生きていくために仕方がない」日本でも被害続発中の特殊詐欺集団「ヤフーボーイズ」の驚くべき正体
詐欺の手口を詳細に語ったヤフーボーイの1人。「警察は恐くない。カネを渡せば逮捕を免れるから」と豪語する
広いベッドにうつ伏せになりながら、黒人の若者2人がスマホを片手に談笑している。そのうちの1人、レオン(仮名・20歳)が、出会い系アプリにおける偽アカウントの作り方を実演してくれた。
【画像】慣れた手つきで…「国際ロマンス詐欺集団・ヤフーボーイズ」の素顔
「インスタグラムから欧米人の女性の写真をスクショし、それをトリミングして貼り付けるだけです」 そう言ってレオンは、慣れた手つきでスマホを操作し、偽名のプロフィールを早々と作成した。写真の女性になりすまし、異性にアプローチをするのだ。 「メッセージを送る対象は、60代以上のお年寄りの男性です。なぜなら高齢者は若い人に比べ、SNS事情に疎く、信じやすいから。それに寂しがり屋なので」 ポルノ女優の写真をネットで拾って使うことも多い。レオンのスマホを見せてもらうと、ブロンドヘアの女性たちの妖艶な姿が大量に保存されていた。そして相手に送る「愛情」がこもったメッセージは、幾つもの例文が保存されたファイルがネット上に存在していた……。 今年2月下旬、ナイジェリアの最大都市ラゴスにあるスラムの一角でのこと。広さ8畳ほどのアパートの一室にはエアコンがなく、停電が続いていたため、薄暗い室内は蒸し風呂状態だった。レオンはこの部屋から学校に通う現役大学生だ。その傍ら、サイバー犯罪に手を染めていた。SNSやマッチングアプリなどで知り合った異性を対象に恋愛感情を抱かせ、金銭を騙し取るのだ。始めたきっかけは高校生の頃だったと、レオンが振り返る。 「詐欺をやっている友達に影響されました。彼らから詐欺のやり方を教えてもらい、米国人男性4人から合計1800ドル(約25万円)を送ってもらいました」 被害者の多くは欧米出身者だが、日本を含むアジア系も少なからずいる。この犯罪は、日本で「国際ロマンス詐欺」と呼ばれ、ここ数年で被害が急増している。新型コロナの流行によって対面での食事が制限され、出会いの場をマッチングアプリに求める傾向が強まったためだ。
◆「現役学生」が罪を犯すワケ
被害相談を受ける国民生活センターによると、’22年度の相談件数は941件。男女比では男性が6割を占め、年齢層も10代から70歳以上と幅広く、老若男女を問わない。被害額は数百万から数千万円、あるいは1億円を超える場合もある。 私は3年ほど前からロマンス詐欺の取材を続けてきた。その過程で、犯人が西アフリカのナイジェリアやガーナに集中している実態を知り、いつしか犯人たちに接触できないかと考えるようになった。 そこでまず、日本に約3300人いる在日ナイジェリア人の取材から始めてみると、事情に詳しいあるナイジェリア人の学生が、ロマンス詐欺に加担する犯人について、こんな話を教えてくれた。 「彼らは『ヤフーボーイ』って呼ばれているんだ。ロマンス詐欺など色々な手口を使った詐欺を働き、外国人から騙し取ったお金で高級車を買い、クラブで女性と遊んだりしているんだよ」 ヤフーボーイ……。 歴史を遡ること1980年代、ナイジェリアでは独裁政権による汚職がひどく、その腐敗体質を利用した詐欺が横行していた。王族や政府高官を名乗る人物から、「父親の遺産を海外に送金したいので口座を貸してほしい」という内容の手紙が海外の経営者に届き、手数料を騙し取られていたのだ。しかしインターネットの普及により手紙がメールに変わり、犯人たちはヤフーメールを使って詐欺を続けたため、これが転じて「ヤフーボーイ」と呼ばれるようになった。 冒頭で紹介したレオンもヤフーボーイで、大学生を中心にしたナイジェリアの若者の多くが現在、ロマンス詐欺に手を染めている。 