国交省が推進する「ZEH水準」はゼロエネではない、実態は「省エネ2割」

前 真之
 

東京大学大学院准教授

前真之・東京大学大学院准教授は、「日本の全ての住宅がZEH水準を達成したところで、住宅は脱炭素化しない」と明言する。その理由の1つは、「ZEH水準」に太陽光発電の搭載を求めていないためだ。詳細を解説する。

(イラスト:ナカニシミエ)

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 2025年の省エネ基準適合義務化は、国土交通省と経済産業省、環境省の3省が合同で12年に取りまとめた「当初計画」から5年遅れであり、新築着工戸数の急減も予測される中で致命的なビハインドであることは、前回の記事で論じた。今回は、30年までに目指すとされる「ZEH水準」(ZEH基準の水準)への適合義務化の意味を考えよう。

当初は太陽光発電を含め、ゼロエネとなるZEHの普及が計画されていた。だが、達成が困難と見るや「ZEH水準」なる曖昧な定義にすり替えて、計画が順調かのようにごまかしている疑いが濃厚である(出所:発表資料などを基に筆者が作成)

当初は太陽光発電を含め、ゼロエネとなるZEHの普及が計画されていた。だが、達成が困難と見るや「ZEH水準」なる曖昧な定義にすり替えて、計画が順調かのようにごまかしている疑いが濃厚である(出所:発表資料などを基に筆者が作成)

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 ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称。ならばZEH水準もその名の通り「消費するエネルギーを太陽光発電で相殺してゼロにした家」だろうと、誰もが期待する。このZEH水準を適合義務化すれば、当初計画にある「2030年までに新築住宅の平均でZEHを実現」という目標は、きちんと遂行されるじゃないか、と感心する向きもあるやもしれない。しかし、ZEH水準は、期待を裏切る全くのニセモノに過ぎないのだ。

断熱と1次エネで性能を規定

 ZEH水準の問題を論じる前に、建築物省エネ法に基づく住宅性能の評価方法を確認しておこう。温熱環境やエネルギー消費量に関しては、外皮性能と省エネ性能の2つの要求値を満たす必要がある。

 外皮性能の主要素である断熱性能については、外皮平均熱貫流率「UA値」が等級ごとの要求値を下回ることを求めている。UA値は建物部位の面積や断熱仕様が決まれば計算でき、値が小さいほど高断熱となる。ちなみに、現在の断熱等級の最上位は、22年に新設された等級7。同年、等級5と6も新設されている。それまでは、1999年時点の省エネ基準である等級4がずっと最上位とされていたのだから恐ろしい話である。

2025年から適合義務化となる断熱性能は断熱等級4。いわゆる「ZEH水準」は断熱等級5だが、上から3番目のさして高くもないレベルである。外皮性能については冷房期の日射熱取得率も勘定する必要があるが、今回では断熱性能についてのみとした(出所:前 真之)

2025年から適合義務化となる断熱性能は断熱等級4。いわゆる「ZEH水準」は断熱等級5だが、上から3番目のさして高くもないレベルである。外皮性能については冷房期の日射熱取得率も勘定する必要があるが、今回では断熱性能についてのみとした(出所:前 真之)

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 もう一方の省エネ性能については、「BEI」の値が要求値を下回る必要がある。BEIは1次エネルギー消費量の基準値に対する設計値の割合で、値が小さいほど省エネとなる。国交省作成の「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」(通称WEBプロ)で算出できる。対象建物の特性と外皮・設備の仕様を入力し、算出されたBEIの値から省エネ性能を判定する。

1次エネルギー消費量等級(BEI値)の概要。基準値は、1999年の省エネ基準である断熱等級4の外皮、2012年ごろの標準設備を導入した住宅を想定したもの。ZEH水準の省エネ性能は、基準値の2割減に過ぎないのだ(出所:前 真之)

1次エネルギー消費量等級(BEI値)の概要。基準値は、1999年の省エネ基準である断熱等級4の外皮、2012年ごろの標準設備を導入した住宅を想定したもの。ZEH水準の省エネ性能は、基準値の2割減に過ぎないのだ(出所:前 真之)

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 ここで要注意なのが、ベースとなる基準値は「1999年基準である断熱等級4の外皮」と「2012年ごろの標準設備」を想定したものということだ。25年に適合義務化される省エネ基準は、まさにこの「断熱等級4」と「1次エネルギー消費量等級4」。時代遅れとしか言いようのない低レベルであり、脱炭素への貢献など期待できないことは自明だろう

 

 

 

国交省が推進する「ZEH水準」はゼロエネではない、実態は「省エネ2割」 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)