。
西側(建物正面)の立面図(出所:東京建物、大成建設)
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ホテルのフロントは4階にある。1階の境内兼ホテルエントランスを抜け、エレベーターで4階に上がる。同じ階にロビーとレストランもある。
5~14階が客室で180室を設けた。最上階の15階には、地上55mの高さに位置する露天風呂や内湯、サウナを備えた「スカイスパ」がある。ホテルと三津寺は連携し、絵写経や瞑想(めいそう)といった日本文化を体験できるホテルプランを用意する計画だ。
カンデオホテルズの特徴である温浴施設「スカイスパ」。露天風呂から大阪の景色が見える(写真:日経クロステック)
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サウナも完備(写真:日経クロステック)
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家族で泊まれるような客室の構成。西側にある窓からは御堂筋が見える(写真:日経クロステック)
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大きな窓に低いソファ、鏡張りの壁など、室内を広く見せる工夫が随所にある(写真:日経クロステック)
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本堂に入ってすぐの場所(写真手前)は以前は板間だったが、畳敷きにして直接座れるようにした。畳の上で、ホテル宿泊者が「朝のお勤め」体験などができるプランを用意する予定(写真:日経クロステック)
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カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントの穂積輝明代表取締役会長兼社長は、「心斎橋・なんばエリアはホテルが密集する激戦地だ。宿泊業の当社はコロナ禍に苦しい経験を強いられたが、業界内ではいち早く回復基調に乗れている。寺院と一体化した他に例がないホテルで差異化を図りたい」と話す。
内覧会に出席したカンデオ・ホスピタリティ・マネジメントの穂積輝明代表取締役会長兼社長。同社は大阪で勢力を拡大している(写真:日経クロステック)
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24年夏には同じ御堂筋沿いに、もう1つのホテル「カンデオホテルズ大阪堂島浜(仮称)」の開業を控えている。三菱地所などが開発している32階建ての複合施設「大阪三菱ビル(仮称)」の上層部に入居し、最上階の地上135mの位置にスカイスパを設ける。
客室数は548室と、カンデオホテルズ最大級の規模になる。
堂島川沿いに建設中の複合施設「大阪三菱ビル(仮称)」
(写真右のガラス張りの超高層ビル)
の上層部にも「カンデオホテルズ大阪堂島浜(仮称)」
が24年に開業する予定だ。
御堂筋沿いのキタとミナミに新しいホテルを構えることになる
(写真:日経クロステック)
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25年の大阪・関西万博の開幕に向けて、
大阪はホテルの建設ラッシュに沸いている。
中でも堂島・中之島エリアは高級ホテルが集まるため、
カンデオホテルズ大阪堂島浜もまた激戦になる
寺院を取り込んだ高層ビルに露天風呂、「カンデオホテルズ大阪心斎橋」23年11月開業(3ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)