一日17時間拘束で休みゼロ…美容師の“超絶ブラック”環境。半数以上が3年もたない
一般的に、美容師がスタイリストとしてデビューするまでの期間は、個人差はあるものの平均3年ほどと言われている。離職率が高く、スタイリストデビューを待たずして辞める者も多いと聞くが、せっかく取得した美容師免許を反故にする者が後を絶たないのはなぜなのか。スタイリスト歴の異なる2人の現役美容師に、これまでの経験や業界について思うところを聞いた。
1年以内の離職者が絶えない!ブラックな勤務実態
厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」によれば、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者35.9%、新規短大等卒就職者41.9%、新規大卒就職者31.5%だった。そのうち、美容師を含む「生活関連サービス業・娯楽業」の3年以内の離職率は、高校卒で57.2%、大学卒で47.4%と、上位5産業のうち2位に食い込む離職率の高さだった(短大等卒についてはデータなし)。 「給料の低さと仕事のキツさを理由に、1年以内に辞めていくアシスタントはザラにいます。僕も新人の頃は営業時間の前後に施術の練習していたのですが、最初に入った店ではアシスタント期間が長く、歯がゆい思いをしながらもなんとか食らいついていました。結局、スタイリストになるまで合計6年かかりました」 こう語るのは、都内の美容室で店長を務めるスタイリスト歴13年の佐々木さん(仮名・30代)。美容師資格を取得し地元の美容室にアシスタントとして就職するも、5年経ってもジュニアスタイリスト(※カットのみできる見習いスタイリスト。店舗によって定義は異なる)どまりだった。
1日17時間拘束、休みほぼナシの超絶ブラックだった過去
正社員の固定給は低く、まだ客の指名を取ることが許されなかったため、歩合給もゼロだった。焦りを感じた佐々木さんは、上京して大手の美容室チェーンに入社。そこで1年間経験を積み、晴れてスタイリストデビューを果たしたのだが、そこまでの道のりも険しかったようだ。 「大手チェーンでのアシスタント時代は、朝7時に店に行って、約2時間の朝練。開店準備をして10時から20時までの営業を終えたら、24時まで施術の練習をするのが日課でした。もちろんそんな遅くまで練習してたら終電に間に合わないから、アシスタントはみんな店の近くのアパートに住んでましたよ」 スタイリストデビューしてからは営業前後の拘束時間が多少減ったものの、入社6年目にディレクターに昇格した佐々木さんは複数店舗のアシスタントの指導を任されることになり、ふたたび地獄の「17時間拘束」の日々が始まった。 「所属店舗のほかに4店舗を任され、各店舗10人ずつ計50人の指導にあたりました。しかも、営業時間に自分の通常業務もこなしながらなので、当時はめちゃくちゃキツかったですね。講習会やコンテストにアシスタントを引率して行かなきゃいけなかったから、月8日の休日も実際はほぼ潰れてしまい、プライベートなんてなかったです
研修制度が見直されるも、不満は払拭できず
2019年、36協定に関する労働基準法の改正を受けて、美容業界も労働時間削減へと乗りだした。佐々木さんのいた大手美容室チェーンでも上層部から「練習のために新人に残業させるな」とのお達しがあり、研修時間が見直されることになったそうだ。 しかし、給料は労働の負荷に対して見合う額ではなく、積もり積もった不満は払拭しがたかった。「やりがい搾取されていた」と佐々木さんは当時を振り返る。すり減るような日々に耐えかね、大手美容室チェーンを退職した。 今度はゆるやかに働ける環境を求めて、佐々木さんはフリーランスに転身。カット・カラー・パーマなど一通りの技術を身につけているスタイリストは、個人事業主として特定の美容室と業務委託契約を結ぶという働き方ができる。あるいは、シェアサロン(面貸し美容室)で席を借りて、利用料をサロンに払い自由な時間で客をとるという働き方もできるのだ。 佐々木さんはフリーランスとして複数の美容室で働いたのち、数年前に現在の店舗に落ち着いたという。
フリーランスになったことで1日の拘束時間は激減
現在、佐々木さんは小規模美容室チェーンの店舗で店長を務めているが、正社員ではなくフリーランス契約だ。給料は完全歩合制となっており、施術の歩合に加えて店長業務に対する歩合も支払われる。営業時間は10時から20時までだが、フル勤務だけでなく、早番や遅番のシフトも自由に組める。 「昔と比べたら、体力的にはかなりラクになりました。月の休日日数は8日前後と、前いた店と変わらないけれど、講習会などのイベントへの参加は強制ではなくなったので、休日はしっかり休めてます」 また、勤務形態以外の面では、こんな違いもあったという。 「前に勤めていた大手チェーンは、1店舗に20~30人のスタイリスト、10人のアシスタントがいるザ・縦社会でした。人数が多いと派閥ができてスタッフ同士ギスギスしてしまうし、自社プロデュースのヘアケア用品の販売ノルマも課されていたので、お客様に営業をかけること自体がストレスになっていました。今はスタイリスト数名でほどよい距離感を保てる環境ですし、販売ノルマもないので、本来の施術や接客に集中できています」 佐々木さん自身、気持ちに余裕ができたことで、若手への接し方を振り返るきっかけになったそうだ。 「昔は仕事に人生を捧げてナンボみたいなところがあったけれど、今の子は仕事と同じかそれ以上にプレイベートを重視しているということを理解しないといけない。それに、上から目線な指導じゃなくて、その子の個性を尊重して、いいところを褒めたほうが成長してくれると、これまでの経験で気づかされました」
入社から半年でスタイリストデビューの道も!?
