英紙も注目「日本で生まれた”米由来のプラスチック”がすごい」
消費量が減っている日本の米が「プラスチック」の原料になるPhoto: gtlv / Getty Images
プラスチックの凄まじい廃棄量、米の消費量の低下、電気代の高騰に環境破壊──日本にはさまざまな問題がある。こうした課題に対する新潟発のサステナブルな取り組みに、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が注目した。
あなたのコンタクトレンズからマイクロプラスチックが目に流れ出ているかも
日本は「プラスチック大国」から脱却できるか
奥田真司は野村證券の証券マンとして14年間働いたあと、パンデミック真っ只中の2020年に思いがけないキャリアチェンジを果たした。米を使うことで、日本の石油系プラスチックへの過度な依存を低減させるべく取り組むスタートアップ「バイオマスレジンホールディングス」に入社したのだ。 そして2022年、40歳の奥田は、同社の子会社である「バイオマスレジン南魚沼」を率いる立場に昇進した。バイオマスレジン南魚沼は、日本最大の米どころである新潟に本社を置く。 なぜ日本最大の証券会社を辞めて、知名度の低いスタートアップに入社したのか。そう問えば、「この会社は人員こそ不充分でしたが、非常に高い志と明確なビジョンがありますから」と奥田は答える。 そんな彼は現在、バイオマスレジン南魚沼の社長を務めている。「前途多難であることはわかっていました。しかしビジネスがエキサイティングで、自分の人生をもっと楽しめるんじゃないかと思ったのです」 2017年末に設立され、新潟の都市名にちなんで命名された同社は、古米や砕米などの食用に適さない地元産の米から、低炭素プラスチック「ライスレジン」を製造している。用途は玩具からゴミ袋まで多岐にわたる。 一人当たりのプラスチックごみ排出量が米国に次ぐ世界第2位の日本にとって、バイオプラスチックは環境問題の解決に役立つ手段だ。日本政府は、2030年までにバイオマスプラスチックの年間使用量を200万トンに拡大するという目標を掲げている。バイオマスレジンは、その5%にあたる10万トンを生産したい構えだ。 矢野経済研究所によると、バイオプラスチックの国内市場はまだ規模が小さい。昨年の出荷量は推定9万2580トンだった。 だが奥田によると、「ライスレジン」の需要は、日本が直面している別の構造的課題からも生じている。米の消費量の減少に伴い、フードロスや耕作放棄地、米農家の収入減といった問題が起きている。そのためライスレジンが、米の生産に別の用途を提供しているのだ。 「日本のプラスチック利用者やメーカーの環境意識は、まだかなり低いのが現状です」と奥田は言う。「しかし米や農業の未来に対する危機感は強い。当社の素材が新たな農業モデルの構築に貢献できるのではないかと、期待されているのです」 さらに、バイオプラスチックの原料としてより広く利用されている米国産トウモロコシやブラジル産サトウキビよりも、国産米のほうが供給が安定しており、価格も安いという
再注目される伝統的な「雪の冷蔵庫」
バイオマスレジンは、国内10拠点に製造工場を建設することを目標に掲げている。最近は熊本と福島に工場を設立した。ベトナムでも工場を操業しており、東南アジアの他の国々への進出も目指している。 バイオマスレジンによれば、米由来のプラスチックは、石油由来のおよそ1.5倍の製造コストがかかるという。それゆえ、大量生産こそがライスレジンの製造コスト削減の鍵だと、専門家は指摘する。 バイオマスレジングループが製造するプラスチックは、最大70%まで米を混ぜられるものの、残りはまだ石油由来だ。そしてこのプラスチックは、生分解性ではない。だが米を使用することで、焼却時に排出される二酸化炭素を削減することができる。 同社はおよそ1年以内には米の含有率を75~80%にまで引き上げ、残りを植物由来の繊維で代用する計画だ。 また米を使う以外にも、新潟では持続可能な社会の実現に向けた取り組みとして、「天然冷蔵庫」の利用も拡大している。これは日本酒や野菜、その他の商品を貯蔵するもので、電気の代わりに雪を使って冷蔵する。 雪の冷蔵庫、いわゆる「雪室」作りは8世紀にまでさかのぼる慣習だ。だが1950年代以降に電気冷蔵庫が普及すると、その大半は放棄された。しかし新潟では、地震による停電対策として雪室が復活し、10年前には県内屈指の人気を誇る日本酒「八海山」の冷却・熟成に使用する近代的な雪室も建設されている。 雪を活用した冷却システムの専門家で、コンサルタントとして活躍する伊藤親臣(いとうよしおみ)によれば、自然冷却のために雪を利用することのメリットは、二酸化炭素排出量の削減にとどまらない。高騰する電気料金への対応策としても、注目を集めているのだ。 ほかにも、医薬品やワクチンを一定の低い温度で保管する手段として雪を活用できる可能性があると、伊藤は言う。 2021年、新潟に拠点を置く物流会社「マルソー」は、全国で初めて冷却システムに雪を利用した倉庫を運営する認可を取得した。伊藤いわく、雪を使った倉庫は「電気代が高くて自社で商品を保管できない顧客」のニーズに応えられる。さらにこうも付け加えた。 「マーケティングツールとして活用し、環境に優しい商品としてアピールできるのです」
Kana Inagaki
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