吊り橋崩落の原因はずさんな仮設計画、安定性考えず橋脚転倒

青野 昌行
 

日経クロステック/日経コンストラクション

補修工事中だった和歌山県白浜町の吊り橋が2023年2月に崩落した事故は、仮設計画の不備が原因だったことが分かった。施工者が安定性を検討せずにワイヤブリッジによる足場を橋脚頂部につないだ結果、橋脚がワイヤに引っ張られて転倒した。工事を発注した白浜町が23年6月6日、事故原因を町議会の全員協議会に報告した。

吊り橋の左岸側橋脚。周囲の足場と共に倒れた(写真:白浜町)

吊り橋の左岸側橋脚。周囲の足場と共に倒れた(写真:白浜町)

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 崩落したのは、日置(ひき)川に架かる人道橋の「小房(おぶさ)橋」。全長119.7m、幅1.5mで、1960年に完成した。老朽化に伴い、町は床版などを取り換える補修工事を日置川開発(白浜町)に発注した。

 施工者は、床版や桁などで構成する「床組み」を右岸側から撤去。延長101.8mの床組みのうち、残り7.8mとなった23年2月3日午後2時半ごろ、左岸のコンクリート製橋脚が、その上の鋼製塔柱と共に川に向かって倒れた。床組みやワイヤブリッジの上にいた作業員2人が5~6m下の河原に落ち、骨を折る大けがをした。橋脚は直接基礎で、杭などは設けていなかった。

ワイヤブリッジの足場を設けて、床組みの撤去を開始したところ(写真:白浜町)

ワイヤブリッジの足場を設けて、床組みの撤去を開始したところ(写真:白浜町)

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右岸から左岸に向かって床組みの撤去を進めた(写真:白浜町)

右岸から左岸に向かって床組みの撤去を進めた(写真:白浜町)

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 当初の町の設計では、主ケーブルと平行に張られた補助ケーブルから鉛直にハンガーロープを垂らして、床組みの下に吊り足場を設ける計画だった。しかし施工者は、現場での施工性などを考え、ワイヤブリッジによる足場を採用。両端のワイヤを橋脚頂部に接続するにもかかわらず、橋脚の安定性について検討していなかった。

町の設計では、補助ケーブルから鉛直にハンガーロープを垂らす吊り足場工法を想定していた(出所:白浜町の資料を基に日経クロステックが作成)

町の設計では、補助ケーブルから鉛直にハンガーロープを垂らす吊り足場工法を想定していた(出所:白浜町の資料を基に日経クロステックが作成)

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 そこで、町は事故発生後に橋脚の安定性を検証した。橋脚には、主ケーブルからの力の他、主塔と橋脚の自重が鉛直方向にかかっている。そこに、ワイヤブリッジからほぼ水平方向の力が加わる状態となった。計算の結果、最初は主ケーブルからの力が大きいので安定しているが、床組みの撤去を進めるとその力が小さくなり、橋脚を転倒させるモーメントがかかるようになると分かった。

ワイヤブリッジを架けた場合の力の伝達状況。検証の結果、床組みの撤去を進めると橋脚が不安定になると分かった(出所:白浜町の資料を基に日経クロステックが作成)

ワイヤブリッジを架けた場合の力の伝達状況。検証の結果、床組みの撤去を進めると橋脚が不安定になると分かった(出所:白浜町の資料を基に日経クロステックが作成

 

 

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