続いて、若手スタイリストの声に耳を傾けてみよう。佐々木さんと同じ美容室に所属するスタイリスト歴3年の上山さん(仮名・20代)は、美容学校卒業後に新卒で別の美容室に就職したが、約2か月で辞めたそうだ。 「働いていたサロンが嫌とか、美容師の仕事自体が嫌だったというわけではなく、単に自分自身が社会人としてのマインドに持っていけてなかったんです。入社前からシャンプーの練習をして、入社後もひたすらシャンプーや雑務。この生活があと3年も続いて、やっとスタイリストになれるのかぁ……と考えたときに、耐えられないなと思いました」 退職後の数か月間は派遣などの仕事を経験して、やっぱり美容師の仕事をしたいと一念発起し、中途採用の求人を探した。条件は、「実戦経験をたくさん積めて、スタイリストデビューが早い店」だ。
「自分を指名してくれるお客がいて嬉しい」
無事採用され、入社後半年間みっちり講習を受けるが、月に数回は店舗に出て清掃などの雑務やスタイリストのサポートを行う日が設けられている。ちなみに、トレーニング期間中も給料は支給されるという。 「基礎講習のほか、カットやカラーのモデルさんを予約アプリで募って、実際の営業に近いかたちで1日に4~5名立て続けに施術することもありました。空いた時間はウィッグを使って自主練もできるし、本当に半年間で数年分の濃い経験をさせてもらった感じです」 上山さんは、店に配属された当初は正社員登用で給料は固定給制だったが、指名客が安定してつくようになってから、歩合制に切り替えたそうだ。フリーランスは労働基準法の適用除外となるため、正社員よりもシフトの融通がききやすいという。 「稼ぎたいときはシフトの時間をのばしたりしますし、逆に、体調が悪い日は、早くあがらせてもらうことも。いい環境でスタイリストとして働かせてもらえてありがたいし、自分を指名してくださるお客様がいるというのが嬉しい。働いたぶんだけ数字(歩合)として表れるのがモチベーションにつながっています」 技術を身につけ早々にスタイリストデビューして活躍する上山さんはなんとも頼もしいが、他店に就職した美容専門学校時代の同期は、スタイリストデビューできているのだろうか
デビューできるかは個人のセンス次第?
「体感で、同期の7~8割は美容師を辞めてますね。半年くらいで辞める人もいれば、2年目で辞める人もいるし。やっぱり、アシスタント期間の長さや、労働時間に対する給料の低さを理由に辞める人が多い印象です。でも、今も美容師を続けている同期は、営業時間の前後の練習を続けて、ほぼほぼスタイリストになれてるかな。一方で、他店で働いている2~3個年上の先輩はまだアシスタントだったりするので、スタイリストデビューにかかる期間は店によってバラバラですね」 正社員の勤務形態は全体的に改善されつつあるとはいっても、やはり職人気質な業界。スタイリストデビューできるどうかは、店の方針や、個人の元々のセンスやスキルに大きく左右されるようだ。 佐々木さんが勤めるチェーン店のような研修体制が必ずしも正解ではないかもしれないが、ベテランと肩を並べてイキイキと働く若手スタイリストの姿を見るにつけ、美容師としての技術とマインドを叩き込み急成長を促す「短期集中型」研修は、業界のホワイト化への糸口になりそうだと感じた。 <取材・文/日刊SPA!美容業界の実態調査隊>
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