デュアル増幅回路にAKM最先端DACを加えた高い完成度

セパレートDACの“リアルサウンド”を手元で実現。HiBy上級DAP「R6 Pro II」レビュー

2023/10/10岩井 喬

 

 

 

 

数多ある中国ブランドのハイレゾDAPのなかでも、近年、特に力をつけているのがHiByのラインナップだ。HiByは2011年に創設。20年を超えるポータブルオーディオ機器開発の経験を持つ技術陣を有しているという。

今回は、6月末にHiByの上級DAPとして国内登場した「R6 Pro II」について、その特徴とサウンドのレポートをお届けしたい。このR6 Pro IIは、2018年に誕生した「R6」シリーズの系譜であり、2019年に登場した前世代の「R6 Pro」から、筐体デザインや内部構成を含めて大幅にブラッシュアップされている。

 

 

 

HiBy「R6 Pro II」(予想実売価格:税込12万円前後)

 

■AKMの「セパレートDACソリューション」を携帯機で引き出す設計


R6 Pro IIの大きな特徴は、今年春に登場した兄弟機「R6 III」からSoCやA級/AB級動作切り替えアンプなどを継承しつつ、DAC段を一新した点にある。デジタル処理とアナログ処理を分離させた、AKMのセパレートDACソリューション、最新フラグシップチップ「AK4499EX」とデジタルデータコンバーターチップ「AK4191」を取り入れた構成となっている。

このセパレートDACソリューションは、ウエハーを通してデジタル部のノイズがアナログ部へ伝わることで起こり得る悪影響を取り払い、S/Nや歪みを従来以上に抑え込む手法だ。

デジタルフィルターやΔΣモジュレーターなど、デジタル処理はAK4191が担当。電流出力型構成とした2ch仕様のDACチップであるAK4499EXは、純粋なD/A変換、即ちアナログ処理に専念させている。電流生成に用いる抵抗素子のミスマッチを減らすDWA Routing Technologyを取り入れたことで、S/Nを一層高めた、現在最高水準のDACチップである。

AK4191は最高でPCM 1,536kHz/64bit、DSD 45.1MHzまで入力可能であり、R6 Pro IIもこのスペックをそのまま踏襲。AK4499EXについては左右で1基ずつ分離させたデュアルモノラル構成とし、L/R各々のHOT&COLD信号を取り出すバランス回路を構築している。

「オールイン オーディオ アーキテクチャー」と銘打たれたこの回路構成は、左右合計8本のシグナルラインに各々I/V変換回路が設けられ、LPF後に設けられたオーディオスイッチでバランス/アンバランスを切り替えるつくりだ。

「オールイン オーディオ アーキテクチャー」のイメージ図。2基のAK4499EXから伸びる4ch分/計8本のシグナルラインそれぞれに電流 - 電圧変換を行い、バランス/アンバランス出力どちらでもデュアルモノDACのポテンシャルを最大限に引き出すことが目的だ


電源部は30年以上の経験を持つエンジニアが設計にあたったとのことで、完全シールド処理を施した、超低内部抵抗・高磁力な高出力インダクターを採用。デジタルセクション、デコードセクション、プリアンプ、出力段の電源回路を独立させ、干渉を抑えている。

DACからアンプ部までの4つのセクションが互いに干渉しないよう、電源回路の分離を徹底したという


そして本機のもう一つのトピックが、A級/AB級デュアル増幅回路である

 

 

 

 

2つの音調を楽しめるアンプ回路に、機能性/操作性も欠かさず充実


本機のデュアル増幅回路は、A級/AB級各々の増幅回路を個別に用意し、ソフトウェアメニューから随時切り替えて楽しむことができる豪勢な仕様であり、TI製オペアンプ「OPA1652」を2基、NXP社製バイポーラトランジスタを8基搭載する。

画面の上から下にスワイプして呼び出すメニューから、アンプの動作方式を簡単に切り替えられる


A級動作は出力段素子の動作曲線において、直線部分に動作点を置く手法であり、クロスオーバー歪みもなく、過渡応答性も早い。そのサウンドの特徴は滑らかで、楽器の質感も艶良く引き出す。密度が高く力強い音像表現に加え、ドライブ能力も高く、小型ヘッドホンやハイブリッドIEMなどでも難なく駆動できるよう設計されているという。

もう一方のAB級動作は一般的に広く用いられている回路であり、低歪みで音質的なメリットの多いA級動作と、効率的に大出力を実現できるB級動作の中間的な動作が特徴だ。A級動作より発熱も少なく高効率でありながら、大出力と低消費電力を実現する手法である。

本機のオーディオ設定メニューには、アンプ以外にもゲインやDACのフィルター切り替え、音質カスタマイズ機能などさまざまな項目が用意されている


メインOSはAndroid 12をベースにカスタマイズした「HiBy OS」。Androidの取り回しの良さはそのままに、システムカーネルからサンプリングレート変換機能をバイパスさせる「Direct Transport Architecture(DTA)」を導入し、OS由来の音質劣化を抑えた設計思想が評価されている。

加えてSoCには、オクタコアCPUを内包するクアルコム製「Snapdragon 665」を採用。これらによるレスポンスの良い快適な操作性も本機の特徴の一つである。なおMQAファイルに関しては16倍の展開が可能だ。

