史上最大の動物シロナガスクジラより重い? 新種の古代クジラを発見、クジラ巨大化の定説覆す

ナショナル ジオグラフィック日本版

3700万年以上前の「ペルケトゥス・コロッスス」、岩のように巨大な厚くて重い骨

沿岸に生息していた古代のクジラ「ペルケトゥス・コロッスス」(Perucetus colossus)の復元図。(ILLUSTRATION BY ALBERTO GENNARI)

 

 

 

 

 

 体長30m以上、体重約200トンにもなるシロナガスクジラは、長年、史上最大の動物とされてきた。だが今回、体長はこれほどではないものの、体重はもっと重かった可能性のある巨大なクジラ類の化石が発見された。この動物は、今から3700万年以上前に、現在のペルーにあたる地域の沿岸を泳いでいた。

 

 

 

  【関連写真】古代クジラの岩のように巨大な骨の化石  

 

 

 

 

イタリア、ピサ大学の古生物学者ジョバンニ・ビアヌッチ氏らによって「ペルケトゥス・コロッスス」(Perucetus colossus)と命名されたこの古代クジラは、体重が300トン以上あった可能性がある。2023年8月2日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された論文によると、体長は17~20mと推定されるという。  ペルーの国立サンマルコス大学の古生物学者で、論文の共著者であるマリオ・ウルビナ氏は、13年前にペルー南部のイカ渓谷の岩の中からこの部分骨格を発見した。骨は、当初はさほど強い印象は与えなかった。大きすぎて、動物の骨というよりは岩のように見えたからだ。 「奇妙な形をしていたので、彼は当初、これは化石なのだとチームの他のメンバーを説得しなければなりませんでした」と、論文の共著者で、ドイツのシュトゥットガルト州立自然史博物館の古生物学者であるイーライ・アムソン氏は語る。  しかし、現場から発掘された破片の薄い切片を調べたところ、それが骨であることが明らかになり、発掘チームはその後10年の歳月をかけてペルケトゥスを岩の中から解き放った。  イカ渓谷から発掘された化石骨は、椎骨13個、肋骨4本、寛骨(骨盤を形成する骨)の一部だという。骨の解剖学的特徴と、南米沖に生息していた時期から、ペルケトゥスはバシロサウルス(Basilosaurus)と近縁であることがわかる。  バシロサウルスは、長く突き出た口と、獲物を貫いて切り裂くことのできる歯をもつ、完全に水中で暮らしていたクジラ類だ。アムソン氏らは、ペルケトゥスの骨を、現生および化石のクジラの完全に近い骨格と比較することで、この巨大クジラの大きさを推定することができた。  ペルケトゥスの体長はそれほど長くはないものの、体重は非常に重かったようだ。発掘された化石骨は、ほかの初期のクジラやマナティーと同じように、非常に厚くて高密度だった。こうした密度の高い骨は、海洋哺乳類が水中生活に適した体重を保つのに役立っていた。 「体の密度が高すぎると水の底に沈んでしまい、浮上するために常にエネルギーを消費しなければなりません」とアムソン氏は言う。重い骨をもつ海洋哺乳類は、最小限のエネルギーで浮き上がったり潜ったりすることができるように、ちょうどよい浮力を生じる量の筋肉や脂肪をまとっている必要がある。 「私たちは現生の数種の海洋哺乳類における骨格組織とそれ以外の組織の割合を利用して、ペルケトゥスの体重を推定しました」とアムソン氏。それによると、このクジラの推定体重は85~340トンであるという。  ペルケトゥスの体重が推定範囲の重い方にあったとすれば、これまで知られている動物の中で最も重いことになる

 

 

 

 

 

 

 

体重の推定は妥当?

 古代のクジラの大きさを正確に特定するには、さらに多くの化石が必要だ。「この骨格標本は前半分が欠けているため、全体像がつかめないのです。体重を推定する上で、この点が主な課題になります」と、米国立自然史博物館のクジラ研究者であるニコラス・パイエンソン氏は説明する。氏は今回の研究には参加していない。  ペルケトゥスが絶滅したクジラの仲間であり、現生のクジラとは異なる体形をもっていたことも、体重の推定を複雑にしている。パイエンソン氏は、古代のクジラは現代のクジラに比べて、体長の割に体重が軽い可能性が高いと言う。「300トンという上限の推定値は私には信じられませんし、60~80トンでも重すぎると思います」  ペルケトゥスがシロナガスクジラほど大きくなかったとしても、当時の動物としては巨大だった。「このクジラが巨大な動物であり、シロナガスクジラとはまったく違う暮らし方をしていながらも体重はシロナガスクジラに匹敵していたようだということは明らかです」と、大英自然史博物館のクジラ研究者であるトラビス・パーク氏は言う。氏は今回の研究には参加していない。  これまで科学者たちは、クジラが巨大化しはじめたのは約500万年前のことだったと考えていた。海洋循環の変化によって、巨大なろ過摂食者がオキアミなどのプランクトンを大量に集めて食べ、成長できるようになったのだ。しかし、ペルケトゥスが属するグループのクジラは、魚などの大きな獲物を食べる活動的な捕食者だった。 「今回の発見は、始新世後期における最初期のクジラの急激な大型化を私たちが過小評価していたことを示しています」とパイエンソン氏は言う。

巨大クジラの食生活は?

 ペルケトゥスがどのように生活していたのかはまだわからない。これほどの巨体を維持するには大量の食料が必要だったのは確実だが、実際に何を食べていたのかは不明だ。「ペルケトゥスの頭部については、まったくの謎です」とアムソン氏は言う。  それでもペルケトゥスの重い体は、彼らが食べていた可能性のあるものをいくつか指し示している。海で獲物を追いかけていたバシロサウルスとは異なり、ペルケトゥスは泳ぎが得意であるようには見えず、魚のような動きの速い獲物を狩ることはなかっただろうとアムソン氏は言う。また、草食性のクジラは知られていないので、植物を食べていた可能性も低い。  ペルケトゥスは、浅瀬の砂の中にいる貝や甲殻類などを食べていたのかもしれない。歯が残っている頭蓋骨の化石が見つかれば、その謎が解けるかもしれないとパーク氏は言う。「ペルケトゥスが海底で硬い殻をもつ獲物を食べていれば、頭蓋骨や歯には、そのために適応した特徴が見られるでしょう」  ペルケトゥスが古代の海で何を食べていたのかは、現時点では推測することしかできない。アムソン氏は、「個人的は、ペルケトゥスはスカベンジャー(腐肉食動物)で、ほかの大型動物の死骸を食べていたのではないかと思います」と言う。  ほかにも化石が見つかれば、この風変わりなクジラがどのように暮らしていて、なぜこのような分厚い骨格を持つように進化したのかが、さらに明らかになるだろう。1頭でも化石が見つかれば、ほかにも見つかる可能性が高い。  とはいえクジラは奥深い動物だ。新たな化石が発見されるたびに、クジラの進化史における重要な瞬間が部分的に明らかになってきたとしても、「私たちはクジラという動物のすべてを解明できたわけではありません」とパイエンソン氏は言う。

文=RILEY BLACK/訳=三枝小夜子

 

史上最大の動物シロナガスクジラより重い? 新種の古代クジラを発見、クジラ巨大化の定説覆す(ナショナル ジオグラフィック日本版) - Yahoo!ニュース