なんでも吸収したい」レッドソックス吉田正尚が室伏広治に送った「直訴の手紙」
配信
「逆境を見事に乗り越えた吉田選手の活躍に、僕もいまは完全なファン目線で、みなさんと同じように感動しています」
【写真】室伏氏とともに「紙風船トレーニング」で体幹筋を強化する吉田選手
そう破顔するのは、ハンマー投げ五輪金メダリストでスポーツ庁長官の室伏広治氏(48)だ。 メジャー1年目にして首位打者争いを繰り広げ、ボストン・レッドソックスの主軸として目覚ましい活躍をみせる吉田正尚(30)。今年のWBCでは侍ジャパンの4番として大会歴代最多13打点をマークし、14年ぶり世界一の立役者となった。 そんな吉田が「先生のような存在」と慕うのが室伏氏だ。173cmの体をいっぱいに使った、代名詞ともいえる「フルスイング」は特に腰椎への負荷が大きい。プロ入り1年目から腰痛に悩まされ、度重なる故障で現役続行も危ぶまれた吉田が頼ったのが、室伏氏の指導だったのだ。 今回、その室伏氏が「文藝春秋」のインタビューで、吉田との交流秘話と室伏流トレーニングの詳細を明かした。
便箋に手書きの文字がびっしり
「一通の手紙が届いたのは、2016年11月のことでした。オリックス球団の封筒を開けると、一枚の便箋に、手書きの文字がびっしり並んでいました。それが、吉田選手からの手紙でした」 吉田は2年目のシーズン途中に腰椎椎間板症を発症。一時は一軍登録を抹消される。復帰しシーズンを終えるも、筋疲労性腰痛で秋季キャンプを離脱している。 「手紙を書いてくれたのはちょうどその頃です。インターネットで私のトレーニング動画を見つけ、知り合いを頼って手紙を託したそうです。子供のころ、『スポーツマンNo.1決定戦』というTBSの番組に出場していた私の姿を観て、親しみを持ってくれていたのも一因だったとか。 手紙には、1年目から故障続きで力を出し切れずに悩んでいることが綴られていて、具体的に『トレーニング方法を一度見てもらいたい』『少しでも自分の野球に生かしたい』『なんでも吸収したい』という切実な気持ちが書かれていました。ぜひお会いしましょうと、ほとんど二つ返事でお答えしました
悲鳴を上げていた吉田の腰部
2017年1月からトレーニングを開始した二人。吉田は胸が開き腰椎が伸展、腰部に負担のかかる、いわゆる“反り腰”の典型的な姿勢だったという。 「腰椎が過剰に反った状態でバットを振り続ける、つまり身体の『回旋』を続けると、腰部に疲労が蓄積します。何百回、何千回とバットを懸命に振り続けることで、吉田選手の腰部は悲鳴を上げていたのです」 トレーニングの目標は明快だった。「休まず試合に出続ける」こと。「怪我をしない身体づくり」のために、身体の使い方を根本から見直したのだ。
「日本を担う若い人たちの手本に」
室伏氏は、出勤前にレッドソックスの試合を観ることが毎朝の日課だという。 「テレビの画面で吉田選手のスイングを見る度に、私は見惚れてしまいます。なんて綺麗なんだろう、と。本当に気持ちのいいスイングです。 相当力が入っているはずなのに、一切の力みを感じさせないし、強引なところが全くない。 どん底からよくここまで這い上がって、本当に素晴らしい選手になったと思います。吉田選手の挑戦からは私自身、学ぶところがたくさんありました。ひとつは、『乗り越えられないものはない』ということ。それは彼の信念でもあると思います。 野球選手としてだけでなく人間としての素晴らしさは、今後の日本を担う若い人たちの手本になるのではないでしょうか」 このほか、室伏氏が伝授した「紙風船トレーニング」の詳細、重圧に打ち克つメンタルの保ち方など、“怪我しにくい身体づくり”というアスリートの命題に取り組んだ二人の秘話を綴る「吉田正尚選手からの手紙」全文は、「文藝春秋」2023年9月号(8月10日発売)と「 文藝春秋 電子版 」(8月9日公開)に掲載されている。
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年9月
「なんでも吸収したい」レッドソックス吉田正尚が室伏広治に送った「直訴の手紙」(文春オンライン) - Yahoo!ニュース