設定画面から確認できるR6 Pro IIのスペック。音質はもちろんのこと、スムーズな操作性も合わせて追求している


さらにBluetooth接続はLDACやaptX HD、独自規格UATなど高音質コーデックの送受信に対応。またクロック部には45.1584MHzと49.152MHz、2系統のレートに対応したフェムト秒精度のNDK製超低位相ノイズ水晶発振器を装備する。

ボディはアルミ製で、波打つようなバックプレート、握りやすさにも配慮したアシンメトリックデザインなど、これまでのモデルから意匠を大きく変更。ヘッドホン出力は3.5mmシングルエンド&4.4mmバランスを装備する他、同じ構成のライン出力も備えており、同軸デジタル出力も取り出せる。

 

 

背面には波のような意匠や、片側にだけ傾斜をつけるなど、従来モデルと異なる印象を作り出している

USB Type-Cポートを中心に、ライン出力/ヘッドホン出力を対称に配置している

 

 「Flip Vertically」を使えば、画面および出力端子の向きを上下逆転させることが可能。アシンメトリックなデザインのおかげで、ホールド感は変わらない

 

■AKMセパレートDACの空間表現が手元で味わえる“破格”のDAP


試聴にはビクター「HA-FW10000」を組み合わせた。全体的な傾向としては、AB級動作は見通しの良い音場表現と、キレ良く明瞭に立ち上がる音像が織りなす高解像度なサウンドを展開。低域方向の引き締めも良く、楽器のディティールも色付けなく素直に引き出す。AKMのセパレートDACソリューションならではの高S/Nで澄み切った空間表現力も相まって、シャープで分離の良いサウンドを味わえる。

A級動作に切り替えると音像のボディ感が増し、低重心で安定感のある表現に変化。余韻の階調性も一際高まり、楽器の艶やかさや、輪郭のエッジを抑えた、上質でゆとりのあるサウンドとなる。落ち着きのあるナチュラルな音像の佇まいは非常に耳当たり良く、弦楽器の潤いも流麗に描き出す

 

 

 

クラシックの飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013「プロコフィエフ:古典交響曲」をAB級動作で聴くと、低域方向まで引き締まった管弦楽器の澄んだ響きがキレ良く鮮やかに立ち上がり、空間性も素直で定位も明確に掴める。

一方、A級動作では旋律のしなやかさや楽器のボディ感が増し、ローエンドまでゆったりと表現。余韻の豊潤な響きも上品に感じられる。

続いてロック音源のTOTO「TAMBU」を、こちらもまずはAB級動作でチェック。キックドラムのアタックはタイトにまとめ、キレ良く逞しいベースの存在もすっきりと描く。エレキギターやボーカルはエッジをソリッドにまとめているが、全体に安定感の伴った落ち着き良い描写となる。

A級動作に切り替えるとキックドラムのファットなエアー感が増し、リズム隊のニュアンスをより立体的に引き出す。ギターやボーカルのエッジは幾分マイルドになり、しなやかで質感の艶もより豊かに変化。広がり良くウェットで大人びたサウンドだ。

 ボディの左右には音量調整ボタン/電源ボタン/LED、曲戻し・再生・曲送りボタン/microSDカードスロットが配置される


女性ボーカルものとして、ヨルシカ「斜陽」でも試聴。AB級動作ではリズムが幾分腰高に描かれ、ボーカルの口元もかっちりとした明晰な表現となる。エレキギターのクリーントーンも透明度が高く、倍音の艶もくすみがない。

A級動作になると、ボーカルの肉付きの良さ、質感のナチュラルさが際立ち、声の潤いを伴った穏やかさがより良く感じられる。エレキギターのディストーションも深みが増し、リフのコシの太さ、倍音の豊かさも向上。リズムの密度も高まり、ベースの厚みやコーラスワークの存在感も高まっている。

シボの入ったケースが付属する


またバランス駆動では、より音像のフォーカス感が高まり、音像のディテールも一層きめ細やかに描写。A級動作でも立ち上がりの良さ、分離の高さが味わえ、よりリアルでありながら、艶の乗った音楽性豊かな躍動感あるサウンドを聴かせてくれる。DAC由来のS/Nの良さ、歪みの少なさをより良く際立たせてくれる構成といえるだろう。

AKMのセパレートDACソリューションの空間表現を、デュアル増幅回路の2種類の音調で味わえる完成度の高いDAPだ


R6 IIIでA級/AB級デュアル増幅回路を搭載し、機能やスペックだけでなく音質面でも飛躍を遂げたHiByのDAPであったが、AKMのセパレートDACソリューションを組み合わせたこのR6 Pro IIは、これまでの歩みの総決算ともいえる完成度の高さを誇る。

まだまだ “高嶺の花” の印象が強いセパレートDACソリューションを積んだシステムとしては破格のプライスでもある。ぜひともR6 Pro IIで、旧来の汎用DACチップとは違う世界 ―― すなわち “空間の深さ” も感じられるリアルなサウンドに触れていただきたい。


(企画協力:ミックスウェーブ

 

 

セパレートDACの“リアルサウンド”を手元で実現。HiBy上級DAP「R6 Pro II」レビュー (3/3) - PHILE WEB