ラゴス入りした私は、サイバー犯罪研究の第一人者であるアダム教授(仮名)を通じて、ヤフーボーイを複数紹介してもらった。いずれも彼の教え子たちで、大学生が片手間でロマンス詐欺をやっているためか、皆、生活は厳しく″成金″はいなかった。それでも法を犯していることに変わりはない。 アダム教授は学生を指導する立場にあるため、本来であれば犯罪をやめさせるべきだ。しかし、ナイジェリアには歴史的に詐欺が横行している背景がある上、犯行を容易に阻止できない複雑な事情がある。アダム教授が解説する。 「周りの学生たちがやっているから、それに影響を受けて皆、詐欺に手を出してしまうんです。当たれば楽にお金が入るから。さらに警察などの捜査機関が、ヤフーボーイたちからの賄賂と引き換えに、逮捕を見送ることもあります」 ヤフーボーイが詐取したお金の一部が、警察に流れているという構図だ。誤解のないように説明するが、途上国におけるこうした捜査機関の腐敗体質は特に珍しいことではない。アダム教授が続ける。 「ロマンス詐欺を取り締まる法整備も不十分です。ナイジェリアでインターネットが普及し始めたのが’00年代で、サイバー犯罪取締法が成立したのは’15年。その間にロマンス詐欺が広まってしまいました。なおかつ、若者たちが置かれた貧困状況も、詐欺に加担する1つの要因になっています」 貧困を、犯罪を正当化する理由にしてはならない。日本的な物差しで見れば正論だが、それだけでは測れないナイジェリア社会の現実があるのもまた事実だ。
◆若者が憧れる「詐欺成金」
特にレオンの頭を悩ませているのは、大学を卒業した後の将来についてだ。 「ナイジェリアでは今、大学を卒業しても仕事に就くのは難しい。50%ぐらいの確率だと思います。普通に給料がもらえる仕事があればいいんですが……」 若者たちの失業率は特に高く、40%を超える。約3%の日本とは比べものにならない。大学を卒業してもまともな仕事にありつけないため、そのままヤフーボーイとして生きていく若者も少なくない。そして詐取する対象は、米英など所得水準の高い先進国の人々であるがゆえ、レオンの口からはこんな本音も飛び出す。 「ロマンス詐欺を続けることに罪の意識は少なからずあります。でも生きていくために仕方がない。それに、先進国の人々からお金を騙し取っても、彼らは政府が支援してくれるだろうから、支援が見込めない僕たちよりは困らないはずだ」 その根底にあるのは、途上国と先進国の間に横たわる不公平感だろうか。レオンと同じ大学の卒業生であるジョセフ (仮名・27歳)は、私が取材できた唯一の成金だ。詐取した金額や被害者の詳細は明かさなかったが、ジョセフは仲間のヤフーボーイと高級住宅街に住み、真っ白いレクサスを乗り回していた。 家に案内してもらうと、玄関を入ってすぐのリビングルームは、天井までの高さが5mはあろうか。白い壁には大型テレビが設置され、学生とは明らかに異なる生活ぶりだった。取材の合間、ジョセフは、大麻草(マリファナの原料)を溶かした黄色い液体を飲み続けていた。 「パーティーの時にも同じ液体を飲むよ。僕はもう、詐欺はやっていない。信頼していた仲間に裏切られたから。代わりに暗号資産(仮想通貨)の投資にお金を注ぎ込んでいるよ」 投資の方法を教わるため、アラブ首長国連邦のドバイまで行ったという。 「暗号資産は外国為替みたいなもので、ロマンス詐欺とは違って法的には問題ないよ。今はそれで稼いでいるんだ」 海外の大手企業に詐欺をふっかけ、巨万の富を得た有名な「詐欺王」もいる。彼らのような″憧れ″の存在がまた、新たなヤフーボーイを生み出す土壌にもなっているのである。
『FRIDAY』2023年6月16・23日号より 取材・文:ノンフィクションライター・水谷竹秀
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